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入居拒否とコンプライアンス

森田雅也森田雅也

2026/08/08

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他人に物件を賃貸するにあたって、借主がどのような人であるかは貸主にとって重要な情報です。入居を希望する人の属性によっては、貸主として賃貸借契約の締結を躊躇する場合があるかもしれません。しかし、入居希望者を拒否する理由によっては、その入居拒否という行為自体が違法と判断される場合が考えられます。

今回は入居拒否に関する原則と例外、実際に入居拒否が問題になった事例および他人に物件を賃貸するにあたって気を付けるべきことなどについてご紹介します。

入居可否の判断の原則と例外

日本の法律上、契約とは当事者同士の意思表示が合致することによって締結されるものであって、原則として、誰もが自由に契約を締結することができます。この原則を一般に契約自由の原則といいます。そして、人が契約を締結するにあたって、誰を相手方とするか選ぶ自由も契約自由の原則に含まれます。そのため、貸主が誰を相手に賃貸借契約を締結し、入居を許すかについても基本的には自由です。

しかし、このような契約自由の原則も無制限なものではなく、個別の法律などによる制約を受けます。他人に物件を貸すにあたって、自分にとっては何気ない理由で入居を断っていたとしても場合によっては法令違反にあたり、思わぬトラブルや損失に発展する可能性があります。

以下は、どのような理由で入居拒否をすると法律違反となり得るかについて説明します。

外国人であることを理由とする入居拒否

現在、在留外国人の割合が増加傾向にある現代日本において、度々問題とされているのが外国人であることを理由とする賃貸物件の入居拒否です。外国人であることをもって入居拒否をすることの是非は、実務上はっきりした結論があるわけではありません。しかし、これまでの裁判例などを確認してみると、違法と判断される可能性があるといえます。

まず、大阪地裁平成5年6月18日判決では、マンションの貸主が入居希望者との間で賃貸借契約締結に向けた交渉を進め、契約締結への期待が高まった段階で、入居希望者が外国人であることを理由に契約締結を拒否した行為について不法行為責任を認めました。また、同種の事案(京都地裁平成19年10月2日判決)においても、入居を拒否した貸主の行為が入居希望者に対する不法行為にあたると認めました。

さらに、神戸地裁尼崎支部平成18年1月24日判決においては、上記2つの事案と異なり、賃貸借契約の比較的交渉初期の段階であったにもかかわらず、入居希望者が外国人であることを理由に貸主が入居を拒否したことについて、不法行為責任を認めました。

以上の裁判例を踏まえると、日本の裁判所は賃貸物件の入居希望者に対し、外国人であることを理由に入居を門前払いすることや交渉を打ち切るようなことは、不当な差別的取扱いであると判断するのが基本的な姿勢であると考えられます。

先述のとおり、どのような対応が外国人に対する不当な差別的取扱いにあたるかは未だに定まった基準がないところではあるものの、外国人であることを理由に入居拒否をすること自体、違法と判断され、場合によっては損害賠償責任を負うリスクのある対応であるといえます。

障害者であることを理由とする入居拒否

近年、障害者に対する不当な差別を解消しようと、行政などによってさまざまな活動が行われていますが、それでも、障害者への偏見は完全に払拭されているとはいい難いのが現状です。しかし、そのような偏見が払拭されていないからといって、入居希望者に対し障害があることを理由に入居を拒否してよいわけではありません。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律は、障害者に対する不当な差別的取扱いを禁止しています(同法8条1項)。不当な差別的取扱いにあたり得る行為の具体例について、国土交通省がガイドラインを公表しており、これによると、物件広告などに「障害者不可」と記載するような行為が不当な差別的取扱いに当たり得るとされています。
場合によっては行政による指導などの対象になることも考えられますので(同法12条、26条)、正当な理由なく障害者の入居を拒否することは、避けるべきといえます。

性的指向・性自認を理由とする入居拒否

不動産賃貸という場面においては、近年においても、性的マイノリティに対する不当な偏見が見受けられます。以下では、性的指向・性自認を理由とする入居拒否が違法となるかについて解説します。

結論からいうと、性的指向・性自認を理由とする入居拒否は裁判所によって違法と判断される可能性があると考えられます。

まず、民間の住宅賃貸という分野においては、性的指向・性自認を理由に入居を拒否することを直接違法と判断する法律は現状ではありません。また、性的指向・性自認を理由に貸主が入居を拒否した場合に、かかる入居拒否を違法ないしは不当な差別であると直接的に判断した裁判例も存在しません。そうすると、性的指向・性自認を理由とする入居拒否は法律に抵触しないとも思えます。

しかし、性的指向・性自認に関する近時の司法の動向として、以下のようなものがあります。

まず、法制度については、令和5年6月に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が制定されました。この法律によって、事業主等は、雇用する労働者の性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解の増進に努める義務を課されるなど、雇用の場面における差別解消の動きが進められました。

次に、裁判例についてみると、東京高裁平成9年9月16日判決において、同性愛者の団体からの公共的施設への利用申込みを教育委員会が不承認とした処分を違法とする判決がなされています。その後も、令和5年から令和7年にかけて、複数の裁判所において、同性婚を認める法制度が整備されていないことが違憲又は違憲状態であると判断されています。また、トランスジェンダーに関する裁判例をみると、最高裁第三小法廷令和5年7月11日判決において、戸籍上の性別が男性であるトランスジェンダーの経済産業省職員に女性トイレの使用を制限した国の行為について、裁量権を逸脱した違法なものであるという判断がなされました。

以上の法制度や裁判例は、先述のとおり、民間の住宅賃貸に直接関係するものではありません。しかし、これらの動きをみれば、裁判所が、合理的な理由なく性的指向・性自認のみを理由に個人を不利に扱う行為を、違法であると評価する可能性は高まっているといえます。そうであれば、性的指向・性自認を理由に入居を拒否することについても同じことがいえると考えられます。

仮に、入居拒否をした相手から慰謝料請求訴訟を提起され、それが認められたとすれば、経済的打撃を受けるだけでなく、賃貸物件オーナーとしての世間からの評価にも影響が及ぶ可能性があります。かかるリスクを回避するためにも、性的指向・性自認を理由とする入居拒否はしないことが望ましいです。

貸主としてとるべき対応

これまで述べてきたとおり、貸主の偏見や差別意識に基づいて入居希望者の入居を拒否することは、違法とされる可能性があり、経済的側面をはじめ、賃貸事業を継続するうえで大きなリスクとなり得ます。入居審査とはあくまで、入居希望者の身元を確認し、賃料を継続的に支払う経済的能力の有無などを審査する手続きです。入居の動機や保証人の有無、勤務先など必要な事項はよく聞き取ったうえで、個人の偏見を挟まないよう適切に契約締結の判断を行うことを心掛ける必要があります。

一方、差別意識の有無にかかわらず、入居希望者が賃料を適切に支払ってくれるか不安があるといった場合は、家賃債務保証会社を利用することで、家賃の回収可能性を高める体制を整えるといった手段を検討しましょう。

家賃保証だけでなく、障害者に対応するためのバリアフリー設備設置のための行政支援など、貸主の事業をサポートする制度はさまざまなものがあります。これらを適宜利用し、効果的に不動産を運用しましょう。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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