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「犬神家の一族」の相続相談(5)――いかに遺留分を放棄させるか(1/3ページ)

谷口 亨谷口 亨

2021/05/08

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横溝正史の長編推理小説『犬神家の一族』。犬神財閥の犬神佐兵衛が遺した遺言状(現在の「自筆証書遺言」)をきっかけに、次々と殺人事件が起きるという小説です。犬神家の家族構成は、通常であっても相続トラブルが起きかねないような複雑なものであるうえに、佐兵衛の遺言状は、財産を簡単に相続できず、あえてトラブルを起こそうとしているようにしか思えない内容でした。

そんな犬神家の一族の遺産相続問題を、事件が起こることなく、極力、佐兵衛の思いに沿ったかたちで円満な解決策を考えようというのがこの連載です。

第1回目では、一代で莫大な財産を築いた被相続人である犬神佐兵衛という人物の人となり、第2回目では、犬神家の一族の複雑な家族関係、それを取り巻く人間関係。第3回目では、佐兵衛が残した複雑怪奇な遺言状とそこに込められた思い。そして、第4回目では、佐兵衛がもっとも敬愛する恩人の血縁者で佐兵衛が可愛がっていた野々宮珠世を受託者とした信託契約による相続案を検討しました。しかし、珠世を中心とした相続の提案では、犬神家に起こりそうな忌まわしい事件を防ぐことは難しそうです。

そこで今回は、珠世さんとは違う人を受託者にした相続案を考えてみます。

◆◆◆

受託者にとって最大のメリットを考える

第4回目では珠世さんを受託者とした相続を考えました。しかし、遺留分の問題(遺留分とは相続人に法律上保障された一定の割合の相続財産のこと)や、受託者であり、受益者である珠世さんにかかる負担、彼女が狙われる危険性を軽減することは難しいようです(「犬神家の一族」の相続相談(4)――「信託」を使えば犬神家で起こる事件を防げるか)。

新しい案を考えるにあたって、犬神佐兵衛さん(以下、佐兵衛翁)遺言状を改めて読み返すと佐兵衛翁は、松子さん、竹子さん、梅子さんの名前はまったく出てきておらず、ここからこの三人娘には一切相続させたくないという思いが強くあることがうかがえます。にもかかわらず、三人の娘には遺留分があるわけですから、これでは佐兵衛翁の思い通りにはなりません。

一方、佐兵衛翁には三人娘の息子である佐清くん、佐武くん、佐智くんの三人の孫に対しては財産を遺すことはやぶさかではないということが読み取れます。

そこで私が考えたのは、佐兵衛翁がなくなったあとの相続トラブルが犬神財閥の経営に影響が及ばないように、佐兵衛翁の財産を会社の経営と個人財産を分離。そのうえで個人財産の受託者を、佐兵衛翁があえて相続させたくない松子さん、竹子さん、梅子さんの三人娘にして、受益者を佐清くん、佐武くん、佐智くんというそれぞれの息子にするという信託契約のスキームです。

いわば三人娘の遺留分相当を必ずそれぞれの息子たちへ相続させることを松子さん、竹子さん、梅子さんを受託者とすることで見届けさせ、納得してもらうのです。

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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