相続土地国庫帰属制度、ガチンコ勝負3年半。どうなってしまうのか?

2026/10/16
スタートから3年半。法務省が意識調査の結果を公表
相続土地国庫帰属制度が2023年4月27日にスタートしてから、この10月末で3年半となる。
このタイミングにひと月先んじて、「相続土地国庫帰属制度の利用者への意識調査結果」が、9月25日に法務省から公表されている。
調査対象および人数は以下のとおり。
- 「制度の申請者」
調査実施期間中、承認、却下、不承認または取下げとなった承認申請に係る申請者(85人) - 「制度についての相談者」
法務局で対面、またはウェブにより相談をした人(402人) - 「申請をサポートする資格者」
弁護士(128人)、司法書士(612人)、行政書士(405人)、土地家屋調査士(525人)―――(資格者合計1,670人)
調査実施時期は、申請者と相談者が2025年10月20日~26年2月28日、資格者が25年11月7日~12月31日となっている。
この記事では、当該調査結果より、いくつかかいつまんで内容を紹介していきたい。
制度のおさらい
調査結果の紹介の前におさらいをしておこう。相続土地国庫帰属制度とはこんな制度だ。よくご存じの方は、飛ばして次章へ進んでもらっていい。
(以下、法務省の案内から抜粋・一部修正)
「相続した土地について、遠くに住んでいて利用する予定がない、周りの土地に迷惑がかかるから管理が必要だけど負担が大きい、といった理由により、これを手放したいというニーズが高まっています」
「このような土地が管理できないまま放置されることで、将来、所有者不明土地が発生することを予防するため、相続または遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度が創設されました」
―――要は、手放したい土地を国が引き取ってくれる、国庫に帰属させてもらえる、ということだ。
この制度が始まるまでは、相続財産の中に不要な土地があっても、それだけを相続放棄することはできなかった。他の資産も含め、全てを放棄するしかなかったのだ。そうしたところ、有力な選択肢がひとつ生まれたというわけだ。
もっとも、「国が引き取る」ということは、とりもなおさず全国民がその土地を管理し、処分するためのコストを連帯して負担することにほかならない。
そのため、どんな土地でも無条件で引き取ってもらえるということではなく、引き取りが不可能となる要件が、以下のとおり定められている。
申請することができないケース(却下事由)
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地
申請しても承認を受けることができないケース(不承認事由)
- 一定の勾配、高さの崖があって、管理に過分な費用、労力がかかる土地
- 土地の管理、処分を阻害する有体物が地上にある土地
- 土地の管理、処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理、処分ができない土地
- その他、通常の管理、処分に当たって過分な費用、労力がかかる土地
以上に加えて、お金もかかることになる。
審査手数料
土地一筆当たり14,000円(申請を取り下げた場合や、審査の結果、却下・不承認となった場合も返還なし)
負担金
当該土地の管理に要する10年分の標準的な費用を考慮して算定した額―――(20万円が基本だが、土地の種目、属している区域によって変動があったり、基本の額が無かったりする)
なお、負担金が必要な理由は「元々の土地の所有者が土地の管理の負担を免れる程度に応じて、国に生ずる管理費用の一部を負担していただく」ため、とのこと。
繰り返すが、ここでいう「国」とはわれわれ全国民のことだ。当然あって然るべき措置といえるだろう。
26年8月31日現在の運用状況
当制度の運用状況に関する8月31日現在の数字が、9月16日に公表されている。
| 申請件数 | 5,997件 |
| 国庫に帰属した件数 | 3,119件 |
| 却下件数 | 85件 |
| 不承認件数 | 100件 |
| 取下げ件数 | 1,139件 |
このうち「取り下げ件数」の内訳にこんなデータがある。
| 有効活用の見込みが生じた | 586件 |
| 却下・不承認であることが判明した | 405件 |
| その他 | 148件 |
そのうえで、以下が「有効活用の見込みが生じた」例となる。
- 自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した
- 隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった
- 農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった
このように、当制度を利用しようと申請者が動いたことがきっかけとなって、土地の行き先が他に見つかったと見られるケースが相当な数生じている。
のちほど触れるが、引き取った土地の処分という出口のところで国が予想どおり(?)の苦戦を強いられている当制度における、興味深いかたちでの成果といえるかもしれない。
制度に「満足」が約8割
さて、本題だ。「相続土地国庫帰属制度の利用者への意識調査結果」の中身のいくつかを紹介していこう。
まずは、当制度の利用を申請した人―――「申請者」への質問だ。
| 満足 | 73% |
| やや満足 | 8% |
| 不満・やや不満 | 7% |
| どちらともいえない | 4% |
| (申請を取り下げている) | (8%) |
満足とやや満足を合わせると81%、かなり高い割合となる。さきほどの数字―――「申請件数5,997件に対し、却下が85件、不承認が100件」のとおり、審査結果が申請者の希望に沿わないケースが少ないことと重なる数字ともいえるだろう。
次も、申請者への質問となる。
「申請に当たって出費した費用や、審査中に出費した費用はいくらくらいでしたか?(たとえば、建物の解体、草刈り、ゴミの処理、塀の修理等のために支出した金額。弁護士や司法書士などの資格者への報酬は除きます)」
| 100万円以上 | 21.2% |
| 50万円以上~100万円未満 | 6.0% |
| 20万円以上~50万円未満 | 24.7% |
| 15万円以上~20万円未満 | 8.2% |
| 10万円以上~15万円未満 | 8.2% |
| 5万円以上~10万円未満 | 8.2% |
| 5万円未満 | 23.5% |
見てのとおり、土地の状況により大きく差が開いている様子がわかる。
なお、上記は「申請に当たって出費した費用や、審査中に出費した費用」ということで、そのあと国の引き取りが決まれば、負担金がさらに生じるかたちとなるわけだ。
相談してはみたものの…
相続土地国庫帰属制度について、法務局へ対面、あるいはウェブサイトで相談した人―――「相談者」に対し、「制度を利用したいですか?(申請したいか?)」と、尋ねた結果が以下のとおりだ。
| はい(申請したい) | 63% |
| いいえ | 8% |
| どちらともいえない | 29% |
このうち、いいえ―――「相談したが、制度を利用(申請)しないことに決めた」方々の理由がいくつか挙げられている。
- 国以外の譲渡先が見つかった
- 負担金が高額である
- 国が引き取れない土地(却下要件・不承認要件)に該当する可能性がある
- 相続土地国庫帰属制度を利用することについて、他の共有者の同意を得られない
- 審査手数料の負担後に不承認結果となる事があるため申請に躊躇する
- 添付書類のうち、特に境界線を示す写真を用意することが現実的に不可能なため。土地が遠方で管理不可能であり、建物や木が無いなどの条件を満たせないため
さきほど、審査結果に対しての高い満足度を示す数字が挙がっていたが、審査に至らない段階での一面が垣間見られる以上の結果となる。
山林、田・畑、「原野など」が9割近く
次は、「資格者」への質問とその答えだ。相続土地国庫帰属制度の利用を考えている人から相談を受けてこれに応じたり、事務を執ったりした、弁護士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士からの声となる。
| 山林 | 44% |
| 田・畑 | 32% |
| 宅地 | 13% |
| その他(原野など) | 11% |
このとおり、山林、田・畑、さらにその他(原野など)が、合わせて9割近くを占めている。相談者が資格者への相談を思い立つに至った「現場」での様子がよく伝わってくる。
次も同じく、資格者への質問だ。
| 国が引き取れない土地(却下要件・不承認要件)に該当する可能性がある | 50.3% |
| 負担金が高額である | 34.9% |
| 第三者に処分する見込みが立った | 5.8% |
| 制度を利用することについて、共有者全員の同意を得られない | 5.7% |
| 申請に至らなかった事案はない | 3.3% |
このとおり、「国が引き取れない土地に該当する可能性がある」が、半分を占めている。いわゆる「負動産」が相続によって身に降りかかってきた相談者を資格者が目の当たりにしているケースともいえそうだ。
加えて、資格者の方々からのこんな声もピックアップされている。(一部を抜粋・修正)
「相続した土地が遠方でかつ原野、山林の場合は境界がはっきり分からず写真撮影が困難なため諦めてしまう人がいる」
「被相続人が山林を所有していた場合には、筆数が多い傾向があり負担金が高額になるケースが多く、申請は現実的に困難となる」
山林、原野にあっては、樹木・草木等の有体物がほぼ確実にあることで、コストの発生や審査不承認が予測されるケースが多そうだが、加えて、こうした障害もありがちなようだ。
―――以上。設問はほかにもまだいくつもある。詳しくは下記リンク先にて確かめられたい。
「法務省 相続土地国庫帰属制度の運用状況に関する利用者に対する意識調査結果の概要」
国のジレンマ
さて、以上のとおり、満足の声やがっかりな声、さまざまありつつも、ある程度利用が進んでいる相続土地国庫帰属制度だが、目下、重い課題を孕む状況ともなっている。
財務省の財政制度等審議会・国有財産分科会における本年6月17日開催分の議事録から抜粋しよう。
「(当制度によって国庫に帰属した土地として)3月末時点で約1,600件を財務局が引き受けている状況にございます。また、売却の可能性が見込まれるものにつきましては、通常の売却手続にのっとって一般競争入札に付しておりますが、現時点で売却に至ったものはないという状況でございます」(国有財産企画課長)
つまり、土地を国が抱えっ放しになっているということだ。
「市場性に乏しく、現に売却できない土地が入り口の要件審査を通って次々と国庫に流入して積み上がってくる。その結果、本来は申請者が負うべきであった管理コストが国庫帰属後は国民負担へと転嫁され、財務局側に積み上がっていく。(中略)国民負担で負動産を抱え込み続けることになる」(委員)
「(国がこれらを処分する際は)93%まで値引きできる制度にしたのですけれども、(中略)実はその中には1円まで値引きしているものも入っているものですから、93%の値引きによって確実にどんどん不動産が売れるようになるとはならないと思います」(国有財産企画課長)
すなわち、土地が国庫に積み上がる。コストが嵩む。だが売れない―――との国側の悲鳴だ。
もっとも、これはすでに予見されていた当然の結果にほかならない。所有者不明土地の発生を防止することが制度の第一義とされつつも、これらの土地はそもそも相続人が「要りません」と言って、放棄を望む状態の土地なのだ。
そのため、
「本制度、施行から5年後の見直し規定が入っているところでございます。(中略)法務省や管理庁である財務省等で、国庫帰属要件の判断基準の目線の統一など、関係省庁としっかりと協議していくこととしております」(国有財産業務課長)
ここでいう施行から5年後とは、再来年、2028年のことだ。この際、土地の引き取り―――国庫への帰属の間口が広がるのか、狭まるのか、あるいは変わらないのか?
利用者側からはもちろんのこと「広げてほしい」「負担を下げてほしい」。
国側としては「管理コストが積み上がっていく。このままだとまずい」。
こうしたジレンマを踏まえた次のスタンスが、遠からず示されていくことになるだろう。
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室


























