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下落地区がついに「ゼロ」に 地価LOOKレポート2022年第4四半期分

朝倉 継道朝倉 継道

2023/03/08

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下落地区ついに消滅

この2月下旬、国土交通省が令和4年(2022)第4四半期分の「地価LOOKレポート」を公表している。下落地区が令和元年(2019)第4四半期以降、3年ぶりにゼロとなった。日本の大都市部地価における「コロナ禍」時代がいよいよ終焉を迎えたかたちだ。

なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては、当記事の最後であらためて紹介したい。

まずは、国内「全地区」における前回、前々回からの推移だ。

  • 上昇 71地区(前回65、前々回58)
  • 横ばい 9地区(前回14、前々回17)
  • 下落 0地区(前回1、前々回5)

このとおり、下落地区がついに0地区・0%となった。9期前となるコロナショックのピーク時(2020年第3四半期)は、同じ数字が45.0%まで伸びていた。なお、「下落地区」とは、当該四半期において地価の下落が観察され、かつ当面の下落も予測されるといったエリアのことだ。

データを過去から辿ってみよう。

令和元年(2019) 第4四半期 0.0%(この期以来の0%に今回やっと数字が戻った)
令和2年(2020) 第1四半期 4.0%(この期の冒頭1月に国内初の新型コロナ感染者を確認)
第2四半期 38.0%
第3四半期 45.0%(下落地区の割合がコロナ禍のもとピークとなった期)
第4四半期 38.0%
令和3年(2021) 第1四半期 27.0%
第2四半期 29.0%
第3四半期 30.0%
第4四半期 17.0%(この期まで全対象地区数は100)
令和4年(2022) 第1四半期 16.3%(この期より全対象地区数は80に削減)
第2四半期 6.3%
第3四半期 1.3%
第4四半期 0.0%(今回)

なお、括弧内に記したとおり、上記の間に地価LOOKレポートの調査対象地区数は一度変わっている。令和3年(2021)第4四半期までが100地区、令和4年(2022)第1四半期からは80地区となっている。

よって、今回「下落地区がついにゼロ」――とはいうものの、対象が以前の100地区のままであったとすれば結果はどうなっていたのか? この点、実のところ興味深くはある。

参考までに、100地区から80地区へ削減が行われた際、対象から外された地区は以下のとおりだ。

住宅系地区
東京都 品川、豊洲、有明、立川
神奈川県 新百合ヶ丘
愛知県 覚王山
京都府
兵庫県 六甲
奈良県 奈良登美ヶ丘
商業系地区
岩手県 盛岡駅周辺
東京都 日本橋、赤坂
神奈川県 元町
富山県 富山駅周辺
岐阜県 岐阜駅北口
大阪府 中之島西、OBP、江坂
愛媛県 一番町
鹿児島県 鹿児島中央駅

サンプラザ建て替えの「中野駅周辺」が、高上昇率地区に名乗り

トピックをさらに拾っていこう。まずは東京・中野だ。

ちなみに、地価LOOKレポートでは、調査対象地区が地価上昇地区と認められる場合、その度合いに応じて評価は3段階に分けられる。もっとも上昇が著しいランクが「6%以上」、それに次ぐのが「3%以上6%未満」、その下が「0%超3%未満」だ。

そのうえで、昨年(2022)はこのような状態となった。

第1四半期 「6%以上」 0地区
「3%以上6%未満」 1地区(福岡市中央区「大濠」地区)
「0%超3%未満」 45地区
第2四半期 「6%以上」 0地区
「3%以上6%未満」 1地区(前期と同じく「大濠」)
「0%超3%未満」 57地区
第3四半期 「6%以上」 0地区
「3%以上6%未満」 1地区(前期と同じく「大濠」)
「0%超3%未満」 64地区
第4四半期(今回) 「6%以上」 0地区
「3%以上6%未満」 2地区(「大濠」および東京都「中野駅周辺」)
「0%超3%未満」 69地区

このとおり、「6%以上」の評価を受ける地区は昨年一貫して現れず、福岡市の「大濠」地区(住宅系地区)のみが、前回まで3期にわたって「3%以上6%未満」を維持していた。その位置に、今回東京の「中野駅周辺」(商業系地区)が加わっている。

中野で何が起きているのだろう?

答えは大規模再開発だ。街のシンボルとなっている建物のひとつ「中野サンプラザ」の建て替えが決まったニュースなど、耳にした記憶がある人も少なくないだろう。

なお、この中野サンプラザの建て替えを伴う事業含め、中野駅周辺では現在11の再開発プロジェクトが動いている。(中野区「中野駅周辺まちづくり事業一覧」による)

街が大規模に更新されることにより、他への競争力が高まることへの期待が、当然ながら地価を後押ししているかたちだ。

札幌の焦燥――半世紀前の五輪が作った街は生まれ変わるか

地価LOOKレポートでは、調査対象地区の評価に携わった不動産鑑定士のコメントを全地区分にわたり読むことができる。その中から、特徴的な様子が窺える札幌「駅前通」地区を採り上げてみよう。札幌のみならず、北海道全体における文字どおりビジネスの中枢といえるエリアだ。

コメントの一部を要約してみたい。

  • 当地区では昭和47年(1972)に開催された札幌オリンピック前後に建築されたオフィスビルが多数立地、更新時期を迎えている
  • そのため、現在BCP対応ビルの供給が限られる
  • 一方で、当地区の市場においてはBCP対応オフィスに対するニーズが潜在的に強い。対応可能な物件への需要の高まりによって、極めてタイトな賃貸マーケットが生まれている

――なお、BCPとは「Business Continuity Planning」(事業継続計画)のこと。災害、テロ、システム障害等の危機に際し、そうした状況下に置かれた場合でも重要な業務を継続しうる環境や、早期の復旧を可能とする準備や計画が整えられている状態を指す言葉だ。

つまり、オフィスビルであればそのような条件が整備された建物や、整えやすい物件が「BCP対応」ということになる。

しかしながら、それが当地区では需要に対し足りていないというのがここでの指摘だ。そうした背景もあって、「(昨年)11月時点の当地区およびその周辺のオフィス空室率は1%台後半と低水準で推移」の旨、鑑定士は数字も挙げている。

ちなみに、その出どころかもしれない三鬼商事(株)発表のオフィスマーケットデータの最新の地区別平均空室率を見てみよう(2023年1月分)。

札幌 駅前通・大通公園地区 1.90%
駅前東西地区 1.84%

対して、東京、大阪、名古屋、福岡の各ビジネスエリアでもっとも平均空室率が低い地区をピックアップするとこんな状況となる。

東京 渋谷区 3.63%
大阪 心斎橋・難波地区 3.66%
名古屋 栄地区 3.47%
福岡 薬院・渡辺通地区 1.87%

なお、福岡の場合、上記の薬院・渡辺通地区以外のエリア(5つ)はいずれも4%台以上の空室率となっている。

一方、札幌では先に示した2地区を除く残りのエリアいずれにおいても空室率はかなり低い(2%台が2地区、3%台が1地区)。

札幌は目下、中野のようにわが街が大規模に「更新」されていくための条件や環境を焦燥感もって求めている状況にあるといえるだろう。その中には、賛否が分かれる次のオリンピックももちろんあるとみていい。
(なお、三鬼商事の公表データは当記事末に掲げるリンク先にてご覧いただける)

地価LOOKレポートとは?

最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。

国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもってわれわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。

特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。

全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントも添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。

留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。

以上、当記事で紹介したレポート、資料・データへのリンクを下記に掲げておく。

令和4年第4四半期分(22年10月1日~23年1月1日)地価LOOKレポート
東京都中野区 中野駅周辺まちづくり事業一覧
三鬼商事 オフィスマーケット

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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