住所等変更登記の義務化について

2026/05/30
令和8年4月1日から住所又は氏名(以下「住所等」といいます。)変更登記が義務化されました。法改正によりすべての不動産の所有者(登記名義人)に申請義務が課せられるので、特に不動産の売却を考えている方は改正後の仕組みを理解し、正しい手続を履践する必要があります。今回は改正に至った背景や目的、申請期限、義務違反と過料、申請時の留意点、スマート変更登記のすすめについて紹介します。
背景や目的
改正前の不動産登記法においては、登記名義人の住所等について変更があった場合であっても、当該登記名義人に、住所等についての変更の登記(同法64条1項等)の申請は義務付けられていませんでした。
住所等の変更登記がなされずに放置された結果、所有者の所在を容易に把握することができなくなる事態が生じ、所有者不明土地が増大しました。この土地については、所有者の探索に多大な時間と費用が必要となり、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引や土地の利活用の阻害原因となったり、土地が管理されず放置され、隣接する土地への悪影響が発生したりするなど、さまざまな問題が生じています。
過去の裁判例においても、分筆された土地の譲渡を受けた者が、収用委員会による当該土地の所有者不明の裁決の違法性を争った事案では、収用委員会が収用の対象となる土地の所有権につき一応の審理、調査のうえ確実な資料により明白な心証を得ない限りその土地につき所有者不明として収用裁決をするのが相当であるとして、当該土地の所有権の帰属を明らかにする確実な資料が存在しない本件においては、不明裁決は適法であると判断しました(大阪高裁昭和55年1月25日判決)。住所等変更登記を経ていれば生じなかった争いであるといえます。
そこで、所有者不明土地の主な発生原因である住所等変更登記の未了に対応するため、令和3年に法律が改正され、これまで任意だったこれらの登記が義務化されることになりました。
申請期限
改正後の不動産登記法76条の5では、住所等の変更日から2年以内に変更登記をする必要があることを定めています。注意しなければならないのは、令和8年4月1日より前に住所等を変更した場合であっても、変更登記がされていないものについては、令和10年3月31日までに変更登記をする必要があるという点です(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則5条7項)。
義務違反と過料
正当な理由がないのに住所等変更登記の義務を怠ったときは、5万円以下の過料の適用対象となります(不動産登記法164条2項)。ただし、登記官が義務違反の事実を把握しても、直ちに裁判所への通知(過料通知)を行うことはしません。登記官が過料通知を行うのは、義務に違反した者に対し、相当の期間を定めて義務の履行を催告したにもかかわらず、正当な理由なく、その期間内に申請・申出がされないときに限られます。
登記官が行う催告の前提となる、住所等変更登記の義務に違反した者の把握は、登記官が登記申請の審査の過程等で把握した情報により行うこととしており、例えば、次のような場合が該当します。
(1)所有権の登記名義人が表示に関する登記の申請をした場合において、申請情報の内容である所有権の登記名義人の住所等が登記記録と合致していなかったとき
(2)住基ネットに対する照会により住所等に変更があったと認められた所有権の登記名義人が、職権による住所等変更登記をすることについての意思確認のための通知を受領したが、当該登記を拒否し、又は期限までに回答をしなかったとき
前述のとおり、登記官が裁判所に過料通知を行うのは、義務に違反した者に対し、相当の期間を定めて義務の履行を催告したにもかかわらず、正当な理由なく、その期間内に申請・申出がされないときに限ることとしています。義務の履行期間内において、以下のような事情が認められる場合には、それをもって一般に「正当な理由」があると認めることとしています。ただし、これらに該当しない場合においても、個別の事案における具体的な事情に応じて「正当な理由」を判断することとしています。
(1)検索用情報の申出又は会社法人等番号の登記がされているが、登記官の職権による住所等変更登記の手続がされていない場合
(2)行政区画の変更等により所有権の登記名義人の住所に変更があった場合
(3)住所等変更登記の義務を負う者自身に重病等の事情がある場合
(4)住所等変更登記の義務を負う者がDV被害者等であり、その生命・身体に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
(5)住所等変更登記の義務を負う者が経済的に困窮しているために登記に要する費用を負担する能力がない場合
申請時の留意点
不動産を売却する際に、売主側で住所等の変更登記をしないままで所有権移転の登記を申請すると、登記申請が却下されてしまいます(同法25条7号・76条の5)。また、直近に売却を控えていなくても、前述のとおり、正当な理由なく申請を怠った場合には5万円以下の過料が科される可能性もあります。これらを防ぐためには、住所等の変更登記を事前に済ませておくことが必要です。
住所等が数回にわたって変わっている場合には、その回数分の登記名義人住所(氏名)変更登記を申請する必要はなく、直接現在の住所や氏名に変更することが可能です。ただし、この場合、登記記録上の住所等から現在の住所等までの連続性を証明するために戸籍の附票や複数の住民票の写しなどの書類を添付することが必要です(住民票コードを申請書に記載した場合は、住民票の写しなどの書類の添付を省略することができる場合があります)。
住所を転々と移している場合や住所を変更してから時間が経過している場合は、住民票の除票や戸籍の除附票などが廃棄されていて連続性を証明できないことがあります。そのような場合、存在する限りの住民票(除票)の写しや戸籍の附票(除附票)、廃棄証明書などに加え、「登記名義人と私は同一人物に相違ない」という内容の上申書を作成し、添付しなければならないことがあります。この上申書には実印での押印が必要で、印鑑証明書も添付します。その上、登記申請する物件の権利証の写し等の添付を求められる場合があります。令和元年に住民基本台帳法施行令の一部改正があり、住民票の除票などの保存期間が5年から150年となったので、連続性の証明が容易になりました。しかし、既に廃棄された除票は原則として交付されませんので注意が必要です。以上のように、住所等変更登記の申請には予想より時間を要する場合がありますので、余裕をもって申請手続を履践しておくことが肝要です。
スマート変更登記のすすめ
住所等変更登記義務化による負担軽減のため、登記官の職権による変更登記(スマート変更登記)が令和8年4月1日から運用開始されました。「かんたん」・「無料」の手続をしていただければ、その後は、法務局において、これらの住所等の変更の事実を確認して職権で登記をしますので、住所等の変更があるたびに自分で登記申請をしなくても義務違反に問われることがなくなります。個人の場合は検索用情報(氏名、氏名の振り仮名(外国人にあってはローマ字氏名)、住所、生年月日、メールアドレス)を事前に提供すれば、法人の場合は会社法人等番号の登記をすれば、スマート変更登記が利用できます。確かに、法務局が検索用情報に基づいて住基ネットに照会するのは2年に1回程度とされているため、不動産を売却したり担保に入れたりする予定があり、早急に登記情報を現在のものと一致させるには、別途所有者が自分で住所等変更登記を申請する必要があります。しかし、前述のような過料リスクを回避できるだけでなく登録免許税も不要となるので、スマート変更登記を利用してみてはいかがでしょうか。
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この記事を書いた人
弁護士
弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

























