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国の安全を揺るがすリスク? それとも歓迎?

中国人による日本の不動産購入、 天地ほどに違う2つの“見方”を整理する

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イメージ/@inspirestock・123RF

中国人による日本の不動産の購入。反対意見、歓迎する意見、とかく議論となりがちだ。彼らの行動は、物件の埋もれた価値を見つけ、日本経済を活性化させてくれる力となるのか。それとも、わが国の安全保障を揺るがす脅威なのか。整理していこう。(文/朝倉 継道)

規制強まるアメリカ

ヨーロッパや中東での大規模な戦争・紛争のニュースにかき消されがちなのは仕方がない。だが、これも近ごろ矢継ぎ早に届いている海外からの重要な報せのひとつだ。アメリカで、中国人による土地購入を規制する動きが強まっている。主な理由は、安全保障上の懸念だ。中国人が一定の場所に土地を持つことをアメリカは現在、かなり神経質に受け止めている。その場所とは、軍事施設や港、空港、発電所など国の重要インフラ施設の近く、あるいは農地などだ。

規制の対象は中国人だけではない。他国の名前も挙がっている。しかしながら、狙いの中心が中国にあることは明白と言っていい。特に話題となったのが、昨年夏頃に日本でも報道が相次いだフロリダ州による新法の施行だ(7月1日)。これにより、市民権や永住権を持たない中国人による一定の土地などの買収が原則として禁じられた。対して、同法律が特定の人種や国籍への差別に当たるとする意見も多いが、似た法案は同州のみならず全米各地で議会に提出されたり、可決されたりするという状況となっている。

沖縄の島を買った中国人女性

日本でも、昨年初め頃にこんなニュースが一部をにぎわせた。ある中国人女性が、沖縄の島を買った旨を動画アプリで公表したのだ。場所は、日米の軍事関連施設が集中する沖縄本島の北方。尖閣諸島も浮かぶ東シナ海の東南端付近という微妙な位置にある。しかも、物件は人目の乏しい無人島だ。波風が立たない方がおかしな状況のなか、名義上の所有者となっていた会社の所在がはっきりしないとの報道が流れるなど、周囲の不安を大いにかき立てる“事件”となった。

ちなみに、島の名前は屋那覇島という。実際に買われたのはこの島の半分ほどだ。購入理由におそらく日本の安全や国益を損なうことにつながるような意図はないだろう。また、よく話題となる中国人による北海道の森林の取得など、類似する多くの事例でも同じことがいえるに違いない。しかしながら、彼らのこうした行動はわれわれの胸中に否応なくさざ波を立たせるものだ。それは、彼ら個々人の意思とは別個に存在する、ある事実と相まってのものになる。


伊是名島の南西に位置する屋那覇島(左)。面積は0.74平方キロメートルほど

中国「動員二法」への不安

ある事実とは。それは、中国における2つの法律の存在となる。「国防動員法」と「国家情報法」だ。このうち、前者は文字どおり有事の際、中国政府や軍が国民に動員を命ずるためのものとなる。そのうえで、この法律は適用が国外にいる中国人にも及ぶとされている点に不安が大きい。極端にいえば、中国政府が有事と認める事態が起きた際、彼らは日本国内の80万人近い在留自国民に対し、彼らの望む行動をとらせることができる。すなわち、その場で“軍務”に就かせることももちろん解釈として可能なわけだ。なお、ここで軽々に引き出すべき数字ではないが、一応挙げておくと、わが国自衛官の数は約23万人、警察官は約26万人となる。

さらに「国家情報法」だ。こちらは有事の際のみならず平時も適用される。政府の情報収集活動への協力を国民に義務付ける法律となる。これをやや刺激的にいえば、海外に在留する自国民を諜報や工作に使えるということになる。そのうえで、これが適用された場合、たとえ個人の想いがどうあろうと、親兄弟が中国国内にいる(=当局の視界の内にある)といった状況の下では、要請または命令を断ることは、ほとんどの人にとって難しいはずだ。

以上が、日本のみならず各国が懸念を抱く中国の“動員二法”となる。なおかつ、これを運用する政府といえば、われわれ自由民主主義国家とは一線を引く価値観と行動で知られる集団だ。すなわち、こうした抜き差しならない環境下にある人々に対して、たとえ当人に害意はなくとも、無分別に土地を取得させておくのは危険ではないかというのが、日本においても、アメリカにおいても、少なくない人々の意見となるわけだ。要は、諜報、監視、工作、破壊等、あらゆる活動の拠点となりうる場としての「土地」であり「不動産」との見方になる。

もっとも、これらいかめしい法律も、実態は半ば理念であって、運用も甘いのならばまだ少しはいい。ところが、近年中国にあっては、海外での同胞の行動を監視、統制するための警察組織を各国に展開している疑いが持ち上がっている(海外警察などと呼ばれる)。同組織の活動は、一説には政府の意に沿わない在外自国民への脅迫や誘拐にも及んでいるとされている。事実ならば、当然のことながら他国への重大な主権侵害となるが、併せて中国という国の意志が誠に甘くないことを示す一例ともなるだろう。

日本人は移民増に耐えられない?

一方、歓迎論もある。中国人も含め、外国人による日本の不動産購入を喜ぶべきとする声もたくさん存在する。その背景には、わが国が抱えている2つの関連する課題がある。1つは、少子化・人口減少によって否応なく縮小していく国内市場。もう1つは、それを基盤とした国の経済力、ひいては国力低下への危機感となる。

そのうえで、これらに対する処方箋としては、手っ取り早いものが2つある。1つは移民だ。技能実習制度のような小細工を弄するのではなく、これからは“正しく”移民を増やしていく。そのことで単純には労働市場と消費市場が拡大する。一挙両得だ。今の日本が抱える現状にあっては、まさに即効薬となるやり方となる。

しかし一方で、移民を増加させることはメリットの反面、さまざまな国民的負担を増やす可能性も生む。なかんずく、統計などには表れにくい、社会的ストレスへの拒絶感といったものも現在の日本にあってはおそらく重い。そのため、今後もわが国の移民政策にドラスティックな進展はないと予測する人が多いのも現実だ。そこで、そんな人が次に推す2つ目の処方箋が「投資」となる。2つ目ではなく、1つ目にこれを推す人ももちろんたくさん存在する。

中国人は日本にとって理想の投資家?

ここで言う投資とは、海外からの投資のことだ。つまり、主に人ではなく、お金に来てもらう。海外の人々に対し、お金を今よりももっとたくさん日本へ投じてもらうのだ。そして、そのお金で日本の会社や、建物や、土地や、あるいは何かの権利や、コンテンツなど、さまざまなものを買ってもらう。買ったそれらを利用し、大いに儲けてもらう。儲ける過程ではわれわれ日本人もしっかり稼がせてもらう。たくさんの契約金や給料を払ってもらうのだ。もちろん、彼らの商売のマーケットを本国にもどんどん広げてもらう。旅行客も呼んでもらう。すなわち、わが国が生きる市場を海を越えて彼らに拡大してもらうことになる。

そのためには、彼らの目を大いに生かしてもらう。われわれには気付けない、日本の技術や環境の持つ隠れた価値を見出してもらい、それをビジネスにつなげてもらう。つまり、これはよく知られるところの北海道・ニセコへの投資などで先行して起きていることだ。日本に存在する隠れた価値の発見と、それをグローバルな市場ニーズに結びつける作業は、われわれにとってやや難しく、逆に、彼らにとっては幾分か容易いはずだ。

そうした意味で日本への投資という観点に立つと、中国人というのはまさに格好の存在に思えてくる。まずは、彼らの資金規模だ。あれこれ言うに及ばない。現在の中国および中国人は、直近の景気減速はあるにしても、いまだ世界の工場改め「世界のお財布」と言っていい。

さらに、彼らは市場を背後に抱えている。当面は世界のどこにも負けないであろう巨大な本国市場だ。日本への投資をそこでの利益に結びつける力において、彼らは条件的に他国の競争相手をしのいでいる。

加えて、中国人は先ほど挙げた外国人としての「目」も当然ながら持っている。なおかつ、うれしいことにその目線は、多くの場合日本の文物への憧れとステータス意識が含まれたものになっている。つまり、彼らは往々にして日本の価値にプレミアを付けてくれる存在であるということだ。

最後は、彼らが背負う「圧」となる。彼らの国家体制が国民に及ぼす不安が、彼らの目を常に海外投資へ向かわせがちなのはよく知られるところだ。中国人は資産を持つほど、少なからずそれを守るために海外へ持ち出したいとも考える。その際にあって、最も物理的な距離が近く、国と社会が安定していて、かつ豊かな場所こそが日本だ。

山のなかのショッカー基地  

以上のように、中国人が日本に投資することは、見方によっては誠にWin-Winなこととなる。日・中は、この面では本質的に相思相愛の関係にあると言っていい。そこで、不動産という投資先のことを考えると、中国人による日本の不動産購入への賛成派からは、こんな意見が出てくることになる。それは「不動産は物理的な貿易財ではない」ということだ。

単純に言おう。不動産は持って歩けないのだ(一部の建物は解体、移転が可能だがそれは除くとして)。中国人が日本の土地をどれだけ買おうと、それを本国に持って帰れるわけではない。名義はたとえ彼らにあろうとも、その所在は日本国内なのであって、そこを統治しているのはわれわれの政府にほかならない。なおかつ、その不動産の利用を管理し、監督する決まりごとは厳然として日本の法治下にある。もっといえば、日本国民総員の注視、監視の下にある。そのため「いざというときはこれほど動静を押さえやすく、隠されも持ち出されもしないものにあって、買われることを恐れる必要などない」というのが、そうした人々の意見となる。

そこで考えてみよう。先ほどの「動員二法」への不安だ。諜報や工作の拠点に土地が使われるというが、そんな不安ならば、今はサイバー空間のなかにこそおそらく100倍多い。あるいは、防衛に携わる人員を含む政官財の人間が行き交う赤坂や六本木の街角あたりにこそ、何倍も多いだろう。仮に、百歩譲ってたとえば中国の諜報機関が日本の安全保障を損なう目的を持って、自衛隊基地近くの土地を物色したとする。その際、彼らはそこに潜入するに当たって、足跡のつくような方法をそもそも用いるだろうか。売買契約だの登記だのといった、あからさまで時間のかかるプロセスをわざわざ踏むのかと問われれば、なるほど「山中に基地を作るかもしれないからショッカーには土地を売るな」的不安は、不安として実にピント外れなものにも思えてくるわけだ。

やじろべえの国との付き合い方

以上、中国人による日本の不動産購入に関わっての天地ほどに違う2つの見方を並べてみた。読者はどちらにより近いだろうか。

ちなみに、筆者はどちらにも傾くことができずにいる。理由を挙げると、まさに不確実性のひと言に尽きる。日本が戦後以来、極めて安定的な確実性の国であり続けているのに比べ、中国はいまだ不確実性に満ちた不安定な国だ。そんなやじろべえのような存在が、今や世界第2の経済力を背負ってしまっている。

すなわち、「山中に基地を作るかもしれないからショッカーが来ても土地を売るな」は、それこそファンタジーのはずだ。だが、ファンタジーを想定しなければ不安な危なっかしさも今の中国が示す現実の姿と言っていい。現に、南シナ海等々を見るといい。相手によってはこの国は頓着なくショッカーに変貌する。

よって結論だ。われわれは、不動産投資を含む彼ら愛すべき隣人のあらゆる動きに対し、見方を一方だけに絞るべきではないだろう。楽観論と脅威論の間を常に揺れておくのが賢明だ。

なので、離島の土地を買うのはこちらの神経もすり減るのでぜひご遠慮いただこう(法規制を広げるべきだ)。

一方、後継者のいない旅館はぜひ買ってもらい、客を呼び、温泉街を大いに盛り上げてほしい。

 


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この記事を書いた人

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