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まちと住まいの空間 第39回 ドキュメンタリー映画に見る東京の移り変わり⑩ ――東京の新たな街づくり、近代化への歩み(『大東京祭 開都五百年記念』より)(4/4ページ)

岡本哲志岡本哲志

2021/08/27

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上空から東京を俯瞰したエンディング

「このような無限の夢を抱く良い子どもたちを今日は空に案内しました」とナレーションが入り、絵画展で入賞した女生徒3人が自衛隊のヘリコプターで東京見物に飛び立つ。ヘリコプターからの主な撮影は、これも東京港と銀座。ナレーターの高橋圭三が「建設を急ぐ東京港」と語り、多くの船が行き交う東京港の全貌がカメラにおさまる。

空からの銀座の街並みは、手前に松屋、その先に和光の時計塔が見える銀座通り、外堀川が埋め立てられ、高速道路建設中の数寄屋橋周辺を中心に晴海通りが撮られていく。エンディングは国会議事堂からはじまり、オープニングのフィルムを逆回しするように、虎ノ門交差点付近と背後の東京港を映し、映画は終わる。


上空から見た1970年頃の銀座(晴海通りを中心に)

昭和27(1952)年に東京の中野区若宮で生まれ育った私は、この映画が映し出す風景と同じ時間と空気を共有している。ただし、西武新宿線沿線の都立家政駅近くに住まっていた4歳当時、東京湾に建設されつつあった東京港の姿、世界的に知られた日本一の繁華街・銀座を実体験として身近に感じていたわけではなく、別世界の存在でしかなかった。

それから65年も経つと、40年以上続けてきた東京の水辺研究、30年続けている銀座研究のおかげで、幸か不幸か映画の中のシーンはリアリティを持って視聴する自身の姿がある。本当にリアリティある懐かしさは、40年前からの東京港であり、30年前からの銀座なのだが。ただし、体験から生まれたリアリティにギャップがあるとしても、古い映像を視聴することで想像力を逞しくさせてくれる。古写真や絵葉書で見ていたはずの場所は視点場の違いや動きのある動画により、新しい発見が思いのほか多く、いつの間にか近代フィルムにはまる。

【シリーズ】ドキュメンタリー映画に見る東京の移り変わり
①地方にとっての東京新名所
②『大正六年 東京見物』無声映画だからこその面白さ
銀座、日本橋、神田……映し出される賑わい
④第一次世界大戦と『東京見物』の映像変化
⑤外国人が撮影した関東大震災の東京風景

⑥震災直後の決死の映像が伝える東京の姿
関東大震災から6年、復興する東京
⑧ 昭和初期の東京の風景と戦争への足音
⑨高度成長期の東京、オリンピックへ向けて

【シリーズ】「ブラタモリ的」東京街歩き

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この記事を書いた人

岡本哲志都市建築研究所 主宰

岡本哲志都市建築研究所 主宰。都市形成史家。1952年東京都生まれ。博士(工学)。2011年都市住宅学会賞著作賞受賞。法政大学教授、九段観光ビジネス専門学校校長を経て現職。日本各地の土地と水辺空間の調査研究を長年行ってきた。なかでも銀座、丸の内、日本橋など東京の都市形成史の調査研究を行っている。また、NHK『ブラタモリ』に出演、案内人を8回務めた。近著に『銀座を歩く 四百年の歴史体験』(講談社文庫/2017年)、『川と掘割“20の跡”を辿る江戸東京歴史散歩』(PHP新書/2017年)、『江戸→TOKYOなりたちの教科書1、2、3、4』(淡交社/2017年・2018年・2019年)、『地形から読みとく都市デザイン』(学芸出版社/2019年)がある。

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