北海道新幹線は工事中止。私大は4割減らすべし。財政制度等審議会が掲げる大胆な各論

2026/05/21
北海道新幹線は工事を中止すべき?
4月の下旬、こんなニュースが各メディアを賑わしたのを覚えている人も多いだろう。
「財務省―――北海道新幹線の延伸については、プロジェクトを中止すべき水準にあると示す」
このまま工事を続け、完成させても採算が成り立つとは思えないので、今からでもやめた方が国が被るダメージが浅く済むということだ。地元を中心に、衝撃を受けた方が大勢いることだろう。
この話の出どころだが、以下の資料となる。
「財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)財政制度分科会・4月23日開催資料『人口減少社会の中での総合的な国力の強化(財政各論Ⅰ)』」
原文を抜粋しよう。
「北海道新幹線については、トンネル工事の長期化等により、事業費が更に最大1.2兆円程度増加することが公表されている」
「それを機械的に反映すると、当初1.1だった事業全体のB/Cは単純計算で0.6程度となることが見込まれる。(中略)国土交通省の再評価基準に従えば、基本的にプロジェクトを中止すべき水準」
なお、B/CのBとはbenefit(便益)のこと。Cはcost(費用)を指す。
よって、B/C(費用便益比)が1よりも下がれば、その事業は単純に言って損が生じるプロジェクトとなるわけだ。
そのうえで、試算すると、北海道新幹線の事業全体でのB/Cは、
(B)1兆9014億円 / (C)3兆209億円 = 0.63
このとおりであれば、たしかに前途厳しすぎる数字というほかない。
なお、こうした指摘や提言を受け、仮にだが、北海道新幹線の延伸工事が実際に中止されるとしよう。
(何か天変地異でも起きない限りありえないことだが―――いわゆるサンクコストの悲しみに社会が耐えられないため)
その際は、リソースの一部を札幌――新千歳空港間に振り向け、ここに新幹線をこしらえておくのがよいと筆者は思っている。
国の課題を網羅
さて、以上の北海道新幹線にかかわるショッキングな内容が提示されたこの資料だが、総合的な国力の強化がテーマということで、当然ながら中身はこれだけで埋まってはいない。
わが国の労働生産性に始まり、地方自治体の行財政、人材育成、医療・介護、住宅、防衛等々、さまざまな分野にわたっての国の課題が網羅された、範囲の広いものとなっている。
その中から、筆者が興味深く思うものをいくつか拾っていこう。
私立大学は少なくとも4割削減せよ
こちらも、大手メディアの報道によって知ったという人が多いかもしれない。
「財務省は、2040年までに少なくとも私立大学を250校減らす必要があるとの数値目標を公表した」と、いうもので、その後も賛否入り混じっての議論を呼んでいる。
なお、原文にはこんな添え書きもある(一部補正)。
「学生10万人当たりの高等教育機関数を米、英、独、仏、韓の平均値(約22校)まで一定のペースで減少させると仮定した場合は400校程度となる」
すなわち、250校はあくまで最低限必要なくらいの数字であって、できればもっと減らすのがよいのではないかということだ。
なお、わが国の私立大学の数は2024年時点で624校とのこと。ここからの削減数250~400というのは、約4割から6割以上。大胆な数字となる。
そのうえで、以上が示された理由としては、第一にわが国の人口減少、とりわけ若い世代の減少がある。
さらには、そのことにより半数を超える私立大学が、現状、定員割れしていること。
なおかつ、これがいわゆる入学希望者「全入」といった大学を生むことで、学位取得者の一部において、備わるべき質が確保されていない旨も指摘されている。
優秀な人材がお医者さんに取られすぎ?
医療の分野ではこんな指摘がされている。こちらも原文を抜粋しよう。
「医師・歯科医師・薬剤師は、いずれも総数が増加しており、(中略)理工系の高等教育を受ける人材の3分の1、特に女性については6割が保健分野の学問を専攻している状況」
すると、お医者さんなどが増え、頼もしいかぎりのようにも一瞬思えるが、どうやらそうでもないらしい。問題となるのは人材の片寄りだ。
理工系の優秀な頭脳をもつ人材が医療分野に取られすぎることで、他の理学・工学分野にそれらが供給されず、そのことがひいては技術革新や国の経済成長にマイナスの影響を及ぼしているのではないか―――との懸念になる。
そのうえで、添えられている数字―――18歳人口千人あたりの医師養成数を見ると、
| 年 | 医師養成数 | 医学部へ進学した割合 |
| 1970年 | 2.29人 | 約436人に1人 |
| 2024年 | 8.62人 | 約116人に1 |
加えて、足もとの医学部定員が今後も維持された場合は、
| 2050年 | 11.8人 | 約85人に1人 |
とどのつまりは、
「医師数が過剰となることは既に確定的であり、医学部定員を計画的に削減していくことが必要」
これらは、あまり一般には認知されていない、隠れた国の課題のひとつといえるかもしれない。
宇宙についてのノウハウロスはあってほしくない
いま挙がった「理工系人材供給先の片寄り」と関係するテーマともなりそうだ。
「わが国の宇宙分野の成長に向けては、民間宇宙活動のさらなる成長が不可欠」
と、いうことで、以下の数字が示されている。
| アメリカ | 2010年 | 政府90% | 民間10% |
| 2020年 | 政府65% | 民間35% | |
| 日本 | 2010年 | 公的機関85% | 民間企業12% |
| 2023年 | 公的機関83% | 民間企業12% |
つまり、アメリカに比べて日本では民間資金の投入が伸びていないということだ。
それでも、こんな数字も一方で挙がっている。
| 2015年 | 16 |
| 2020年 | 73 |
| 2024年 | 109 |
ともあれ、商用にしても、研究目的にしても、あるいは防衛・防災に関するものであっても、宇宙に関わることは、わが国が絶対に手を抜いてはいけないひとつであると筆者は思っている。
その進捗に一瞬たりとも空白の時間をつくってはならないということだ。
それをやってしまった間に生じる他国からの遅れと、ノウハウロスが、この分野においてはとてつもなく巨大なものになるのではないかという、要は恐怖心からの意見となる。
農林水産品輸出に「辛口」評価
農林水産品の輸出については、いきなりこう言及されている。
「わが国の農林水産物・食品の輸出額は近年増加しているが、主要先進国に大きく劣後している」
厳しい評価だが、ここで挙げられている根拠は2つだ。
「生産額に占める輸出額の割合が2%と主要先進国に比べ極めて小さい」
「2025年の2兆円目標も、円安という追い風があったにもかかわらず未達成」
とはいえ、引用されている数字を見ると、2025年におけるわが国「農林水産物・食品の輸出額」は、前年比+12.8%と着実に伸びている。過去からの推移も併せ、以下のとおりだ。
| 2012年 | 4497億円 |
| (略) | |
| 2015年 | 7451億円 |
| (略) | |
| 2020年 | 9860億円 |
| 2021年 | 1兆2382億円 |
| 2022年 | 1兆4139億円 |
| 2023年 | 1兆4541億円 |
| 2024年 | 1兆5071億円 |
| 2025年 | 1兆7005億円(前年比+12.8%) |
そのうえで、25年の数字における農・林・水産物の各割合は以下のとおりとなっている。
| 農産物 | 約64.7%(1兆1008億円) |
| 林産物 | 約4.3%(735億円) |
| 水産物 | 約24.9%(4231億円) |
なお、日本の農林水産業にとって、輸出を伸ばすことは、直接の利益のみならず、国内においての生産基盤維持のためとても大事なことだ。食糧安全保障の面からも重要なこととなる。
よって、生産額に占める輸出額の割合が2%に留まる状況を本資料が嘆く(?)のも、その意味からはもっともなことだろう。
ただし、こうした数字が今後格段に伸び、輸出への依存が高まっていくと、当然ながらリスクも生じる。国際情勢の変化等に翻弄されやすい構造が、農林水産品にあっても産業として生まれることになる。
輸出先の積極的かつ計画的な分散など、官民知恵を携えての舵取りがさらに求められていくことになるだろう。
ロッキード・マーチンが存在しない日本の課題
すでに触れたとおりだ。本資料においては、防衛分野への指摘も色々となされている。
以下は、そのうちのひとつだ。
「諸外国の防衛大手企業と比較して、わが国の防衛企業の防需規模・防需率は低い」
(中略)
「コストの低減や研究開発投資の必要性、有事を見据えた生産力確保といった観点から事業連携や部門統合等は有効な手段となり得る」
どういうことかというと、要は、わが国にはアメリカのロッキード・マーチン社や、ゼネラル・ダイナミクス社のような形態の大企業は存在しないということだ。
なお、防需規模とは、その企業においての、防衛装備品など防衛に関する売上規模のこと。
防需率とは、その企業全体の売上に占めるそれらのパーセンテージのこと。
すなわち、ロッキード社等においては、会社の売上げのうち大部分が防需―――防衛需要に対するものであるのに比べ、日本では、業界を代表する企業(三菱重工業・川崎重工業など)においても、およそそうなってはいない。
防需規模・防需率ともに小さく、これらが各企業にとって重要なインセンティブとして機能していない点に課題がある旨、ここでは指摘がされている。
そのため、以下のような提言が、他資料から引用されつつ示されるかたちとなっている(一部補足)。
「今後想定される(防衛装備品の)開発について、人材確保の面も含めて、企業が1社単独で担うことは容易ではない」―――「各社が有する開発・生産のリソースを最大限活用することが必要であり、防衛事業者同士の連携を促す仕組みの構築が重要」
昨今、いよいよ「輸出」が始まった日本の防衛産業が、将来、わが国産業の重要な柱となる可能性を説く意見は少なくない。
その点、実戦においての実績―――いわゆるバトルプルーフ―――を持たない(あるいはほぼ持たない)日本製の防衛装備品においても、筆者はある程度の商品力はかたちづくられていると考えている。
戦後一貫しての抜き差しならない周辺・隣国環境の中、半世紀以上の平和を守り続けてきた、現に有効な抑止力としての評価、性能がすなわちそれとなる。
以上、財務省・財政制度等審議会による「人口減少社会の中での総合的な国力の強化」と題された資料から、いくつか内容を採り上げてみた。
興味のある方は、冒頭に記したリンク先で、ぜひひと通りをご覧になられたい。
(文/朝倉継道)
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。


























