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賃貸物件を共同相続した場合の注意点

森田雅也森田雅也

2026/04/14

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不動産の相続は巷でよくあることですが、その不動産が賃貸物件だった場合、どのようなかたちで被相続人の賃貸人たる地位を引き継ぐことになるのでしょうか。また、賃貸人としての地位を共同相続した後の物件の管理はどのように行うことになるのでしょうか。今回は相続による賃貸人の変更(改正民法605条以下)と、共同相続した物件の管理について紹介します。

賃貸人たる地位の移転

改正民法605条では「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。」、同条の2第1項には「前条、借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。」との規定があります。

賃借権は債権ですが、所有権などの物権に類似する権利として考えられていて、その旨の登記をして対外的に自己の賃借権を証明することができます。また、賃借権それ自体の登記をしなくても、土地賃貸借契約では土地上に自己名義の建物を建てていること、建物賃貸借契約では建物を占有していることで同じく賃借権を証明することができます。このようなかたちで賃借人の賃借権が証明されている不動産が譲渡(共同相続)された場合、賃貸人たる地位も譲受人(共同相続人)に移転することになります。ただし相続によって不動産を取得し賃貸人たる地位が移転されたからといって、当然に賃借人に対して賃料を請求することができるわけではないことには注意が必要です。

同条第3項において「第1項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。」との規定があります。つまり不動産を共同相続した場合、その旨の所有権移転登記手続きをしなければ対外的に自分が賃貸人であると証明することができないばかりか、賃借人が賃貸人の変更について争った場合には賃借人に対して賃料請求をしたり、明渡しの際の原状回復費用を請求するなど本来賃貸人が行使できるはずの権利が当然には行使できなくなります。

民法605条の2は2017年に民法が改正された際にこれまでの判例をもとに新設されたものです。このような改正によって賃貸人の地位の移転及びその旨の対抗要件の具備が法律で明確に制定されたことで、相続によって賃貸物件である不動産を取得した場合には迅速にその旨の所有権移転登記を具備することの重要性が可視化されました

賃貸物件の管理

共同相続後、物件の所有権移転登記を具備して確定的に賃貸人たる地位を取得したのちの物件の管理はどのように行うのでしょうか。ここでのポイントは賃貸人が自分1人ではなく、複数人であることです。以下では被相続人が死亡し、相続人がABCの3名で法定相続分に従った相続が起こり、その旨の所有権移転登記がされた場合を例として解説します。

もし自分1人で物件を賃貸しているのであれば自身の判断で物件の管理をすることができますが、複数人での賃貸の場合、独断で行動できない場面が出てきます。まず、このように複数人で共同して1つの物を所有している共同関係を「共有」といいますが、民法249条1項では「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」と規定されており、上記の例のように3人で1つの賃貸物件を共有している場合、ABCはそれぞれ3分の1の持分に応じて物件を使用することになります。そして、共有物の使用にあたって「保存行為」についてはABCそれぞれが単独で行うことができます(252条5項)。「保存行為」は物件を不法に占有する者に対する明渡しを求める行為など、共有物の現状を維持する行為のことです。

一方で共有物を「変更」する場合はほかの共有者全員の同意を得なければなりません(251条)。上記の例だとAが共有物に「変更」を加える場合には、ほかの共有者全員、すなわちBCの同意を得る必要があります。なお、共有物を「管理」する場合には各共有者の持分に応じて過半数で決することができます(252条1項)。上記の例だとAが共有物を「管理」する場合、持分がそれぞれ3分の1ずつであることに鑑みBかCいずれか一方の同意を得れば3分の2の同意があったことになるのでこれで足り、BC双方の同意は不要です。ここでいう「変更」とは物理的な形状や機能効用を大幅に変更すること(大規模工事など)をいい、軽微な変更は含まれず共有物の使用が「変更」に該当するかどうかについて争われることは稀です。他方、「管理」とは共有物の現状を維持し、これを利用し、さらに改良してその価値を高めることを意味し、どのような行為が「管理」行為にあたるかについて争いになることがあり、これについての解釈を示した裁判例があります。以下では賃貸物件の利用行為について「管理」か「保存」かが争われた場合の判断を示した裁判例を紹介します。

物件を賃貸していたが、賃借人が賃料を支払わない場合、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されたと認められるに相当する期間、概ね3か月の滞納を基準に契約を解除することができます。それでは、物件を複数人で共有している場合、賃借人の賃料不払いを理由に単独で解除をすることができるでしょうか。

最判昭和39年2月25日 

共有者が共有物を目的とする貸借契約を解除することは民法252条にいう「共有物ノ管理ニ関スル事項」に該当し、右貸借契約の解除については民法544条1項の規定の適用が排除されると解すべきことは所論のとおりであるから、原審が、上告人および訴外Dの共有物である本件土地を目的とする貸借契約の解除についても同項の規定が適用されることを前提として、上告人だけで右契約を解除することはできないとしたのは、法律の解釈を誤ったものというべきである。しかし、共有物を目的とする貸借契約の解除は民法252条但書にいう保存行為にあたらず、同条本文の適用を受ける管理行為と解するのが相当であり、前記確定事実によれば、上告人は本件土地について2分の1の持分を有するにすぎないというのであるから、同条本文の適用上、上告人が単独で本件貸借契約を解除することは、特別の事情がないかぎり、許されな
いものといわねばならない。

裁判例では賃貸借契約の解除は「保存」ではなく「管理」に該当するため、持分2分の1である共有者が単独ではできない、としています。ちなみに判旨では民法544条1項についても触れられていますが、この条文は「解除権不可分の原則」についての規定です。この条項では複数人で契約を締結している場合の解除は原則「全員」で行わなければならないとされていますが、賃貸借契約の解除については例外的に252条に則って共有者の過半数の同意によってできるという見解もこの裁判例によって示されています。

冒頭であげた例によるとBC両方が賃貸借契約解除に反対した場合、A単独で解除することはできません。もし賃借人の賃料不払いを理由に契約を解除し、賃借人に物件の明渡しを求める場合、訴訟内において契約解除についてBかCいずれか一方の同意を得た旨の主張立証をしなければならないことになります。

以上のように相続によって賃貸物件を取得した場合には、賃貸人変更に伴う相続持分(ないしは遺産分割によって決せられた持分)に従った所有権移転登記手続き、そして解除など物件の「管理」にあたる行為においてはほかの共有者の同意を得た上での実施など、当初から自分が単独で所有していた物件を賃貸する場合よりも多くのプロセスが必要になります。このようなリスクを理解した上で、相続の際の取得財産や持分割合の決定、そして共同して賃貸することになった場合にはほかの共有者との日頃からのコミュニケーションなどをすることが後のトラブル防止につながるでしょう。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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