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賃貸・水道パッキンの交換は入居者が負担するって、正しいの?

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蛇口から水がポタポタ。解決はしたものの……

ある賃貸マンションでのトラブル事例を紹介しよう。

入居者であるAさん(30代・女性)が暮らす部屋のキッチンで、ある日、こんな問題が発生した。水道の蛇口のハンドルをどれだけしっかり閉め切っても、

ポタ、ポタ、ポタ……

しずくが止まらないのだ。

1分間に3度くらいごとに、それがシンクの底に当たり、とてもうるさい。

だけでなく、

「このままだと水が無駄になる。水道代にも響くかも……」

Aさんは、早速管理会社に連絡し、修理を依頼したという。

すると、ほどなく業者が道具を抱えてAさんの部屋にやってきたそうだ。

「蛇口の内側にあるパッキンが長い間使われて劣化しています。取り換えますね」

テキパキと作業し、しずくを止めたうえで、

「これで大丈夫です」

帰っていったという。

ところが、その約半月後、予期せぬことが起こった。Aさんのもとに、封書が1通届いたのだ。差出人は管理会社となっている。

見ると、中身は請求書だ。内容は水道の修理代。先日の水漏れを直してもらった分だ。

部品の代金と作業料を合わせて3千数百円。ビックリするほどの額というわけではないが、そこそこの金額がそこには明記されていた。

Aさんは驚き、すぐに電話をかけたそうだ。

「ちょっと待ってください。なぜ水道の修理代を私が負担しなければならないのですか?」

「水道は私の持ち物ではありません。エアコンや給湯器と一緒です。部屋に元から備え付けの設備です。むしろ、エアコンや給湯器以上に、お部屋とは一体といっていいはずです」

「それが、今回は自然に劣化して壊れただけなのに、私が代金を請求されるのはおかしいのでは? 全く納得がいきません」

厳しく抗議したという。

ちなみに、Aさんがそう言って怒るのも無理はない。なぜなら、Aさんはその半年前にも、部屋に備え付けられたある設備の修理を管理会社に依頼していたのだ。

エアコンだ。

冷房が効かなくなり、その旨連絡したところ、今回と同様に業者がやって来て状態をチェックした。結果――

「ガスチャージ(補充)が必要です。劣化した部品の交換も」

早速、それをしてもらったという。

「ですが、私はその時1円も請求されていませんよ。エアコンはお部屋に備え付けの設備だからですよね? 私の所有物ではありません。借りているもので、家賃の対象です。なので、自然に壊れたら、直す責任は大家さんにあるんだと思います。それと、今回の水道とではどこが違うんでしょう?」

ところが――、管理会社の若いスタッフ、冷静な口調でこう返してきたという。

「お手数ですが、Aさん、契約書を見てもらえますか」

法律は入居者の負担を認めています

「え、契約書?」

「そうです。いま借りていらっしゃるお部屋の賃貸借契約書です。その中に、『契約期間中の修繕』と、書かれた部分があるかと思います。こう記されてはいませんか?」

――抜粋しよう。

「第〇条〇項 借主は、別表に掲げる修繕については、自らの責任において行うこととし、これに要する費用も負担すること」

以下が「別表」の内容だ。

  • 「蛍光灯・電球の取り換え」
  • 「水道蛇口のパッキンの取り換え」
  • 「バスルームのゴム栓・チェーンの取り換え」
  • 「ヒューズの取り換え」
  • 「その他、費用が軽微な修繕」

その上で、スタッフ曰く、

「ご覧のとおりです。水道蛇口のパッキンの取り換えは、契約上、借主である入居者さんにご負担いただくひとつとなっています。つまり、入居者さんご自身が部品を買って、自ら修理されるか、それが出来なければ、今回のように業者さんに依頼というかたちになるわけです。なので、すみませんが、先日の分はAさんに費用をご負担いただくことになるわけです」

加えて――

「Aさんは、以前のエアコン修理と今回の水道のパッキンの交換は同じだとおっしゃいますが、そこもちょっと違うんです。たとえば、Aさんはこれまでに、お部屋の照明が切れたり、古くなったりした際、ご自身がお金を払い、新しい蛍光灯やLEDランプをお買いになって、なおかつ、ご自身でこれを取り換えたことはありませんか?」

「はい。ありますけど……」

「それと、今回の水道のパッキンは同じ扱いなんです。こうした賃貸物件の部分的で小さな修繕については、入居者さんに負担してもらってよいというのが一般的な法解釈です。それを示す判例もちゃんとあります。なので、お手元の契約書の内容もそれに沿っているわけです」

「――その上で、今回お届けした請求額は、水道の出張修理の料金としては安い方だと思いますよ。おそらくAさんが過去にご自身で取り換えたとおっしゃるLEDなどに比べても、変わらない程度かと思います」

ここで、Aさん、残念ながら、

「そうですか。分かりました……」

“撃沈”となったそうだ。

「納得いきませんが、契約書には確かにおっしゃるとおり書かれていて、私も署名、捺印しています。……今回は払います」

エアコンと水道のパッキンでは何が違うのか?

さて、以上のAさんのエピソードを読んで、

「私(僕)の部屋の契約書は……?」

急に心配になった読者もいることだろう。ぜひ、確かめてみてほしい。

どうだろう?

Aさんの契約書と同じような記述が「ある!」という人も、おそらく結構いるはずだ。

つまり、先ほどの管理会社の説明は、結論として正しい。

  • 「水道蛇口のパッキンは、ダメになったのなら入居者が取り換えろ」
  • 「費用も出せ」

は、契約として、実際に有効だ。

なおかつ、これが有効であるがゆえに、そうした約定が記されている建物賃貸借契約書も、実際に少なくないということになるわけだ。

ただし、民法606条を見てみよう。第1項にこう書かれている。

「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。」

このとおり、賃借人自らがそれを壊すなどしたわけでないのならば、「賃貸物の使用及び収益に必要な修繕」は、賃貸人が行わなければならない。

すなわち、賃貸住宅であれば、賃借人(借主・入居者)がそこで普通に暮らす(=使用収益する)ために必要な修繕は、賃貸人(オーナー・大家)が行うべきことが、上記の文言からは明らかとなっている。

そのうえで、Aさんの事例のように、修繕のために費用がかかったとしよう。

すると、今回、管理会社は、おそらく立場上オーナーを代行するかたちで業者に出張修理を依頼したはずだ。であれば、同社は請求書をAさんにではなく、オーナーにこそ送らなければならなかったことになる。

ところが――だ。

興味深いことに、その理屈が「水道のパッキン交換」では通らないというのが今回の話なのだ。

どういうことなのか?

ちなみに、Aさんの借りている部屋の場合、過去のエアコン修理ではこの理屈はちゃんと通っていたらしい。なぜなら、前記したとおりAさんはこの時、修理費用を請求されていないのだ。

エアコン修理と水道のパッキン、一体何が違うというのだろうか?

民法606条第1項は「任意規定」

答えを言おう。

2つ見られる答えのうち、まずは、より納得性の高い方だ。

民法に書かれていることが、上記に述べたとおり、現実には堂々と“覆されている”理由、それは、民法606条第1項が「任意規定」であると理解されている(司法に関わる世界一般において)からにほかならない。

任意規定とは?

簡単にいうと、「その法律の規定に従わない取り決めであっても、当事者同士の合意のもと、それを交わすことが許される法律」のことをいう。

そんなものあるの――? と、ここで驚く人も多分いると思うが、たとえば、分かりやすいのが民法第633条だ。

ここでは、「(請負にかかわる)報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない」と、規定されている。

それでも、実際は誰もが知るとおりだ。

たとえば「後払い」や「前払い」、「分割払い」など、これに従わないかたちでの契約が世のなかではさまざまに交わされている。なおかつ、それを違反だと、いちいち指摘する声があるわけでもない。

よって、民法606条第1項についても同様だ。この定めに反して、

「賃貸物件の修繕義務を賃貸人は負わない(一切負わない)」

などと、そんな一方的な約定を契約の中でオーナーと入居者が交わすことも、理論的には可能となっている。

それゆえに、これを常識的レベルに抑えたかたちとして、

「大きな修繕はともかく、小さな修繕くらいは入居者さんが負担してください」

――これを堂々謳ってよいことになっているというのが、このことの結論だ。

ちなみに、小さな修繕=小修繕については、入居者負担にするのと同時に、その実行を入居者の任意ともしておけば、入居者としてはいちいちオーナーから承諾を得る手間が減り、その点、楽にはなる。

そのため、実際の契約書では、「小修繕の借主負担」と「その際の貸主への通知義務免除」は、セットで規定されているケースがほとんどだ。

ただし――、ここで大事なことを添えておく必要がある。

修繕義務を賃貸人は一切負わないとの約定も理論的には可能といま述べたが、これはあくまで理屈だ。いかなる修繕でもオーナー側はこれをせず、入居者の負担とする契約が、常に自由に結べるのかといえば、そういうことにはならない。

なぜなら、オーナーは、普通に賃貸経営を行っているのならば、通常はそれなりの、相場の範囲程度と言える家賃を先ほどの「使用収益」の対価として、入居者からもらっている。

にもかかわらず、そうした一方的な契約が交わされるのは、たとえそれを入居者側が承諾したとしても、さすがに公序良俗的な観点から問題となるだろう。

具体的には、民法第1条の「信義則」に反することになり、併せて、消費者契約法に触れる事態となることも予想される。

そんなわけで、まとめよう。現在ある線引きを考えるとこうなる。

エアコン修理と水道のパッキン、一体何が違う――?

  1. 今回の議論でAさんが指摘した、過去のエアコン修理は、民法606条第1項が任意規定であることをもってしても、これを入居者負担とするのは難しい。許されそうもない。
  2. 一方、水道のパッキン交換は、入居者が負担すべき軽微な“小修繕”としておいても、許されそうだ。

――そんな判断が、賃貸住宅関連業界では過去より現在までにおいて広く行われているものと言えるだろう。

そもそも水道のポタポタは、大したことじゃない?

一方、もうひとつの答えだ。こんな考え方も時折目にする。

「水道のパッキンが劣化し、しずくが漏れるくらいのことでは、そもそも賃貸住宅の使用収益は損なわれない」

民法606条第1項は任意規定――の話を持ち出す以前に、水道パッキンの劣化や、その他同程度の設備の不具合については、それ自体がオーナーに修繕義務が及ぶほどの問題にならないとの解釈だ。

つまり、これに沿えば、契約の中で任意規定をよりどころにオーナー側の逃げ道をつくること(Aさんの事例のような)、それ自体が不要となる。

だが、この考え方は、古い判例なども論拠としているようだが、いささか雑と言えなくもない。

なぜなら、使用収益が損なわれているかどうかの判断は、たとえば水道パッキンの場合、パッキンの劣化そのものに拠るのではなく、それによって生じている影響の度合いによってなされるべきものだからだ。

すなわち、水漏れによるしずくの落下とそれによる騒音や水資源の無駄が、10秒に1度ずつ起きている場合と、30分に1度の場合とでは、入居者が受ける“被害”の状況がまるで違ってくる。

よって、小修繕=入居者負担とする根拠としては、さきほどの「任意規定」を専一に持ち出しておいた方が、いわば堅実ではないかというのが本稿執筆者の意見となるが、どうだろうか?

ヒューズって何?

以上、ある賃貸マンションに住むAさんの事例をもとに、賃貸住宅の契約における、ちょっと面白い(?)判断を深掘りしてみた。

Aさんとしては、ビックリ、ガックリの事件となったが、結論は、残念ながら述べてきたとおりだ。

最後に、余談を付け加えたい。

再掲しよう。Aさんの手元の賃貸借契約書には、借主が自らの責任において負担すべき修繕として、こんなリストアップがされていた。

  • 「蛍光灯・電球の取り換え」
  • 「水道蛇口のパッキンの取り換え」
  • 「バスルームのゴム栓・チェーンの取り換え」
  • 「ヒューズの取り換え」
  • 「その他、費用が軽微な修繕」

ちなみに、これは国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」での記載におそらく倣っているもので、それだけに多くの管理会社や仲介会社が使う契約書においても、似た内容が散見されるものだ。

そこで一点、4番目の項目に見える「ヒューズ」とは何か?

特に若い方、分かるだろうか?

これは、電気回路に付属する、安全のための小さな部品で、昭和の昔など――

  • 「ヒューズが切れた」
  • 「買いに行け」

は、あちこちの家庭でたまに聞かれる会話だった。

だが、いまはこれを知らなくとも、大抵安心していい。

賃貸物件含め、われわれが現在暮らす多くの住宅では、部品交換の手間が通常は生じない、スイッチ式のブレーカーが、代わりを担ってくれているはずだ。

ところで、そう思えば、こうしたリストの中に水道パッキンの交換があるというのも、なにやら話が古いような気がする。

ちなみに、この作業は素手ではまず出来ない。

どこの家にもスパナやプライヤーといった工具類がひととおり揃っていた上に、水道蛇口――水栓がいまのように多様化、高機能化しておらず、素人でも修理しやすかった時代の考え方が、ここにはどうも漂っている雰囲気がある。

それでも、契約は契約だ。

シングルレバーの混合栓――どころか、センサー付きの最新型水栓などといった構造の複雑なものが、もしも部屋に備え付けられている場合でも、契約書に「水道パッキンの交換は入居者負担」の決まりがあれば、それは通ってしまうことになる。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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