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2024年地価公示(公示地価)に思う3つのこと。バブル以来、半導体、能登半島地震

朝倉 継道朝倉 継道

2024/04/05

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3大公的地価調査のひとつ

この3月26日、国土交通省が「令和6年(2024)地価公示」の内容を公表している。いわゆる公示地価の発表だ。筆者の目に付いたところを3点挙げていきたい。

なお、地価公示とは、国交省によれば――

「地価公示法に基づき、都市計画区域等における標準的な地点の毎年1月1日時点の1㎡あたりの正常な価格を国土交通省土地鑑定委員会が判定・公示(令和6年地価公示では26,000地点で実施)するもの」

路線価(国税庁)、基準地価(都道府県)と並ぶ、3大公的地価調査のひとつとなる。

バブル期以来の上昇率

今回の地価公示では、「全国・全用途」の平均において、2.3%の上昇率が示された。この数字は、はるかにさかのぼって1992年以降最も高い。2%を超えたのもその前の年以来となる。すなわち、バブル崩壊以降、最大の伸び率となったわけだ。

ちなみに、バブル期を過ぎてからのわが国の地価は、上昇に転じたかと思えばリーマン・ショックに抑えられ、さらにコロナ禍にも翻弄され、と、これまで2度にわたり、大きな経済的変動によって頭を押さえつけられたかたちになっている。(下記参照)

よって、今後はどんな運命が待っているのか? 関係する誰もが、固唾をのんで見守りたい気分といったところだろう。

91年以降の地価公示『全国・全用途』の平均における上昇率の推移(概略)
1991年 11.3%
1992年 ▲4.6%(バブル崩壊が地価に波及)
――以後2006年までマイナスが続く――
2007年 0.4%
2008年 1.7%(リーマン・ショック発生)
2009年 ▲3.5%(リーマン・ショックの影響始まる)
――以後2015年までマイナスが続く――
2016年 0.1%
――以後2020年までプラスが続くが2%超えは無い――
2021年 ▲0.5%(前年よりコロナ禍)
2022年 0.6%
2023年 1.6%
2024年 2.3%(92年以来最高。かつ33年ぶりの2%超え)

半導体が加熱する南北の地価「ホットスポット」

ここ最近、地価といえば話題をさらうひとつが、九州と北海道、日本の南北に位置する2つの“ホットスポット”だ。

全国における上昇率の上位(10位まで)を見ていこう。まずは住宅地から。

住宅地
2位 北海道 千歳市栄町2丁目25番20 23.4%
4位 北海道 千歳市柏陽2丁目3番11 20.6%
6位 北海道 千歳市緑町3丁目13番 20.2%
9位 北海道 千歳市花園5丁目33番 19.5%

(以上は抜粋。他の順位については当記事の最後に紹介するリンク先で確認可能)

このとおり、TOP10のうち4つを北海道千歳市の土地=標準地が占めている。ちなみに、1位は「北海道 富良野市北の峰町4777番33」で、上昇率は27.9%。いわゆるインバウンド投資に沸く、ウインターリゾートのひとつだ。

さらに、商業地を見ていく。

商業地
1位 熊本県 菊池郡大津町大字大津字拾六番町屋敷1096番2外 33.2%
2位 熊本県 菊池郡菊陽町大字津久礼字石坂2343番2 30.8%
3位 北海道 千歳市幸町3丁目19番2 30.3%
5位 北海道 千歳市千代田町5丁目1番8 29.3%
6位 北海道 千歳市錦町2丁目10番3 28.8%

(先に同じ)

このとおり、1位は熊本県大津町にある標準地だが、33.2%という数字は、商業地のみならず「全用途」でも1位となるものだ。

2位の菊陽町の数字も同様、全用途でも2位となる。

すなわち、これら2カ所は、いま日本国内でもっとも地価が沸き立っている現場といっていい。なお、大津町と菊陽町は隣り合う町同士となる。

加えて、北海道千歳市がこちら(商業地)でも元気だ。TOP10のうち3つを占めるかたちとなっている。

以上、互いに遠く離れた九州と北海道に位置するホットスポットだが、地価上昇のキーワードはどちらも同じ、「半導体」となる。

九州においては、台湾「TSMC」の進出。

北海道においては、わが国の国策的プロジェクトといっていい「ラピダス」の設立。

2つの半導体ファウンドリー(受託製造メーカー)の誕生が、関連企業の進出や、人材の移動といった波を呼んで盛り上がり、それが現地の不動産需要、ひいては地価高騰に結びついている。

ただし、筆者から余談を加えさせてもらうと、こうした両地域における地価の盛り上がりは、いわば前夜祭の前夜祭だ。これらプロジェクトにおいての本当の勝負は、当然ながら、双方の工場が稼働し生産を始めてからのこととなる。

その意味で、ラピダスについては心配する声が目につく。

筆者も、実はその類だ。ラピダスをして、世界の半導体メーカーに伍する存在に育て上げる地盤を北海道はつくっていけるのか。具体的には、地元から優秀な人材を持続的に供給していける環境を北海道は持ちうるのか?

さらには、道外、海外からハイレベルな技術者を呼び込み、定着させるだけの魅力や生活基盤を北海道はかたちづくっていけるのか?

「いや、それは北海道が考えることではなく、国が、会社が…」

そんなうつろな空気が“試される大地”にまたしても漂い始めていたりしないことを(同地で育った)筆者はひそかに遠くから祈っている。

相手は、すぐに立ち去る観光客ではない。そこに住んで働く人なのだ。

そこに住み、働く人を呼び寄せる力、定着させる力の半分以上は、雇う企業ではなく、おそらくは地域によって担われる。

ラピダスへの不安については、資金的、技術的側面などでの話題も多いが、それら課題を克服するのはとどのつまり人でしかない。筆者は、とにかく「人」が気になっているということだ。

能登の地震はこんな地域を襲った

次に、こちらのランキングを見ていこう。今回の地価公示においての地価下落率上位(下落が著しい標準地の10位まで)からの抜粋となる。

住宅地
2位 石川県 珠洲市上戸町北方弐字80番1 ▲8.3%
3位 石川県 珠洲市飯田町弐九部12番 ▲8.2%
10位 石川県 羽咋市島出町フ68番 ▲6.0%

(他の順位については、当記事の最後に紹介するリンク先で確認可能)

商業地
1位 石川県 珠洲市飯田町壱参部13番2外 ▲7.7%
3位 石川県 珠洲市野々江町シ部26番2 ▲6.2%
5位 石川県 羽咋市中央町サ2番1外 ▲5.9%
8位 石川県 羽咋郡志賀町高浜町ク27番1 ▲5.4%

(同上)

このとおり、先般大地震に襲われた能登半島の町が、全体の1/3を超えて名を連ねている(7カ所)。

加えて、今回の地価公示に、1月1日夕方に起きたこの地震による影響は反映されていない(調査時点とされるのは同日午前0時)。上記は、いずれも地震発生前におけるこれらの土地が示す数字であり、併せて評価となる。

つまり、能登半島地震は、過疎と高齢化、さらには地価の下落が進むこうした地域を容赦なく襲った。自然の為せることとはいえ、何とも罪深い。

一方で、すぐ南の金沢市だ。新幹線が停まる町となって今年が9年目となる県都では、住宅地上昇率2.7%、商業地上昇率2.9%と、北陸3県都(富山、金沢、福井)に新潟市も加えた中では、出色の盛り上がりを見せている。

まさに、地方における二極化の顕著な例のひとつといえるが、石川県内では、こうした状態を「南北格差」と呼ぶ例も少なくないようだ。

24年地価公示における北陸3県都と新潟市の上昇率
地域 住宅地 商業地
新潟市 0.9% 1.1%
富山市 0.9% 1.0%
金沢市 2.7% 2.9%
福井市 0.3% 2.1%

以上、「令和6年(2024)地価公示」について、さらに詳しくは、以下の各リンク先にて確認されたい。

国交省 報道発表資料 令和6年地価公示
令和6年地価公示の概要
令和6年地価公示関係データ

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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