5年で300万人の人口を失った日本をどうするか

2026/06/24
古代ローマの少子化対策
西洋史が好きな人、あるいは人口学を学んでいる人であれば、「アウグストゥスの婚姻法」というのをご存知かもしれない。古代ローマ時代、アウグストゥス帝が定めた法律だ(前18年)。いわゆるユリウス法の中の有名なひとつとなる。
この法律では、いわゆる少子化対策のための規定が布かれている。豊かなローマにあって、市民が子どもをつくらず、産まなくなったことへの対応策として制定された。実効性を保つため、厳しい罰則が設けられている。一方で、法を遵守し、子をもつ者に対しては優遇策も用意されていた。
その内容は、たとえばこうだ。一定の年齢の市民には、結婚および出産が義務付けられていた。独身者や子どものいない夫婦にあっては、相続権など重要な権利が剥奪、あるいは制限された。一方で、一定数以上の子どもをもつ場合は公職に就くための優遇措置などが用意されていた。加えて、離婚女性や未亡人に対しては、次なる「生産」に邁進できるよう、早期再婚への督励が盛り込まれるかたちとなっていた。
なお、アウグストゥスの婚姻法における少子化対策というのは、古代ローマにおいての上層の市民、いわゆる上流階級における人口減少を抑えるのが目的だった。その点、現在のわれわれが直面している問題とはやや性質を異にする。(案外違っていなかったりもする?)
ともあれだ。この法律の効果はどうだったのかというと、結果として人々の反発を招くばかりで上手く機能しなかったらしい。厳しい規定ものちには緩和あるいは撤廃されている。豊かで平和、かつ知的水準の高い社会での宿痾として生じる少子化について、その解決の難しさを示唆する一例として挙げておいてよい、以上の古い話となる。
日本の人口309万人減
先般5月29日、令和7年国勢調査による人口集計結果の速報が、総務省より公表されている。「日本の人口309万人減」「減少数過去最大」などの表記が、軒並みニュースの見出しに踊っている。
2000年からの推移を見てみよう。5年ごとの数字となる。
| 年 | 人口 | 増減数 | 増減率 |
| 2000年 | 126,925,843人 | +1,355,597人 | +1.1% |
| 2005年 | 127,767,994人 | +842,151人 | +0.7% |
| 2010年 | 128,057,352人 | +289,358人 | +0.2% |
| 2015年 | 127,094,745人 | -962,607人 | -0.8%(調査開始以来初の人口減少) |
| 2020年 | 126,146,099人 | -948,646人 | -0.7% |
| 2025年 | 123,049,524人 | -3,096,575人 | -2.5%(調査開始以来最大の減少数、減少率) |
このとおり、今回示された「5年で309万人減」というのは、甚大であるのみならず、先の大戦におけるわが国戦没者の数と奇しくも似通っている(政府公称値で約310万人)。どこか慄然とした数字といっていい。
これを受け、アメリカ「ニューヨーク・タイムズ」紙は、「How Japan Lost 3 Million People in Five Years」と、キャッチーに題した記事をサイトに掲げている。「日本はいかにして5年で300万人を失ったか」―――だ。
(なお、戦没者数についてはさらに多い約376万人との推計も昨年公表されている:国立社会保障・人口問題研究所)
「人口増加」都道府県は2つのみ
今回の結果(2020年~25年の人口増減数)を都道府県別にみると、東京都が約19万9千人の増加、沖縄県が740人の増加となっているほかは、残りすべての道府県で人口が減っている。
そのうえで、埼玉、千葉、神奈川、愛知、滋賀、福岡の6県では、前回調査における「増加」から、今回は「減少」に転じた。
なおかつ、前回よりも減少幅が縮小した道府県は存在しない。一方で、減少幅が拡大した道府県は39となっている。
増加の沖縄県も、その割合は前回よりも大きく下がっている(+2.4%から+0.1%へ)。すなわち、次回の国勢調査においては、沖縄もまた人口は減少に転ずる可能性が高い。
大都市部でも進む減少
人口減少は、首都圏や関西圏、各政令指定都市といった大都市部にも及んでいる。
今回、東京23区と政令指定都市を合わせた「21大都市」にあっては、うち8都市で人口増加、13都市で減少との結果が出た。
このうち、インパクトの高いものとしては、首都圏最大の市である横浜市での減少が挙げられる。
同市の人口は、1947年の調査分以来78年ぶりの減少となった。戦後間もない特殊な時期以来の異変が、再び起こったかたちとなっている。
加えて、神奈川県の政令指定都市としては、相模原市も減少となった。残る川崎市―――東京23区にぴたりと寄り添う―――のみが、若干数字を伸ばしている。
| 年 | 人口 | 増減数 | 増減率 |
| 横浜市 | 3,754,840人 | -22,651人 | -0.6% |
| 川崎市 | 1,561,132人 | +22,870人 | +1.5% |
| 相模原市 | 712,105人 | -13,384人 | -1.8% |
一方、関西圏では、名だたる京都市、神戸市も人口が減る街となっている。堺市も同様で、増えている政令指定都市は大阪市のみだ。
| 年 | 人口 | 増減数 | 増減率 |
| 大阪市 | 2,808,624人 | +56,212人 | +2.0% |
| 堺市 | 803,333人 | -22,828人 | -2.8% |
| 京都市 | 1,431,713人 | -32,010人 | -2.2% |
| 神戸市 | 1,497,630人 | -27,522人 | -1.8% |
なお、21大都市の中で、2020年~25年の人口増加数が最も多いのは東京23区となるが(219,884人)、増加率が最も高いのは福岡市となる(3.2%)。
そこで、その福岡市を含む、いわゆる「地方4市」を見ると、札幌がマイナス、仙台がプラスながらほぼ横ばい、広島がマイナスとなっていて、福岡とそれ以外との差の開きが目立つ。
つまりは、人口の面で、日本はこれから東京、名古屋、大阪、福岡の4都市と、その周辺の狭い範囲のみに集中が際立つ時代を迎えることになるようだ。
| 年 | 人口 | 増減数 | 増減率 |
| 札幌市 | 1,964,034人 | -9,361人 | -0.5% |
| 仙台市 | 1,096,951人 | +247人 | 0.0% |
| 広島市 | 1,172,423人 | -28,331人 | -2.4% |
| 福岡市 | 1,663,892人 | +51,500人 | +3.2% |
| 年 | 人口 | 増減数 | 増減率 |
| 名古屋市 | 2,345,892人 | +13,716人 | +0.6% |
子どもを産めば年金が増える制度?
さて、こうしたわが国における急激な人口減少の要因のうち、最大のものといえば、それは多くの方がご存知のとおり、冒頭の古代ローマの話でもふれた少子化となる。
わが国の出生数は、第2次ベビーブームのピークの年(1973)を過ぎて以降、すでに半世紀以上にわたって減少傾向が続いている。
そのうえで、いまは過去最少を10年連続で更新中だ。
このように、長年続き、加速もしている少子化が、人口の自然減―――出生者数が死亡者数を下回る状態―――を維持させ続けている。そのため、日本の人口はどんどん少なくなり続けている。
もっとも、筆者は、個人の意見として、日本の人口は現状多過ぎると思っている。よって、減るのは悪くない。
とはいえ、最近はそういうことを言うと周りから叱られる時代になった。
そこで、アウグストゥス帝のごとく、少子化をどうにか押し留めるための法制度を何か探るとすると、各所からの提案、海外事例、手元のAIが発する意見など、さまざま目についた中に、ひとつ興味深いものがある。
それは、出産、多産に対する年金でのインセンティブとなる。
具体的には、子どもを産み、育てた親にあっては、どの年齢でその実績が積まれたものであっても、老後の年金に対し、生涯にわたる加算を行う。子どもの数に応じ、目立つほどの規模で額を重ねてやる。つまりは、現状ある子育て中の年金受給者への期間限定的な加算に留まらない、人生設計に組み込めるかたちでの優遇策だ。
要は、子どもを産み育てることが、老後への備えにつながる仕組みをこしらえる。
なお、これは、子育てにおける目先の負担軽減策とは本質を異にするものだ。自身が臨む未来への投資となる。
そのうえで、当該制度にあっては、論理的な説得力も手堅く備えている。なぜなら、子どもをたくさん産み育てた人は、当然ながら、年金財源―――年金保険料を支払う立場の人―――に関しても、費用や時間、労力を負担しつつ、それをたくさん産み育てた人ということになるからだ。これら「財源」からは、子どもを産み育てることがなかった人の年金も拠出される。すなわち、国民平等とはいえ、がんばった親たちに対してはさすがに相応のインセンティブがあって然るべきだろう。
とはいえ、たとえこういう制度が財源も整い、実行されたとしても、日本の少子化が已むことはないと筆者は思っている。
豊かで、平和で、知的水準が高く、しかも手軽に(?)産児制限できるような社会において、少子化が進んでしまうグローバルな現実にあっては、何か人間には未知なる理由も含めて、これに抗う術をわれわれは持てないような気がするからだ。(本気で抗うとすればSFじみた人工増殖しかない?)
よって、少子化、人口減少に抵抗するのもよいが、それはほどほどにあきらめて、それらを前提とした国と社会の構築に知恵を注ぐ方がよいのではないかとする意見に、筆者はやはり賛成の挙手をしたい。
「総務省統計局 令和7年国勢調査 調査の結果 人口速報集計」
(文/朝倉継道)
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。
























