知っておきたい賃貸経営の法律豆知識 合意がなくても賃料の増減額を請求できる『賃料増減額請求権』

2026/10/30
周辺相場や経済事情の変動は、賃料増減額を判断する重要な指標となる
長く住み続けている入居者は賃貸オーナーにとってありがたい半面、家賃を上げるタイミングが難しいと感じたことはないだろうか。しかし、たとえば相場の家賃と乖離が生じた場合には、「賃料増減額請求権」という権利を行使できる。普通借家契約に関するインタビューに続き、吉田修平弁護士に同権利の使い方や注意点などを解説してもらった。(文/財部 寛子)
家賃を一方的に増減額請求できる権利
「賃料増減額請求権」とは、賃貸人と賃借人の合意をもとに家賃を改定するのではなく、賃貸人、あるいは賃借人が一方的に家賃の値上げ、あるいは値下げを請求できる権利のことだ。
賃料は原則として当事者の合意によって定められるが、長期の賃貸借では、その後の経済事情によって当初の賃料が不相当になることがある。
「賃貸借は長い期間の契約になることも多くあります。その間に、経済事情が大きく変動したり、社会の仕組みが変わったりします。そういった状況に合わせて、契約期間中であっても一方的に家賃の増減を請求できるというルールなのです」(吉田修平弁護士、以下同)
つまり、賃貸人側が「家賃を上げます」と賃借人に申し出たが、賃借人が増額に応じない場合には、最終的に裁判所で、増額請求が認められるか、また相当な賃料額はいくらかが判断されるというわけだ。もちろん、その逆も然りだ。
では、家賃の増減額を請求できる経済事情の変動などとは具体的にどういったものだろうか。
「土地・建物に対する租税その他の負担、土地・建物価格の変動その他の経済事情、近傍同種の建物の賃料との比較などです。歴史上の現象でいえば、昭和30~40 年代の高度経済成長期や平成2年を境としたバブル崩壊などが挙げられます」
一見、経済的な事情が影響しているように見えても、この権利を行使できないケースもある。
「たとえば、賃借人がインバウンドをターゲットにして、日本らしさを打ち出した店舗を開業したのですが、訪日外国人旅行者には不人気で売り上げが上がらず、賃借人が賃料増減額請求権で家賃の減額を請求したとします。しかし、個々の賃借人の営業成績の悪化は、それ自体では借地借家法第32条が予定する賃料減額の理由とはなりません」
権利の行使で注意する点は?
一般の賃貸住宅では、訴訟費用との兼ね合いから、賃料増減額請求権を行使して実際に訴訟まで進むかは慎重な検討が必要である。しかし、10年、20年と長く住み続け、家賃交渉にも応じてくれない賃借人がいる場合には、「賃料増額請求権」があることを把握しておけば役に立つかもしれない。ただし、この権利を行使する際には注意点がある。
「増額幅に法律上の一律の上限はなく、直近の合意賃料やその後の経済事情等を踏まえて相当額が判断されます」
また、前回の家賃の合意からある程度の期間を経ていなければ、増額は認められないという。
「更新の都度、家賃増額の努力をとくにしていないにもかかわらず、賃料合意書のようなものだけはきっちり交わす賃貸人がいます。しかし、その家賃で合意したとなると、それが“直近合意賃料”となります。直近の賃料合意からの期間が短く、その間に大きな経済事情の変動等がなければ、増額が認められにくくなります。ある程度の期間が経過していないと、『賃料増減額請求権』で家賃の増額は認められないことが多くなります」
「賃料増額請求権」は直近の賃料合意後の経済事情の変動等によって、現在の賃料が不相当となった場合に行使できるので、少しずつ家賃を増額してしまっているケースも「賃料増額請求権」を行使できないことがあるというわけだ。
ちなみに、契約期間が決まっている定期借家契約(普通借家契約に関するインタビュー記事を参照)でも「賃料増減額請求権」の行使はあり得る。たとえば、10年の定期借家の契約をしていたものの、契約当初から3~4年経ったときに経済状況が大きく変動し、相場家賃との乖離が大きければ、「賃料増減額請求権」で家賃の増額の請求は可能だ。
「ただし、定期借家契約に賃料改定に関する特約がある場合には、借地借家法第32条が適用されないことがあります」
幅広い知識を賃貸経営に活用する
ただし、賃貸オーナーが「賃料増減額請求権」を行使する場合に考慮しておきたいことが、“裁判は時間も費用もかかる”という点だ。
「賃借人に家賃の増額請求をして拒否されると、まず簡易裁判所に調停を申し立てるのが原則です。調停が不成立となれば、訴訟に移行することになります。訴訟では、不動産鑑定が行われることもあります。もちろん、それまでにもさまざまな書面のやりとりが行われます。最終的に裁判官に和解を提案されたり、そうでなければ判決を下されたりといった局面に達するまで、1年以上の期間を要することもあります」
裁判となると、当然、弁護士費用も必要になる。そう考えると、一般的な賃貸住宅での「賃料増減額請求権」の行使はなかなかハードルが高いといえる。
「しかし、親から相続した賃貸アパートの家賃が親の代から据え置きで、あまりにも安すぎるために『賃料増減額請求権』の行使を考えるといったパターンは考えられます。あるいは、実際に行使しないまでも、賃料水準を見直す交渉の際の法的な選択肢として、『賃料増減額請求権』を知っておくことには意味があります。また、定期借家契約への切り替えを促す機会になるかもしれません」
賃貸オーナーがこういった知識を幅広く身につけておくことは、今後の賃貸経営に大きく役立てることができるのではないだろうか。
この記事を書いた人
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