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若者はなぜ「レトロ」に心惹かれる? レトロブームを巻き起こしている昭和時代前後のものや文化の魅力

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人工知能(AI)、生体認証、IoT、5G......。さまざまな分野で最新の技術が発展し続け、そのたびに私たちを驚かせています。しかし近年、若い世代(10~20代)を中心とした「レトロブーム」が起きていることをご存じでしょうか。昭和の雰囲気が息づく銭湯や純喫茶、茶屋街へ訪れる人を見ていると妙に若者の割合が高かったり、あえて古着を着こなしていたり、ひと昔前のデザインの雑貨が売られていたり......。この令和の世の下で、一体なぜ「レトロブーム」は巻き起こっているのでしょうか。(文/安本 夏未)

レトロの定義とブームの中心世代は

「レトロ」とは、もともとは英語の「retrospective(過去にさかのぼっての、回顧の)」の略語です。主に“追想にふける”、“懐古的”といった意味で使います。「レトロ」と混同されやすい単語として「アンティーク」や「ヴィンテージ」がありますが、「アンティーク」は100年以上経過した美術品や骨董品などを指し、「ヴィンテージ」はもともとワインの製造年を表す用語だったものが最近はファッション用語としても広く使われるようになり、具体的に経過年数は定められていませんが“古くて価値の高いもの”といった意味です。

現在、日本で流行しているレトロは、主に昭和~平成初期の物品や文化を指し、その流行の中心は10~20代の若者です。そしてここで「おや?」と気付いた方もいるかもしれません。そう、レトロブームを巻き起こしている中心の若者たちは、そのブームの対象である昭和~平成初期の時代を生きていない、せいぜい物心のついていない赤ん坊ほどの年頃だったはずの年代です。それにもかかわらず、若者の間で「懐かしい」という感情を呼び起こし、「エモい」という英語の
「emotional(感情的な)」が由来の造語が生まれるほどに、レトロは若者を魅了しています。

若者を魅了するレトロ どのようなものが流行?

では、昨今のレトロブームではどのようなものが話題に上っているのでしょうか。

比較的身近な例を挙げると「純喫茶」が思い当たります。純喫茶とは、コーヒーに関連のないサービスを設けず、“純粋に”コーヒーを楽しむための喫茶店を指し、喫茶店営業許可の規律によりお酒の提供ができません。ちなみに「カフェ」は、飲食店営業許可の規律上お酒の提供が認められています。モダンな雰囲気でお酒も気軽に楽しめるカフェではなく、重厚な雰囲気でレトロな内装の純喫茶に訪れ、クリームソーダやナポリタンといった昭和後期以前に流行したメニューを注文し、楽しそうに撮影してSNSにアップロードする若者は多いです。


懐かしさを感じる純喫茶のクリームソーダ

身近な別の例を挙げるとするなら、昭和後期に流行した作品である「ゲゲゲの鬼太郎」や「うる星やつら」などのアニメが令和になってからリメイクされたり、昔ながらの銭湯ではおなじみの「ケロリン」の桶やグッズが駅ビルのバラエティショップの目立つ区画で販売されていたり、さらには菓子類や飲料で復刻版のパッケージがたびたび限定発売されたり......。ジャンルも多岐にわたりますが、明らかに新しくない物品や文化が若者にとっては「自分たちにとっては新しい、なのに懐かしい」という気持ちにさせています。そして時代はさかのぼりますが、レトロな雰囲気の街も観光地として人気を集めています。 たとえば金沢の茶屋街や、小江戸と表現されている川越の一番街商店街が挙げられます。昔ながらの趣が魅力的なこれらの街が注目を集め、結果的に大きな経済効果をもたらしています。いずれも暖かな時期には、浴衣や袴を身に着けた若いグループが街を散策する姿がしばしば見受けられます。


石川県金沢市の「ひがし茶屋街」

また、建築の分野において、近頃は古民家が人気ということをご存じでしょうか。一般的には築50年以上の伝統的な木造軸組工法で建てられ、茅葺屋根や草葺屋根、日本瓦葺き屋根、土間、太い梁がある家を古民家と呼ぶことが多いです。最近は古民家を改装したカフェが人気ですし、引っ越しの面においてもあえて古民家に住む選択をする方もいます。実はウチコミ!独自で調査したところ、ウチコミ!サイトに流入してくる入居希望者の検索ワードのうち、この「古民家」というキーワードの人気が突出して高いという結果が出たのです! そして古民家ブームに乗じ、物件を所有している大家さんのなかにはご自身の物件が古民家であることをセールスポイントにしたり、比較的新しい物件でもあえてレトロ風なデザインのリノベーションをして付加価値を与えたりする方もいるようです。


古民家のイメージ。レトロさを感じる内装が魅力

想像以上に私たちの生活に溶け込んでいるレトロ。実際にそれらの物品や文化がもともと存在していた時代を生きていなかった若者たちほど「懐かしい」と魅了されているように見えます。その理由は一体どこにあるのでしょうか。

アナログなレトロとデジタル社会との関係

若者を中心としたレトロブームが起きている理由のひとつとして、「安心感」が挙げられると考えられます。1人1台のスマートフォンを持つのが当たり前となった現代では、さまざまな情報がひっきりなしに手に入り、SNSなどを通じて常に他者とつながっている状態です。そして個人差はあれど、情報の過多や常に誰かとつながっていることに対するストレス、時には欺瞞に踊らされることによる嫌悪感を抱くこともあります。そんななかでレトロさを感じる物品や文化は、そういった現代のしがらみを忘れさせてくれるような存在となっているのではないでしょうか。現時点でレトロという言葉が指す昭和時代は、新しい物品や文化に対する懐疑的な見方や社会的なプレッシャーが少なく、その文化には安心感や懐かしさを思わせる独自の魅力があるため、一時的な安らぎを求めて“レトロ”が注目されていると考えられます。

また、現代はアナログよりもデジタルが主流のいわゆる「デジタルネイティブ」の世代であり、人間が手を煩わせなくても完璧に役割をこなしてくれるものが当たり前に生活に取り入れられています。もちろんそれらは暮らしやすさや仕事の能率アップにつながり、今となっては必要不可欠です。しかし、不完全でアナログでもあえて手間暇をかけて何かを生み出すことで思い入れが強くなり、楽しさや面白さといったプラスの感情が生まれることもあります。

「桜が散る風景は美しい」という感性を持つ日本人だからこそ、不完全で儚い(完璧ではない)もの、つまりアナログなものに魅力を感じ、その最たるものであるレトロが若者の間でブームになっているのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

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