ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

野望が年収を上げていく?「労働者の働き方・ニーズに関する調査」のこと

朝倉 継道朝倉 継道

2023/11/20

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

約2万4千人をスクリーニング

この10月20日に、厚生労働省から「新しい時代の働き方に関する研究会」の成果となる取りまとめ分の報告書が公表されている。

その中に、「労働者の働き方・ ニーズに関する調査について(中間報告)」と題した、規模の大きな調査結果が盛り込まれている。いくつか興味深い内容を紹介していこう。筆者なりに思うところを添えながらの紹介となる。

なお、調査対象は15歳~79歳の男女。「24,190人をスクリーニング、就業構造基本調査と同様の比率になるように6,000人を抽出」――といったものだ。

成果主義は働く側こそが求めている?

まずは、こんな質問から。

「企業は今後、労働者の昇進を決めるにあたって、年齢や勤続年数よりも成果や能力を重視すべきとの考え方をどう思うか?」
そう思う 16.8%
どちらかといえばそう思う 54.5%
どちらかといえばそう思わない 22.2%
そう思わない 6.5%

このとおり、「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合わせると7割を超えている(71.3%)。

乱暴にいえば、日本の労働者のかなり多くは成果主義を支持しているか、あるいは成果として現れるところの「能力」主義を重んじているといえる結果だ。

続けて、次の質問となる。

「賃金は、働いた時間よりも成果に基づいて決めるべき?」
そう思う 12.9%
どちらかといえばそう思う 50.7%
どちらかといえばそう思わない 28.3%
そう思わない 8.1%

こちらも「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合わせると6割を超える(63.6%)。前問の結果ほどではないが、いわゆる成果主義への支持率は高く、以上を見るかぎり日本の労働者はなかなか“勇ましい”。

ただし、ここでひとつ添えたい。

筆者が思うに、成果主義といわれるものには幅がある。種類を分けると大きく3つになるのではないだろうか。

  1. 結果への評価(成果主義というより結果主義)
  2. 結果に加え、途中段階での成果も評価
  3. 1、2に加え、そこに向けた過程での努力も評価

このうち、1は文字どおり、結果のみで評価を決めるドライなやり方となる。すなわち、ここでの結果とは最終結果のことだ。途中のプロセスにおける種々の成果は評価の対象とならずに無視される。

よって1は、たとえば「数字を上げた者が勝ち」「結果さえ出ていれば過程はどうでもよい」といった、いわば荒れた土壌が生まれる原因ともなりやすい。

一方、2では1と違い、結果のみならずそこに至ったプロセスも重んじられる。たとえ結果が目標達成されたかたちで出なくとも、途中に生じた「成果」に見るべきものがあれば、すすんで汲み上げていくやり方だ。

さらに、3は1と2に「努力賞」も加わるかたちとなる。結果を目指して流した“汗”にもプラスの評価をし、これを個人単位での成果と見なしてやる。そのことをもって、次の挑戦への期待を示すやり方となる。

いかがだろうか?

つまり、同じ成果主義的人事評価といっても、実態として世の中には1の結果主義から、3の応援主義ともいえるスタイルまで、それなりの幅が見られる。

よって、たとえば今回の調査対象となった人の場合、それぞれがどんな成果主義をイメージしたり、経験したりした上で、上記を答えているのかが、筆者としては実のところ気になるわけだ。

日本の労働者は、その6~7割以上が、実際に“勇ましい”人々なのだろうか?

希望・野望(?)と、年収との関係

次に紹介するのは、こんな質問となる。

「仕事の手順を決定する際の自分の裁量を今後増やしていきたい」(との想いにあなたは当てはまるか?)
年収1,000万円以上の人 そう思う 17.2%
どちらかといえばそう思う 53.2%
どちらかといえばそう思わない 21.5%
そう思わない 8.1%
年収300万円未満の人 そう思う 7.7%
どちらかといえばそう思う 37.4%
どちらかといえばそう思わない 34.5%
そう思わない 20.4%

ここでは、両者の差に注目したい。特に、質問に対して「そう思う」あるいは「そう思わない」と、それぞれ言い切っている割合の差だ。

ご覧のとおり、そう思う(裁量を増やしていきたい)では、年収1,000万円以上の人における17.2%という数字に対し、年収300万円未満の人では7.7%と、大きくそのボリュームが下がっている(半分以下)。

逆に、そう思わない(裁量を増やしていきたいとは思わない)では、年収1,000万円以上の人の8.1%に対し、年収300万円未満の人では20.4%と、2.5倍を上回る結果となっている。

つまり、説明するまでもなく、仕事の手順への裁量権を自らもつことへの希望は、高年収層でより強い。なおかつ、同じ傾向は、以下の質問でも明確に見られるものとなっている。

「仕事の時間配分を決定する際の自分の裁量を増やしていきたい」
(そう思うと答えた割合) 年収1,000万円以上の人 17.7%
年収300万円未満の人 7.3%
(そう思わないと答えた割合) 年収1,000万円以上の人 8.1%
年収300万円未満の人 20.2%
「勤務場所を決定する際の自分の裁量を増やしていきたい」
(そう思うと答えた割合) 年収1,000万円以上の人 18.3%
年収300万円未満の人 5.9%
(そう思わないと答えた割合) 年収1,000万円以上の人 11.8%
年収300万円未満の人 24.4%

以上に瞥見されるとおり、仕事における自らの裁量権をより多く求めるパーソナリティと高い収入には、明らかな関係が存在するらしい。いわば、希望と野望が収入を生んでいるようにも見える。

リモートワークへの希望と年収の関係

おそらく上記と似たベース上、同様の傾向が出ているのが、

「今後、リモートワーク(自宅等、オフィス以外の場所で働くこと)をしたいと思うか?」

との質問に対する答えとなる。

「今後、リモートワーク(自宅等、オフィス以外の場所で働くこと)をしたいと思うか?」
年収1,000万円以上の人 そう思う 31.2%
どちらかといえばそう思う 31.2%
どちらかといえばそう思わない 17.2%
そう思わない 20.4%
年収300万円未満の人 そう思う 12.7%
どちらかといえばそう思う 19.0%
どちらかといえばそう思わない 21.0%
そう思わない 47.3%

このとおり、年収1,000万円以上の人では、約3割がリモートワークを今後の希望に挙げている。「どちらかといえばそう思う」を合わせると6割を超えてくる。

一方、年収300万円未満の人の場合「そう思わない」が、単体で5割近くにのぼっている。「どちらかといえばそう思わない」を合わせると7割に迫る。

以上は、人々がリモートワークという働き方を求める背景に、さきほどの仕事の「手順」、「時間配分」、「勤務場所」に関する裁量の自由を望む気持ちがおそらく存在すると思えば、これに符合する結果といえるだろう。

働く人の健康、安全について

「あなたは今後、企業よりも働く人個人が自身の健康確保を行っていくべきだと思いますか?」

調査対象者全体の答えはこうなっている。

 
そう思う 25.8% (以上を合わせて 73.2%)
どちらかといえばそう思う 47.4%
どちらかといえばそう思わない 14.8% (以上を合わせて 26.8%)
そう思わない 12.0%

見てのとおり、「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」の割合が圧倒的に高い。

「自身の健康は、勤め先に頼るのではなく、自己管理で維持するのが大切」と考える、いわば“自己管理派”の人が多くを占めるといった格好だ。

ただし、これを職業別に見ると多少様子が変わってくる。以下に掲げるそれぞれのパーセンテージは、いずれも全体の数字(上記)に比べて大きい。

(「どちらかといえばそう思わない」と「そう思わない」を合わせた割合)
工場のオペレーターや組立工など 33.0%
鉄道や自動車、建設機械等の運転など 31.4%
大工、配管工、電気工事作業員、土木作業員など 36.8%
配達員、倉庫作業員、清掃員など 32.9%

こうした、主に自らの肉体や、動く機械などを使う職業の人々においては、自身の健康確保について、勤め先となる企業へもサポートを望む傾向がより強い旨が示されている。

そこで、理由のひとつとして、おそらくは健康という概念の中に、職場における身体の「安全」をも含む意識をもつ人が、これらの職業においては少なくない可能性が挙げられるだろう。

また、そこからは、オフィスや店舗など、健康“自己管理”派の人々が多い職場における、ある課題の存在も浮き上がってくる。

それは、カラダならぬココロの安全だ。

典型例を挙げると、パワーハラスメントやカスタマーハラスメントへの対処とケアは、企業が主体的かつ組織的に行うべきものだ。働く個人のけなげな自己管理には、決して委ねるべきではない。

今回採り上げた厚労省の資料は、下記でご覧いただける。

厚労省報道発表資料『新しい時代の働き方に関する研究会』の報告書を公表します

紹介した「労働者の働き方・ ニーズに関する調査について(中間報告)」は、上記ページからリンクのある「別添2 新しい時代の働き方に関する研究会 参考資料」に含まれている。

(文/朝倉継道)

【関連記事】
働き方は改革されたか? 健康は? 日本の10年前と現在(いま)を比べる
日本の「賃貸」は住みよくなる? 省エネ性能表示制度が来春スタート


仲介手数料無料の「ウチコミ!」

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

ページのトップへ

ウチコミ!