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『カツベン!』

遊び心と映画愛にあふた周防版『ニュー・シネマ・パラダイス』(1/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2019/12/06

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(c)2019『カツベン!』製作委員会

サイレント映画時代のスター職業「カツベン」とは

2019年10月28日から11月5日まで開催された第31回東京国際映画祭で、「特別招待作品GALAスクリーニング」としてお披露目された話題作。『Shall weダンス?』(1996)でその年の映画賞を総なめにし、『それでもボクはやってない』(2007)『ダンシング・チャップリン』(2011)『終の信託』(2012)『舞妓はレディ』(2014)と、寡作ながらも佳品を発表し続ける周防正行監督最新作である。

前作『舞妓はレディ』で本格的ミュージカル映画の製作に挑戦した周防監督。彼が本作『カツベン!』で採り上げたテーマは活動弁士、通称カツベンだ。

カツベンとは、今から100年以上前、映画がサイレント(無声)で活動写真と呼ばれていた頃、上映中にその内容を解説していた専任の解説者のことである。サイレント映画はその名のごとく音声が無く、時折、文字による背景説明のショットが挿入されていた。外国ではオーケストラや小規模の楽団等による音楽伴奏とともに上映され、観客は背景説明ショットの文字を読んで物語の流れを理解していたのであるが、その文字は当然ながら自国語、つまり日本人にとっては外国語であった。

日本語字幕スーパーという考え方が生まれるのはもう少し後、映画がサイレントからトーキー(音声付き映画)に移行していったころのこと。日本映画の場合は日本語の背景説明ショットを挿入できるとはいえ、当時の日本の興行者は、日本で映画を興行として成立させるためには物語や背景を説明する解説者が必要であると判断した。これがカツベン誕生の由来である。

こうして、少人数の楽士が演奏する音楽をバックに、カツベン独自の喋りで物語を説明するという日本独自の映画文化が生まれた。

観客たちは初めこそ映画という全く新しい見世物を見ることが目的で映画館へ足を運んでいたが、そのうちカツベンが出演俳優よりも人気のあるスター職業となり、観客の目当ては映画そのものよりもカツベンの喋りへと変化していった。カツベンたちにはそれぞれファンが付いており、彼らの人気が興行成績を左右するようになったため、映画館は専属契約のカツベンを抱えた。引き抜き合戦も盛んであったと言われている。

本作はそのような時代の中で、一流のカツベンになることを夢見た青年を描くエンターテインメント作品である。笑いあり、ロマンスあり、アクションありの娯楽映画だ。

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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