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年老いた親が騙されないように――認知反射テストにトライした80代

朝倉 継道朝倉 継道

2024/02/12

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詐欺の電話が怖い

離れたところに住んでいる筆者の母とは、よく電話で会話をする。彼女は、数年前に80歳を超えた。自宅には老人の住む家らしく、FAX付きの固定電話が置いてある。この古い電話機に、少し前、ある公共機関との関係を謳う人物から電話がかかってきたそうだ。

相手は男性だった。声は若々しく、丁寧な口調で話し始めたという。内容は、ある公金の給付に関してのことだった。しかしながら、これを聴きつつ、彼女はほどなく疑いを抱いた。「申し訳ないけれど、今急ぎの来客中なんです。ごめんなさいね」――早々に受話器を置いたという。

合格点の対応だろう。もっとも、この電話が実際に特殊詐欺など、危ない相手からのものであったかどうかは判らない。ともあれ、母としては、それ以降気持ちが落ち着かない。今後が不安だという。

「またかかってきたらどうしよう」「いつか騙されるのでは」――。

昨日よりも今日、今日よりも明日と、老いが日を重ねるごとに増す身にあっては、そのように悩んでしまうのも無理はない。

CRT(認知反射テスト)をぶつけてみた

そんなわけで、筆者は、先般帰省時、この老母を少しでも元気づけてやることをひとつのミッションとした。そのため、こんな方法を考えてみた。彼女に「CRT」をぶつけてみたのだ。

CRT(Cognitive Reflection Test)は、日本では「CRTテスト」あるいは「認知反射テスト」と呼ばれている。アメリカのイェール大学でマーケティング論を教えているシェーン・フレデリックという教授が考えたもので(2005年)、短く単純な3つの設問で構成されている。

ちなみに、このCRTを日本で有名にした一番のものといえば、それは早川書房が18年に出した和訳本ではなかっただろうか。「知ってるつもり 無知の科学」という邦題になっており、今も手に入れやすい。

さて、そのCRTを構成する3つの“クイズ”のうち、筆者は最もよく知られているひとつを母に出題した。「バットとボール問題」などと呼ばれるもので、以下のとおりごく単純な内容となっている。

「バットとボールを購入した。合わせて1,100円だった。バットはボールよりも1,000円高かった。ボールはいくらだろうか?」

(元のアメリカ版ではバットとボールを合わせて1ドル10セント、差は1ドルとなっている)

どうだろう? あなたはボールをいくらと思っただろうか。筆者の80歳を超える母は、これに面白い反応を示した。

悩んだ老母、計算を始める

ちなみに、この問題、多くの人が、

「ボールは100円」

と、早々に答えるらしい。アメリカのいわゆる名門大学の学生たちも含めて、多くがそう回答したそうだ。(アメリカでの場合は10セント)

ところが、筆者の母の場合、面白いことにまずは悩み始めた。

「え~、ちょっと待ってよ……。たとえば、バットが900円で、ボールが200円とする……。合わせて1,100円。でも、これだと差が700円になっちゃうものね……」

メモと鉛筆を出し、数字を書き始め、

「じゃあ、バットが1,000円……。けど、これだとボールが100円になる。やっぱり差が合わないか。どれどれ、そろばんを――(この人はそろばんが速い)」

そこで、筆者は、

「お母様、OKです」

と、切り上げた。なぜなら、この時点で目的は十分に達したと思ったからだ。

「お母様、その調子で大丈夫です。これからも、誰からのどんな話でも、投げかけられたらまずはそんな風にじっくりと考えて下さい。慌てて答えを出そうとせず、今のように深く考える癖がついていれば、おかしな話に騙される可能性はグッと減るはずです」

以上は、まさに筆者の本音だ。

なお、このとき、仮に母が(多くの人々と同様に)「100円」と回答した場合、筆者はこんな言葉を彼女に返そうと準備していた。

「お母様、その答えはアメリカの優秀な学生も含めた多くの人と同じです。けれども、実は間違いなんです。そして、その答えを出した人は、悪人が仕掛ける罠や、作り話に騙される可能性が少し高い人かもしれません。ですが、そのことを今お母様が知ったのは幸いです。騙される人のほとんどは『自分は騙されない』と思っている人ですから」

ちなみに、この問題の正解は50円だ。(アメリカ版では5セント)

直観型と熟慮型

CRTについては、「最も簡単なIQテスト」などという評価もあるが、直截には、このテストは答えた人が「直観型」の人か「熟慮型」の人であるかを見分けるのに都合がよいものとされている。

  • 「直観型」とは――、脳裏に反射的に浮かんだ答えに対し、疑いを持たず、そのまま正解と思い込む傾向を持つ人。
  • 「熟慮型」とは――、直観を得てもそれを疑い、立ち止まってじっくりと考えてみる人。

すなわち、今の「バットとボール問題」の場合、直観型の人は「100円」とスピーディーに答えやすい。問題文に出て来た数字(1,100円、1,000円)に対し、反射的に思い浮かびやすいのがこの答えとなるからだ。

そのうえで、結論からいうと、直観型の人はウソや作り話に騙されやすいか、あるいは衝動的な判断や行動をしやすいと考えられている。

なおかつ、そもそも直観型の人は手っ取り早く判断してしまうことを「好む」らしく、たとえば購入する商品を選ぶ際、説明が詳しいものより、それがより少ない方に惹かれる傾向も強いという。

CRTの残り2問を紹介しよう。

「ある湖面でスイレンが繁殖している。その面積は毎日2倍に増える。湖面全体が48日で覆われるとすると、半分が覆われるのは何日目だろうか」

「5台の機械がある。これらを5分間動かすと、製品が5個出来る。この機械100台で100個の製品を造るには、何分必要か」

いかがだろう? 正解はこの記事の最後に記しておこう。

なお、先ほど挙げた本(「知ってるつもり 無知の科学」)の記述によれば、以上のCRT3問に挑戦した結果、全問正解を得られたのは、あのマサチューセッツ工科大学(MIT)の学生でさえ、約48%に留まったという。

さらに、調査方法の記載は見えないものの、同成績の達成者は「アメリカ国民の20%に満たない」とも紹介されている。

(あなたは、今「たったの20%!アメリカ国民ヤバい」などと、反射的に思っただろうか。これは3問とも正解した人の割合だ。1問正解した“ちょっとだけ熟慮型”の人や、2問正解した“そこそこ熟慮型”の人も、ほかにたくさんいるはずだ)

熟慮の重要性

以上、つい先日、筆者のもとに生じた個人的なエピソードを綴ってみた。

なおこの話は、もちろんのこと、老いた親にCRT――認知反射テストをぶつけることで、彼らが詐欺に騙されなくなるなどと主張するものではない。

彼らがデマを信じてSNSを混乱させたり、陰謀論の語り部になったりすることを抑えられると言っているわけでもない。

以上の話はあくまで、自身の老いに不安を抱くひとりの母親と、それを元気づけようとした息子の間に交わされたやりとりにすぎない。そのことは、ここで厳に断っておく。

しかしながら、筆者にひとつ言いたいことがあるとすれば、それは年齢を問わずいえることとしての熟慮の重要性だ。

なぜなら、あらゆるものごとに正解が見出しにくい、あるいは、正解の消費期限が短い現在において、それでも正解といえるものが世のなかにあるとすれば、それは「考えること」だと思うからだ。

すなわち、正解が見つかりにくいこの世界で、ただひとつ、われわれがよりよく生き、活きるための正解が存在するとすれば、それは「考える」こと。

「考え続ける」こと。

そんな仮説を最後に述べたかったがために、筆者はこの記事を考えてみた。

「考えるな、感じるのだ」

と、いう格好いいセリフも古い映画にはあるが、カッコよさはともかく、感じたままに動くばかりでは、爬虫類や細菌の方が、われわれよりも生き方が美しいということにもなる。

なお、CRTの残り2問の正解は以下のとおり。

「ある湖面でスイレンが繁殖している」の問題 ―― 47日目
「5台の機械がある」の問題 ―― 5分

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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