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京都市が直面する3つの危機とは——厳しさを増す「若い世代に選ばれる千年都市」への実現

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京都市/©︎banky405・123RF


東洋経済オンラインの提供記事です

千年の都・京都府京都市が危機に直面している。人口減、観光客減、そして借金返済という三重苦にあえいでいるのだ。世界遺産の街にいま、何が起きているのか。

前年比8982人の人口減 

京都市の人口は140万720人(住民基本台帳、令和3年1月1日時点)。市区町村別では全国8位の規模である。しかし、前年比では8982人減となり、市区町村別で日本一の減少数となっている。

京都市の人口の推移は以下の通りだ。

京都市の人口の推移

出典/京都市HPを基に筆者作成

緩やかではあるが、右肩下がりとなっている。直近18か月(2020年1月~2021年7月)で見ると1.0%の減少で、日本の総人口(日本人以外含む=推計人口)が同期間0.5%減だったことを考えると、減り方はやや大きい。

京都市の人口が長期的に減少している背景にはいったい何があるのか。2010年以降の国勢調査の結果などをベースに検証してみよう。2020年調査では、前回(2015年)調査時よりも1万293人の減少(0.7%減)となっている。

やはり人口減の大きな理由は少子化だ。2010年次(2009年10月~2010年9月)の出生者数は1万1616人だったが、2020年次(2019年10月~2020年9月)の出生者数は9548人と1万人を割り込んでいる。

一方、京都市の転入・転出者の状況を見ると、過去10年間では直近の2020年度以外、1000~2000人前後の転入超過(出ていく人より入ってくる人の方が多い)が続いている。しかし、住宅購入を検討する若い子育て世代の転出が深刻だ。

広い意味での「子育て世代」である25-44歳世代の2020年1年間の人口減少数は8501人(30代は4444人)にもなる(住民基本台帳ベース)。

25-29歳 0.56%減 
30-34歳 2.82%減 
35-39歳 2.94%減 
40-44歳 3.90%減

当然、子ども世代の人口も減少だ。子ども人口(0-14歳)は15万7505人から15万5062人へと2443人減少(1.56%減)となっている。

20代、30代の転出先で目立つのは大阪府(20代4733人 30代2335人)、東京都(20代2806人 30代996人)、滋賀県(20代1535人 30代1022人)だ。東京都や大阪府は就職や転勤が多いが、滋賀県はより良い住宅・生活環境を求めた移住・転居が多いとみられている。

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京都市内での住宅購入を諦める子育て世代

2010年代以降のインバウンド拡大で京都に外国人観光客があふれる中で、ホテルの建設ラッシュや外国人による町家などの不動産取得が続き、そのあおりを受けて市内の地価が上昇し、住宅取得価格が跳ね上がってしまった。市内の住宅地の公示価格はコロナ禍で2020年こそ0.4%のマイナスに転じたが、まだまだ高い。

2021年の住宅地の平均価格は中心5区(北区、上京区、左京区、中京区、下京区)は1㎡あたり28万1000円で、コロナ禍にもかかわらず前年よりも600円アップしている。残りの周辺6区は17万800円で、こちらは下落したとはいえわずか900円のマイナスだ。

そのため、子育て世代を中心に市内での住宅購入をあきらめ、京都市内よりも地価が安い滋賀県の大津市や草津市などへ転出する動きが続いているのだ。

過去の人口動態をベースにした京都市の推計では、2035年には人口が130万人を割り込むとなっている。

三重苦の2つ目、観光客数の減少について見ていこう。

年間観光客数が5600万人(日本人+外国人)を超えていた2015年をピークに、京都の観光客数は2018年まで微減し5275万人に。2019年は5352万人に盛り返したが、コロナ直撃で2020年は統計さえ集計できない状況となってしまった。(データ出典は京都市観光協会)

京都市の宿泊人数の推移

出典/京都市都市観光協会
単位:万人

京都の街からインバウンドが完全に消えた。「外国人宿泊ほぼゼロ」が2020年4月以降15か月続いている。

最新の状況も厳しい。2021年6月のデータは次の通り。

日本人延べ宿泊数   2019年6月比43.3%減
外国人延べ宿泊数      同    99.8%減
主要ホテル客室稼働率 20.6%(同60.2ポイント減)
客室収益指数     1857円(同82.9%減)

惨憺たる数字だ。インバウンド消失だけでも大打撃なのに、毎年安定した収入源になっていた修学旅行も激減(前年比77.6%減=2020年)した。さらに一般の日本人観光客も半減。ひところ大問題となった観光公害は解消されたが、世界遺産の街の観光はまさに閑古鳥状態だ。

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懸念される財源不足

最後に三重苦の3つ目、借金返済について見ていこう。

自治体の財政の健全性を測る指標に「将来負担比率」(現在抱えている負債の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したもの)があるが、京都市は2019年度、その指標が政令指定都市の中で最下位だった。

最大の原因は、バブル期に建設した地下鉄・東西線の建設コストと収支見通しの甘さで、市が赤字額約1000億円を一般会計から穴埋めした(2004-2017年)ことと指摘されている。

加えて、歳入面にも構造的な問題を抱えている。高齢化に加え学生人口が市全体の1割という大学の街という特殊な構造のため就業層の割合が低く、人口に占める納税義務者の割合が43.1%(2019年度)と政令指定都市で最低なのである。また市内は、景観保護で高層マンションが立てられないため、固定資産税も増えにくい。また、市内に多くある神社仏閣は固定資産税がかからない。

そこへコロナ禍に見舞われた。2021年度予算の財源不足236億円のうち、コロナ禍による影響は123億円に及んだ。こうして今後5年間で2800億円の財源不足が生じる見込みという破綻寸前の状況に陥ってしまったのである。

市は6月に再生に向けた「行財政改革計画案」を市民に示し、8月に「行財政改革計画」を公表した。市職員の人件費削減、バス・地下鉄の「敬老乗車証」をはじめとする行政サービスの見直し、民間保育園職員の給与に対する補助金の見直し、保育所や学童クラブの利用料の改訂などで2025年度までの5年間で1600億円の財政改善を目指すといったものだ。

市が6月から7月にかけて行った市民への意見募集には、なんと9013件もの意見が寄せられた。

<計画を全体としてみると、具体的な内容に全く言及されておらず、評価に値しない>
<市民サービスがどうなるのかを最初に述べた方が分かりやすい>
<市長自らが失政を認めて、市民に事業見直しへの協力を求めなければいけない>

厳しい声が目につく。コロナ禍が長期化し、先行き不透明感が強まる一方という状況だけに、市の楽観的な改革計画に市民の多くは懐疑的なようだ。

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三重苦を乗り越えられるか

世界の京都は、はたしてこの三重苦を乗り越えられるだろうか。

問題は、3つの危機すべてがリンクしていることに加え、長期化・拡大化するコロナ禍の終息時期がまるで見通せないことだ。市の改革計画にしても、コロナ禍の影響がなくならない限り、実現可能性はなかなか見えてこない。

市の改革計画を見ると、前述の経費削減案に加え、次のような目標が掲げられている。いずれも2033年度において、

※個人市民税の納税義務者数 2020年度から4万人増加(2019年度67万人)
※市内総生産 2020年度から6000億円増加(2018年度6兆6292億円) 
※新築住宅着工戸数 2020年の9284戸から1万戸/年へ
※中古住宅の流通(売買)戸数3000件/年
※産業用地創出面積 45ha創出 など

今後5年間で財政を見直し、再建の道筋をつけたうえで、成長戦略をということなのだろう。この成長戦略で一般財源収入を100億円以上増加させる、としている。目標の数値だけをみると随分と控えめな成長戦略に思えるが、これとて本当に実現可能かどうかは未知数である。

懸念されるのは、12年後のことよりも、すでに財政難から一部の行政サービス低下が指摘されている点だ。

実際、財政難から新規受け入れを停止した市営の保育所がある。中京区の聚楽保育所だ。民間に移管予定だったのだが、事業者が辞退したため、市は新規受け入れを中止するなど混乱が続いた。市は5月議会に同保育所の廃止条例案を上程し、6月1日に市議会で可決された。

市のホームページには「京都市聚楽保育所は、令和9年4月1日に廃止します。このため、新規入所児童の受入れは行いません」と記載されている。行政サービスの低下はすでに始まっているのである。

子育てに関しては、前述のように行財政改革計画の中に、民間保育園職員の給与に対する補助金の見直し、保育料や学童クラブの利用料の改定等が盛り込まれている。子育て世代の負担増が予想される内容だ。

注目を集める改革案

今後、コロナ対策にかかる費用が膨れ上がる中、インバウンド経済の回復も見込めない。市民の反対が予想される改革案の実行にはある程度時間を要するものとみられ、財政立て直しは容易ではない。

そこに行政サービスの低下や市民負担増加という事態が加われば、財政再生団体に転落した夕張市のように人口流出に拍車がかかるおそれもあり、京都市が直面する「三重苦」は負のスパイラルに陥りかねない。

京都市は行財政計画の中で「若い世代に選ばれる千年都市」の実現を掲げているが、現実は厳しい。秋にも公表されるより具体的な改革案に、市民の注目が集まっている。

山田 稔/ジャーナリスト

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