貸し手市場のいまこそ、オーナーにおススメしたいこと

2026/07/28
貸し手市場化が進む賃貸マーケット
首都圏など大都市部を中心に、家賃の上昇が依然として著しい。
賃貸住宅オーナーも多くが知るとおり、建物が経年劣化し、家賃が本来下がるべき分を含んだうえでも、それを上回って家賃が上昇する「貸し手市場」が、久しく続いている状態だ。
そんな環境の中、意欲あるオーナーにぜひ取り組んでみてはどうかと、おススメしたいアイデアがある。
それは、賃貸住宅を社会におけるよりよい住まいにするための工夫だ。
長いデフレのもと続いたかつての借り手市場の時代、少なくない数のオーナーが関心を持ちつつも、踏み出せなかった、前向きなアクションとなる。
「マナー同意書」の運用だ。
それを試してみるチャンスが、オーナー優位の市場となったいま、われわれの目の前に訪れている。
マナー同意書とは?
「マナー同意書」は、すでに10年以上前から世に知られているものだ。
旭化成ホームズ株式会社が2014年6月より販売を開始した、単身女性向け賃貸マンションシリーズ「New Safole」(ニューサフォレ)に採用されたことで、当時、業界内を中心に話題となった。
この物件では、入居者は、契約の際に「マナー同意書」なる書面へのサインを求められる。
内容はこうだ。
- 「生活マナーの遵守と、自覚・責任ある行動」
- 「物件内の異常や、他の入居者に緊急の事態が生じた際は、警察・管理会社等へすぐに報せること」
- 「災害時における入居者同士の積極的な助け合いを約束」
- 「自身の暮らす住戸、および共用部分を大切に扱うこと」
これら、集合住宅で住人同士が互いに快適に生活するための約束ごとを自ら守り、共有できる人物であることを宣言してもらうかたちとなる。
この仕組みが関心を呼んだポイントは3つある。
ひとつは、物件の差別化だ。
入居希望者に対し、そこが安心して暮らせる住まいである旨をアピールできること。上記のような内容の書面にサインしている人ばかりが住んでいる物件ということで、新たに入居したい人にとっては、当然ながら、生活上の安心・安全が期待できることになる。ひいては、募集の効果にもつながるわけだ。
さらには、好ましくない人物の排除。
マナー同意書へのサインを嫌がる人、躊躇する人というのは、とりもなおさず、自らが周りに迷惑をかけず、周囲と積極的に助け合うことに自信が持てない人となる。であれば、入居は初めから遠慮してもらうのが、他の住人にとっても当人にとっても、ベターな選択となる。
3つめは管理のしやすさとなる。
管理会社やオーナーは、マナー同意書を元に、約束を守れない入居者への注意や指導、指示がしやすくなる。同時に、ほかの入居者も、それを求める声を挙げやすくなるわけだ。
高い関心―――だが、あまり真似されなかった理由
そんな、優れたマルチな機能(?)を備えたマナー同意書だが、関心を集めつつも、なかなか他へ普及はしなかった。
よいアイデアと評価されつつも、これを真似する管理会社、あるいはオーナーも、その後増えた様子は見られなかった。
そのもっとも大きな理由と見られるのが、かつての借り手市場となる。
借り手市場においては、契約の際にあれこれ条件を加えることで、入居自体を逃すことを怖れるオーナー、管理会社の想いがおしなべて強かった。
そのための仕事が増すことも(同意書へのサインの依頼、説明)とりわけ管理会社にとっては、負担に感じられただろう。
なお、こうした構造は「定期借家」ともよく似ている。
定期借家は、貸し手市場化が進む現在、採用する物件が目立って増えてきている。
一般的な「普通借家」とは逆に、建物賃貸借契約において、オーナーが明らかに有利な立場に立てる契約形態となる。
そのため、入居者優位の時代においては、長年にわたり、定期借家は広がりを見せなかった。
加えて、管理会社も、手間が増すため、多くがこれを積極的に手掛けようとはしなかった。
しかし、いまそんな状況が変わってきている。
賃貸マーケットの貸し手市場化が進展するのにともない、定期借家物件も、随時割合を増している状況だ。(参考記事:増える定期借家。高家賃帯と低家賃帯、「両端」で割合が増す理由)
そうしたわけで、定期借家や、あるいはよく話題にのぼる家賃の値上げ同様、いまはオーナー側の希望が通りやすい状況にある。
「マナーを守ることについて、入居者に約束、宣言してもらい、その人自身を含めたみんなの利益にしていきたい」
そんなオーナーの想いをかたちにし、進めてみるよい機会が訪れているということだ。
ちなみに、さきほどの「New Safole」は、前述のとおり女性専用で、かつハイクラスな物件となる。
マナー同意書のような仕組みへのニーズは強いはずで、その中身である各々の約束を守れる入居者も多いだろう。
だが、それだけではない。
マナー同意書は(ここは配慮なく言ってしまうが)こうした層とは逆の客層に向けた物件でも、効果が発揮されるもののはずだ。
理由は、さきほど挙げた3つのポイントのうち、2番目(排除機能)と3番目(管理のしやすさ)が、そうしたマーケットではものをいうからだ。
誰も来てくれない消防訓練
先日、あるオーナーがこんなことをボヤいていた。
「毎年、消防避難訓練をやっているが、入居者がほとんど参加してくれない」
と、いう。
このオーナーの所有する物件は、鉄筋コンクリート5階建てで、最上階は自らの居宅となっている。
そのうえで、当該オーナー宅を含む居住用が十数戸、店舗が3フロア。
いわゆる賃貸併用住宅のうちの、やや大型のものとなる。
例年、消防署の指導のもと、消火器の取り扱いや、避難経路の確認、緊急時の通報のしかたなどを共有する訓練を行っているが、手紙や張り紙でオーナーが何度呼びかけても、
「居住用部分に住む人は1人も来てくれない」
のだそうだ。
そのため、当日いつも現れるのは、各店舗に勤める店長と、増えても従業員が数人のみという。
「各階に設置してある消火器の使い方だけでも皆さんが学んでくれたら、いざという時、とても心強いんですが……」
加えて、オーナーの本音としては、
「自分と家族の身の安全を考えた上でも、火災に対応できる入居者が多ければ多いほどうれしい」
と、なるだろう。
なにしろ、彼らはこの物件でもっとも火災からの避難がしにくい最上階に住んでいる。
すなわち、マナー合意書には、こうしたオーナーの想いも盛り込んでいいのだ。
たとえば、入居者には書面の中で、
「自身および他の入居者の安全のために、消防・避難訓練には積極的に参加します」
と、宣言してもらうことになる。
そのうえで、
「そういう集まりは、私ちょっと苦手で……」
そんな人には、初めからご入居いただかなくともよいのだ。
オーナーのそうした意志、あるいはわがままを通せる市場環境が、いま大都市部を中心に生まれているということだ。
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室
























