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まちと住まいの空間 第39回 ドキュメンタリー映画に見る東京の移り変わり⑩ ――東京の新たな街づくり、近代化への歩み(『大東京祭 開都五百年記念』より)(2/4ページ)

岡本哲志岡本哲志

2021/08/27

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昔と今、繁華街の入れ替わりと慶事の夜の彩り

祝い事といえば、「薪能(たきぎのう)」か。

「羽衣」を観世流長老の橋岡久太郎(1884〜1963年)が舞う。花火は定番だろう。ナイアガラといわれる花火の光景は、画面が暗すぎてよく分からないが、日比谷濠の石垣か。L字に曲がった濠のようにも見える。天皇が住まう宮殿近くであれば、花形の打ち上げ花火は当然のごとくできない。


現在の日比谷濠(2020年撮影)

浅草といえば、賑わいの定番とのイメージが強い。しかし、映画には浅草の商店街が映像としてわずかに差し込まれたに過ぎない。

現在の鉄筋コンクリート造で建てられた雷門は、昭和35(1960)年に完成する。

旧暦慶応元年12月14日(西暦1866年1月30日)に焼失して以来、1世紀近くの間不在のままだった(現在の雷門の場所に仮設的なものは幾度かつくられていた)。本格的な雷門の建設は、高度成長期に入り、新しい趣向や娯楽に人々の目が向けられ、戦前まで圧倒していた東京名所の主役だった浅草に危機感があったと思われる。


現在の雷門(2021年撮影)/編集部

この映画でも繁華街の主役は銀座が圧倒し、浅草はターミナル駅を核に繁華街として成長する新宿にも抜き去られた感があった。人通りの少ない商店街では「大東京祭」「五百年祭」の垂れ幕が寂しげに撮られた。その後映像は、夜の街頭に。イルミネーションをあしらった花電車が夜の銀座通りを連ねて走る。多くの人たちが銀座、新宿などの繁華街に出て提灯行列を行なった。

ディズニーランドでのパレードは、ファンタスティックな光の演出が多くの人たちを魅了し、人気を呼ぶ。現在の街中では管理・運営が難しいのだろう。東京の街を行く花電車は、平成23(2011)年に都営荒川線が100周年を迎え昼間に花電車を走らせるが、映画が撮影された当時とはケタ違いの小さな規模だった。

現在の日本国憲法が昭和22(1947)年5月3日に施行され、それを記念して花電車が東京で盛大に運行した。ナレーターの高橋圭三が映画のなかで「久々に」と語る。それは、憲法施行記念の時に走った花電車を指す。

東京を展望する高層建物の移り変わり

大東京展の第一会場である丸の内にあった旧東京都庁舎の展示会場は、秩父宮雍仁親王(1902〜53年、大正天皇の第2皇子)の妻、勢津子妃(1909〜95年)によるテープカットではじまる。

一般市民に混じり22歳の皇太子(平成天皇、1933年〜)が来場した。55歳の昭和天皇(1901〜89年)も会場に訪れる。昭和天皇は、まず第二会場の日本橋三越百貨店に立ち寄り、都庁の建物(高さ43m、地上8階、地下2階、塔屋3階)へ。丸の内にある都庁の会場では、「江戸城の模型」、「明治、大正、昭和の風俗展」、「原子力マジックハンドの操作実演」などを見学した。

その後、昭和天皇は旧都庁屋上に行き、さらに上の塔屋最上階から東京市街を眺める。43mの高みからの展望は、せいぜい高さ100尺(約31m)のビルに限られていた当時の東京市街を遠くまで眺められただろう。

昭和28(1953)年に公開された映画『東京物語』で、紀子役の原節子が義理の父母を演ずる、笠智衆と東山千栄子を銀座の松屋屋上にある展望台へ案内する。国会議事堂とともに、その周辺の東京市街を見渡すシーンは昭和天皇の目線の高さと重なる。


絵葉書/銀座から国会議事堂方面の眺め

また、東京都映画協会が製作した映画『わたしたちの都政』(1960年、カラー、ユーチューブにて一般公開、映像提供:公益財団法人東京都歴史文化財団・東京都江戸東京博物館)では、高さ43mの都庁屋上から当時の東京市街360度をパノラマで映す(連続した360度のパノラマではない)。その高さからさらに10m加えた展望台の上で、昭和天皇が東京市街を一望した。大名庭園の築山(つきやま)ではないが、高さ10mの違いは目の前の同じ風景を異なる世界へと導く。

『わたしたちの都政』(東京動画)

東京ミッドタウン日比谷が開業し、毎日新聞(2019年4月28日朝刊)掲載記事のために三井不動産の部長と対談する機会があり、庭園の築山に上ったときと似た体験を現代空間でできた。一般の人たちが眺望を楽しめるテラスと、そこから数階上がったロビーと、視点場を変えて眺める。目の前には同じ風景でありながら、角度の違いで変質する光景を比較できた。


東京ミッドタウン日比谷ロビーからの眺望(2018年撮影)。テラスからの眺めと角度が異なる

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この記事を書いた人

岡本哲志都市建築研究所 主宰

岡本哲志都市建築研究所 主宰。都市形成史家。1952年東京都生まれ。博士(工学)。2011年都市住宅学会賞著作賞受賞。法政大学教授、九段観光ビジネス専門学校校長を経て現職。日本各地の土地と水辺空間の調査研究を長年行ってきた。なかでも銀座、丸の内、日本橋など東京の都市形成史の調査研究を行っている。また、NHK『ブラタモリ』に出演、案内人を8回務めた。近著に『銀座を歩く 四百年の歴史体験』(講談社文庫/2017年)、『川と掘割“20の跡”を辿る江戸東京歴史散歩』(PHP新書/2017年)、『江戸→TOKYOなりたちの教科書1、2、3、4』(淡交社/2017年・2018年・2019年)、『地形から読みとく都市デザイン』(学芸出版社/2019年)がある。

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