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賃借人を過剰に保護する普通借家契約 健全な賃貸業界の発展のために、定期借家契約の拡大が必須

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賃貸経営をするオーナーであれば、賃貸借契約に普通借家契約と定期借家契約があるのはよく知っているはずだ。そして、ほとんどのオーナーは、普通借家契約が当たり前と捉え、入居者と賃貸借契約を結んでいるのではないだろうか。しかし、実は現在の普通借家制度の中核となる正当事由制度は、戦時下の昭和16年に導入されたものだった。つまり、普通借家契約が主流の現状は、不自然ともいえる。そこで、定期借家制度の創設にかかわった吉田修平弁護士に、普通借家契約が残り続けた歴史とその問題点、そして定期借家契約拡大による利点を聞く。(取材・文/財部 寛子)

長引く戦争で残り続けた戦時立法

───吉田弁護士は、普通借家制度の課題を踏まえ、定期借家制度の立法にかかわっています。普通借家契約のどういった点に課題があると感じたのでしょうか。

普通借家契約は、何重にも賃借人が保護されていることにより、さまざまな問題を生み出すことになりました。

たとえば、立ち退き料の問題が挙げられます。立ち退きに関して賃貸人と賃借人との間で裁判が起きた場合、正当事由の程度によっては、その補完として立ち退き料の提供が必要になるケースが少なくありません。

弁護士の側から言えば、普通借家契約の終了を巡る紛争では、賃貸人の側に相応の立証等の負担が課されることが多くなるわけです。

また、普通借家契約では、長期間契約が継続した場合、継続賃料が新規賃料の水準に直ちに追随しないことがあります。場合によっては相場にそぐわない家賃設定を長く維持することにもなりかねません。

これらについて詳しくは後述しますが、弁護士である私はこういった点に疑問を感じ、かつ、このままの賃貸借契約では世の中が良い方向に進化していかないと感じたのです。

───賃借人が保護され過ぎている理由があるのでしょうか。

その理由をひもとくには、歴史をさかのぼる必要があります。まず、昭和16年に借家法が改正され、賃借人の保護を目的とした現在の普通借家契約の基礎となる制度ができました。ちなみに、昭和16年の改正以前は、期間満了時の更新拒絶について現在のような正当事由による制限はありませんでした。

このとき、賃貸人の自己使用の必要性やその他正当な事由がない場合、つまり、賃貸人が貸している物件を賃貸人自身がどうしても使用する必要がある、建て替えが必要などの理由がなければ、入居期間が満了しても賃借人の更新を拒絶できないという制度になりました。

───いまの普通借家契約のベースができたわけですね。ちなみに、なぜ昭和16年に普通借家制度が成立したのですか。

日中戦争下の昭和16年、戦時下の住宅不足や賃料高騰などを背景に導入されました。ちなみに、その年の12月には太平洋戦争も勃発しました。戦時下で住宅不足や賃料高騰が深刻化し、借家人の居住の安定を図る必要が高まったため、賃借人を保護するための戦時立法だったのです。

その後も戦時下の住宅事情が続き、さらに戦後の深刻な住宅不足のなかで制度が維持されました。

拡大解釈によって賃借人保護も拡大

───とはいえ、昭和20年に終戦しています。なぜ普通借家契約は続いたのでしょうか。

焼け野原となった日本は、深刻な住宅難に陥りました。また、中国大陸や東南アジアなどに取り残されていた多くの軍人や民間人が、数年かけて日本に引き揚げてきました。つまり、家をなくした人々、あるいは軍人や引き揚げ者、その家族のために、普通借家契約は残り続けたのです。

その後、賃貸借契約に関するさまざまなトラブルが起きるなかで、裁判実務を通じて正当事由の判断が精緻化され、賃借人側の事情も幅広く考慮されるようになりました。

実は昭和16年の普通借家制度では、「立ち退き料」という言葉は一切出ていませんでした。しかし、賃借人側の居住・営業上の必要性なども考慮されるようになり、賃借人が居住し続けたい、あるいはそこで営業を続けたいといった場合、賃借人に出ていってもらうことが難しくなっていったのです。

───その結果、立ち退き料が発生するようになったのですね。

その通りです。普通借家制度が40年、50年と続き、家賃は低く抑えられ、契約終了を求める際に、高額な立ち退き料が問題となるケースも生じました。その結果として、普通借家制度が建て替え・再開発を難しくする一因となる場合も生じてきたと思います。

戦後から何十年も経過し、新しいものを作っていかなければならない時代に、まったく見合っていない賃貸借契約が残っているのです。このまま、ひたすらに賃借人ばかり保護していていいのだろうか、これはおかしいのではないかと私は感じています。

賃貸借契約にかかわる法律の変遷
~大正11年   正当事由制度はなく、賃貸借契約の期間が満了すれば、原則として賃貸人は賃借人との契約を終了させることができた。
大正11年 旧借家法施行 社会的弱者であった賃借人を保護するため、本格的な借家法が制定された。
期間が定められている賃貸借契約にも、賃借人保護のため、一定の制限が入り始める。
昭和16年 借家法改正 戦時立法として改正。「正当事由」制度が導入される。賃貸人は、正当事由がないと契約の更新を拒絶したり解約したりできなくなった。

戦後~
昭和・平成初期

  昭和16 年以降の仕組みが、標準的な制度として定着していき、普通借家制度が主流化していく。普通借家制度が主流化するとともに、賃借人保護に関する解釈も拡大していった。
平成4年 借地借家法施行 賃借人を保護する法律として、「借地法」「借家法」「建物保護法」が整理・統合され、借地借家法が施行された。
平成12年 定期借家制度施行 あらかじめ定めた契約期間の満了と同時に、賃貸借契約が終了する制度が成立。

「特約」で始まった煩雑な定期借家契約

───そこで、平成12年、賃貸期間をあらかじめ設定する定期借家制度の創設に至ったのですね。しかし、日本ではいまだに普通借家契約が主流です。

普通借家制度が原則になってしまっていたため、新しい定期借家制度を作ろうとしたとき、制度導入には強い慎重論・反対論もありました。そこで普通借家を原則としつつ、例外として、更新のない賃貸借を特約により認める定期借家制度が導入されました。

つまり、定期借家契約は「特約」といった立ち位置になりました。

───普通借家契約にプラスした手続きなどが必要になるということでしょうか。

普通借家契約は、極端に言えば、口頭で「貸すよ」「借りるよ」で契約できました。しかし、定期借家契約は、特別に賃借人を保護しなくてもいいという、賃貸人と賃借人が対等になる契約です。そのため、書面または電磁的記録による契約、事前説明など、さまざまな要件を追加して特約を有効にするという厳格な契約になりました。

この厳格な手続きを不動産の仲介業者が守ることができなければ、更新がない旨の定めが無効となり、普通借家と同様の扱いとなってしまうのです。

───仲介業者は定期借家契約を面倒だと感じ、その結果、普通借家契約が主流の状態が続いているというわけでしょうか。

そういった面もあると思います。手続きのハードルが高い、無効リスクが生じやすいとなると、仲介業者は定期借家契約を敬遠しがちです。定期借家契約のメリットを把握していない仲介業者のなかには、「定期借家は普通借家よりも家賃を安く設定する必要がありますよ」などとオーナーに伝えているケースもあるかもしれません。

適正な賃料を反映できる定期借家

───定期借家と聞くと、たとえば所有者が転勤で空き家になる短い間だけ貸し出すというケースが多くあります。短期間での退去を条件に、家賃も低く抑えている物件も多いと思います。そうなると、やはり普通借家の方が高い家賃を設定できる印象があります。

冒頭でもお話ししましたが、普通借家契約の方が、理論上、家賃は低く抑えられてしまいます。

不動産鑑定評価では、新規賃料と継続賃料を区別します。継続賃料は、現在の賃料や契約の経緯、経済事情の変動などを踏まえて算定されるため、新規賃料の水準に一気に追いつくとは限りません。継続賃料は相場賃料よりも低くなることがあり、なおかつ賃料を上げるときもなだらかにしか上げることができません。

───逆に、定期借家では、期間満了後に再契約する際、その時点の市場環境を踏まえて新たな賃料を合意できるということですね。

高い家賃を設定できるというよりも、2年、5年などの契約が終了して、新しい賃借人が入るときに、その時代に合った相場家賃に設定し直せるといった方が正しいでしょう。もちろん、期間満了による終了には正当事由を要しないため、正当事由を補完するための立ち退き料は原則として必要ありません。

一方、普通借家契約で長く入居されていると、先述した継続賃料抑制主義によって賃料をいきなり大幅に上げることはできないため、場合によっては相場よりも安い家賃で貸し続けなければならなくなる可能性があるのです。

───現在、定期借家契約で順調に経営できているオーナーはいますか。

東京都内の高級賃貸では定期借家契約が多くあります。オーナーは、定期借家の期間が満了しても高い家賃を払ってくれる賃借人を退去させる必要はありません。そのため、定期借家で経営はきちんと成り立つのです。

トラブルを整理してメリットを把握する

───しかし、長い歴史と慣習的な部分もあり、一般的な賃借人の場合はやはり定期借家を敬遠しかねません。これまで普通借家で契約をしてきたオーナーは、なかなか定期借家契約への切り替えに踏み込めないかもしれません。

まずは、普通借家契約におけるトラブルやリスクを整理して、考えを改めるところから始めてみてはどうでしょうか。

賃貸経営をするオーナーであれば、マナーやルールを守らなかったり、家賃を滞納したりといった賃借人に遭遇した経験はあるでしょう。私のところにも、騒音トラブルを起こす賃借人を追い出してほしいなどと相談に来られるケースがあります。しかし、正直なところ、賃借人が何重にも保護されている状況では、賃貸人にとっては非常に難しい裁判になります。

───明らかにトラブルを起こしている賃借人が不利にならないのですか。

騒音の程度・頻度・時間帯などを、録音や測定記録、第三者の証言などの客観的証拠によって立証する必要があります。こういった数値を測るには費用もかかり、なかなか大変な作業です。

家賃を滞納している場合も、賃借人側はさまざまな言い訳をします。「雨漏りしたときに大家がすぐに対応してくれなかった」「隣の部屋が騒いでいたときに大家がきちんと注意してくれなかった」など、「大家側に債務不履行があったから家賃を払わなかった」といった理由で言い返されるケースもあります。

さらに、賃借人が物件を適切に使用しなかったり家賃を払わなかったりといった「用法遵守義務違反」があっても、「信頼関係破壊の法理」という判例法理で賃借人は守られ、簡単に契約解除できないことがあるのです。

───信頼関係の破壊とは、どの程度を表すのですか。

たとえば、家賃の不払いが2カ月程度では、信頼関係を破壊しているとは言いがたいとして、契約解除ができない場合があります。実務上3カ月程度が一つの目安とされることはありますが、月数だけで機械的に決まるものではありません。

───大規模修繕や建て替えで退去してもらう場合はどうでしょうか。

賃借人が退去を拒否している場合、修繕や建て替えなどの必要性を立証しなければなりません。たとえば、耐震性を欠いていることを理由にするなら、専門家による耐震診断等の客観的資料が必要となることがあり、相応の費用がかかります。正当事由の程度によっては、さらに立ち退き料の提供が問題になる場合があります。

定期借家契約であれば、トラブルが起きても契約期間が満了すれば、期間満了により正当事由なく契約を終了できます。こういった余計なトラブルや立ち退き料といった費用に振り回される必要がありません。

このように普通借家契約では賃借人が何重にも保護されているからこそ、定期借家契約でオーナー自身が物件や賃貸経営を守ることも必須だと思います。

定期借家の理由をマイソクに記載する

───主流ではない定期借家契約で、有利に入居者募集するにはどうすればいいのでしょうか。

マイソクなどに定期借家の理由まで明記すればいいのではないでしょうか。

転勤で2年の定期借家なら、その旨を丁寧に記載しておけば、「家賃が安い良からぬ理由があるのではないか」といった賃借人側の懸念を払拭することができるでしょう。

また、定期借家だからといって期間満了とともに必ず退去してもらう必要はありません。優良な賃借人であれば、再び定期借家契約で住み続けてもらえる旨を明記しておくこともいいでしょう。

───常識的な賃借人がそういった記載を見れば、定期借家契約の物件を敬遠することはなさそうですね。

契約違反を繰り返すなど、再契約を望まない賃借人であれば期間満了時に再契約をしないという選択ができます。もちろん、立ち退き料を支払う必要もありません。そして、優良な賃借人であれば、引き続き住み続けてもらえるわけですから、賃貸人側から見たトラブルやストレスも減少すると思います。

私の知り合いのオーナーにも定期借家契約に切り替えた後、賃借人と良好な関係を築いている方はいらっしゃいます。

───定期借家契約に向いている物件はありますか。

事業用の物件や200㎡以上といった都心の高額家賃の物件は、定期借家契約が向いていると思います。しかし、普通の賃貸マンションやアパートでも、先述した通りのメリットを得られるので、定期借家契約にすることはおすすめです。

とくに、今後、建て替えや再開発などの予定があれば、立ち退き料を必要としない定期借家契約にしておくべきでしょう。

事前説明書で契約実態を確実に

───入居中の物件で、普通借家契約から定期借家契約に変更する場合、どのような手続きが必要ですか。

普通借家契約から定期借家契約に変更するためには、賃貸人と賃借人の合意契約書が必要になります。賃借人の権利をしっかり伝えて普通借家契約を解除する必要があり、また条件調整や合意解除を巡って法的問題が生じやすいため、必要に応じて弁護士に相談するのが安全です。しかし、賃借人がなかなか納得しない、立ち退き料に変わるような費用が必要になるなどのケースもあり、少し大変ではあると思います。

平成12年3月1日より前から存在する居住用普通借家については、現在も、合意解除して同一建物について定期借家に切り替えることはできません。

───そうすると、契約の切り替えはハードルが高くなりますね。

そのため、賃借人が退去した際に変更するのがスムーズだと思います。

ただし、大きな事業用のビルや家賃の高い物件を所有している場合、入居中であっても、その後の収益を考えると定期借家契約に切り替えた方がいいかもしれません。

───新しい賃借人と定期借家契約を結ぶ際に必要な書類や注意事項はありますか。

普通借家契約で必要なことは、宅建業者が媒介する一般的な場合、賃貸借契約書のほか、重要事項説明の実施です。

定期借家契約の場合は、これらに加えて、事前説明書が必要になります。事前説明書面を交付し、または一定の要件の下で電磁的方法により提供し、定期借家契約の詳細を説明する必要があります。説明を行ったことを後日立証できるよう、署名等を取得して記録を残しておくことが望ましいと思います。事前説明を行ったことを賃貸人側が立証できず、借地借家法第38条に定められた手続きを欠いたと判断されれば、更新がない旨の定めが無効となる可能性があります。したがって、この事前説明書はかなり重要です。

ちなみに、事前説明書の説明を仲介業者に依頼するときは、賃貸人から事前説明についての代理権を付与し、委任状等で明確にしておく必要があります。

選択肢を広げてより良い賃貸業界へ

───定期借家契約が広まることで、賃貸オーナーや賃借人の意識が変わり、賃貸業界も変化していきそうですね。

米国では12カ月など期間を定めた賃貸借が一般的です。もし日本で定期借家契約が当たり前になれば、賃貸物件に対する新しい感覚が生まれ、アメリカで展開されているような家具付き物件といった新しい賃貸スタイルも増えていくと思います。

───とはいえ、普通借家契約が悪いわけでもありませんよね。

もちろんです。歴史も踏まえて、普通借家契約の問題を挙げてきましたが、あくまでも賃借人が保護され過ぎていることが課題です。

賃貸人は、所有する物件の条件や賃貸経営のプランなどによって、普通借家契約と定期借家契約のいずれかを選択すればいいのではないでしょうか。

賃借人も同じく、自分のライフスタイルによって普通借家契約と定期借家契約のいずれかの物件を選択できるようになればいいと考えています。

───賃貸人も賃借人も選択肢が広がることになり、普通借家契約の物件価値を上げることにもつながりそうです。

いまのところ、普通借家契約は賃借人に有利といえるので、たしかにそれも物件価値の条件になりそうですね。

賃貸借契約は、要はマッチングアプリのようなものです。マッチングアプリでは、お互いの長所や短所、特徴などをしっかり伝えて、より良い2人をマッチングします。しかし、賃貸業界においては、普通借家契約が主流になり過ぎていて、定期借家契約のメリットが十分に相手に伝えられていない状況です。

仲介業者が両方のメリット・デメリットをしっかり把握し、賃貸人と賃借人を上手にマッチングしていける世の中にしていくべきです。

───最後に、ウチコミ!オーナーにメッセージをお願いします。

定期借家契約は、やはりハードルが高いと感じるかもしれません。しかし、賃貸業界を健全に発展させていくためには、定期借家契約がもっと普及する必要があります。

ウチコミ!のオーナーの方々には、ぜひ多くの知識を習得して、賃貸経営のレベルをいま以上に高めていただきたいと思います。

 


吉田 修平(ヨシダ シュウヘイ)さん
1977年早稲田大学法学部卒業。82年4月、弁護士登録、第一東京弁護士会入会。86年4月、吉田修平法律事務所開設。国民にとって極めて重要で高額な財産である「住」、また不動産の総体といえる「都市」の重要性を鑑み、弁護士業務にとどまることなく不動産法整備の支援にも尽力してきた。現在は、不動産と相続問題に強い弁護士として多方面で活躍している。主な著書に、『マンションの老い』(金融財政事情研究会刊)、『Q&A 所有者不明土地の法律相談』(プログレス刊)などがある。(公社)日本不動産学会会長、(一社)日本相続学会副会長。

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この記事を書いた人

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