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『望み』/サスペンスドラマに織り込まれる家族の絆(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2020/10/03

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映画のベースとして描かれるのは、そうしたネット社会の恐ろしさである。そういう状況の中で、家族の絆が試されることになる。

規士は人を殺すような男ではないと、一登は息子の無罪を心から信じている。

しかし、もし規士が加害者ならば、一登はこれまで築いてきた社会的地位も収入もすべてを失ってしまう。噂の拡散とともに仕事のキャンセルが相次ぎ、懇意にしていた建設会社の社長からも、今後は一緒に仕事はしないと宣言される。

残された家族の人生を思うと、息子が加害者であってはならない。一登の〈望み〉は、規士が加害者ではないこと。しかしそれは、規士が被害者で、殺されていることを意味する。

規士の妹の雅も同じようなことを考える。

一流高校への進学を目指し、毎日塾に通っている彼女は、噂が広がるにつれ、学校でいじめと疎外を受けている。このままでは、目標校の面接試験で落とされてしまうことは必至だ。世間から後ろ指を刺される加害者の未来に怯え、父親の一登にだけは「お兄ちゃんが犯人だと困る」と訴える。雅の〈望み〉もまた、規士が加害者ではないことであった。

一方、母親の喜代美は、息子が加害者であろうとなかろうと、何があっても生きていてほしいと願う。

もしも息子が加害者ならば、どんな社会的制裁も受けると覚悟している。喜代美の〈望み〉はただただ、息子が生きていることであった。 

姿を消した規士にも、将来はサッカー選手になりたいという〈望み〉があった。果たして、規士は加害者なのか、被害者なのか。家族のそれぞれの〈望み〉が交錯する中、事件の意外な真相が明らかになる。

堤真一は家族を深く愛しながらも複雑な思いを抱かざるを得ない父親役、石田ゆり子は息子への愛情をストレートに表現する母親役を好演し、観る者の涙を誘う。兄妹役を演じた岡田健史と清原果耶の演技も素晴らしい。

監督は堤幸彦。前々作『人魚の眠る家』(18)もそうであったが、この監督は家族の絆をテーマにしたミステリーと相性が良いようだ。奇をてらわない正攻法の演出で、観客の心を掴んで離さない。

自分が一登や喜代美や雅の立場だったら、果たしてどう考え、どう行動するだろうか。この映画の観客もまた、それぞれの<望み>を抱き、家族の絆について思いを馳せることだろう。

『望み』
監督:堤幸彦
脚本:奥寺佐渡子
原作:雫井脩介『望み』(角川文庫刊)
出演:堤真一/石田ゆり子/岡田健史/清原果耶/加藤雅也/市毛良枝/松田翔太/竜雷太
配給:KADOKAWA
2020年10月9日より公開
公式サイト:https://nozomi-movie.jp/

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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