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「犬神家の一族」の相続相談(2)――複雑な家族関係に込められた犬神佐兵衛の思い(1/2ページ)

谷口 亨谷口 亨

2021/02/15

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横溝正史の長編推理小説『犬神家の一族』。戦後直後の昭和20年代、莫大な財産を築いた犬神財閥の犬神佐兵衛が遺した遺言状(現在の「自筆証書遺言」)をきっかけに、次々と殺人事件が起きるという小説です。名探偵・金田一耕助が登場し、映画やテレビドラマにもなったことでよく知られています。

『犬神家の一族』が、横溝正史のほかの小説、あるいはこれまで数々の作家によって書かれてきた相続争いを描いた小説に比べて興味深いのは、被相続人である佐兵衛が、遺言状で財産を簡単には相続できないようにしているところです。佐兵衛にはその理由があるはずですが……。

そこで、時代背景も現代の民法とも異なる、さらに小説という架空の話ではありますが、実際にこうした相続の相談を受けたら、私ならどういった提案をするか――。現代の弁護士として、大きなトラブルが起きないように、また佐兵衛の思いと大きくずれないように、犬神家一族の相続を真剣に考えていきます。

◆◆◆

子どもはすべて異母兄弟! 複雑な犬神の家族関係

第1回目では犬神佐兵衛(以下、佐兵衛翁)の生い立ち、人となりについてお話ししました。2回目では、犬神家の一族とその周辺の人間関係について、ご紹介していきましょう。

小説ということもあるでしょうが、犬神家の家族構成は、とても特殊です。ただし、似たような話は私もたまに耳にしますから、架空の話だけの家族構成ともいえません。

まず、佐兵衛翁には正妻がおらず、実子の母親はすべてが違う女性です。遺言状の内容云々以前に、こうした犬神一族の特殊な家族構成が、相続をめぐる事件を引き起こす要因のひとつのようにも思います。

その犬神家の一族と犬神家と関係の深い野々宮家の家系図が次の通りです。

犬神家・野々宮家 家系図

まず、佐兵衛翁の長女の松子さん、次女の竹子さん、三女の梅子さん、この3人は佐兵衛翁の実子として公に知られています。しかし、前述のとおり生母は異なっており、いずれの母親も正妻ではありません。

また、3人には夫がおり、3人の夫はともに「養子」になっています。養子というと、相続権が発生しますが、それについてはとくに言及されていないため、相続権のないいわゆる「婿入り」というのが妥当ではないかと思います。

しかし、それぞれの婿には犬神財閥での役割があります。

松子さんの夫(氏名不詳)は他界していますが、存命中は那須市の本店、竹子さんの夫・寅之助さんは東京支店、梅子さんの夫・幸吉さんは神戸支店の、めいめいが支配人を務めています。

さらに松子さんには佐清(すけきよ)くん、竹子さんには佐武(すけたけ)くんと小夜子(さよこ)さん、梅子さんには佐智(すけとも)くんという子ども、つまり、佐兵衛翁の孫がいます。

次ページ ▶︎ | 不遇な生い立ちの犬神佐兵衛の長男 

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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