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「犬神家の一族」の相続相談(4) ――「信託」を使えば犬神家で起こる事件を防げるか(1/3ページ)

谷口 亨谷口 亨

2021/04/13

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横溝正史の長編推理小説『犬神家の一族』。犬神財閥の犬神佐兵衛が遺した遺言状(現在の「自筆証書遺言」)をきっかけに、次々と殺人事件が起きるという小説です。

これまでの3回は、

第1回目では、一代で莫大な財産を築いた被相続人である犬神佐兵衛という人物の人となり、臨終の席で垣間見せた財産をめぐる佐兵衛の不適な試みと一族の欲望。
第2回目では、犬神家の一族の複雑な家族関係、それを取り巻く人間関係。
第3回目では、佐兵衛が残した複雑怪奇な遺言状とそこに込められた思い。

について見てきました。

いよいよ今回は現代の弁護士である私が、佐兵衛の思いを実現しながらも大きなトラブルが起きない具体的な相続方法について提案していきます。

最初の案は、キーパーソンとなる野々宮珠世を受託者にした信託契約案です。果たして、この犬神家の相続が事件の起きないようにどう円満におさめるか――。

◆◆◆

生前の犬神佐兵衛に提案したい「信託契約」

これまでの連載で紹介してきた通り、犬神佐兵衛さん(以下、佐兵衛翁)の遺言状はとても複雑です。弁護士である私から見ると、家族間にもめごとを起こそうとしているとしか思えない内容です。

この遺言状を現代の民法に当てはめれば、間違いなく“無効”となるでしょう。

その理由のひとつを挙げると、佐兵衛翁の遺言状にあるような“誰々と結婚したら……”“誰々が生きていたら……”“誰々が死んでいたら……”といった、相続開始後の結婚や死亡を条件に相続はできないからです。

そこで今回から、いよいよ犬神家にもめごとを起こさない相続の方法を考えていきたいと思います。

もめごとを起こさない第一歩として、本来、佐兵衛翁は遺言状を作成するときに古館弁護士にでも相談するべきだったでしょう。そうすれば、なるべくもめごとが起きないきれいな遺言状が遺せたのではないでしょうか。とはいえ、佐兵衛翁は一代で巨大な財産を築き上げたワンマン経営者。弁護士に相談するなどという謙虚な姿勢は持ち合わせていなかったとも想像できます。

もちろん、推理小説なので事件が起きなければ話は進みませんが、実際に私がこうした相談を受けたと仮定して話を進めていきます。

もしも、私が佐兵衛翁から相談を受けたなら、そして佐兵衛翁の願いが叶うような提案をするなら──、私は「信託契約」を使った方法を提案します。なぜなら、信託契約は遺言状に比べて、被相続人の思いをよりかたちにすることが可能だからです。

信託契約とは、自分が亡くなる前、自分が信頼できる人に財産の管理を任せる方法です。ただし、遺言状と違って亡くなった後の財産をどうしたいのかを生前にオープンにしておくことになります。

一方、遺言書は、第1回目でも説明しましたが、自分だけの思いを書面に遺し、開示されるのは死後になります。もちろん、生前に内容を明らかにしておくことも可能ですが、内容を明らかにしないことの方が多いようです。そのため、被相続人の死後、公開された内容に不公平を感じて、まさに“争族”が起こるわけです。

次ページ ▶︎ | 佐兵衛翁が全財産を相続させたい珠世を受託者に 

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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