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日本の将来推計人口8,700万人――人口激減の裏に隠れた課題を考える

朝倉 継道朝倉 継道

2023/05/11

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50年後の人口、それでもいまのドイツより多い

「日本の総人口は約50年後、現在の7割に減少する。2070年の人口は約8,700万人」――。

国立社会保障・人口問題研究所による「日本の将来推計人口(令和5年推計)」が、この4月26日に公表され話題となった。

そこで筆者の感想だ。「まだそんなにいるのか」

この数字は、現在ヨーロッパで最大の人口(ロシアを除く)を擁するドイツよりもさらに多い。

国土広大なカナダの2倍以上、オーストラリアの3倍以上だ。面積が日本と近いノルウェーに比べると約16倍、同じくフィンランドに比べても15倍以上となる。

そのうえで、心中複雑なことには、いま挙げた5カ国はどこも1人当たり名目GDPで日本を大きく上回っている。端的には(あくまで端的にだが)日本よりも国民が平均して豊かだということだ。

ちなみに、1人当たり名目GDPで日本のすぐ後ろに迫っているアジアの国が、韓国と台湾だ。それぞれ人口は約5,200万人、約2,400万人となる。このうち、韓国はいまや押しも押されもせぬ経済大国に成長した。世界的な企業や産業、ブランドをいくつも抱えている。

だが、冷静に振り返ってみると、あの奇跡と言われた経済成長(60年代後半~)からの歩みが、韓国は思ったより遅い。筆者は、その大きな要因のひとつに人口があると見ている。

韓国という国が選んだ経済構造、産業構造に対して、おそらくその抱える人口は多すぎる。そのため、国民一人ひとりの豊かさは悲願の目標である日本に迫りつつも、国別世界全体でのその順位はここ20~30年さっぱり上がってこない(つまり日本の凋落が激しい)。韓国国民から見てのいわば混乱が生じている。

ほかにも、世界中に例を挙げればきりがないが、このように国の人口はわれわれ一人ひとりの豊かさに基本として直結しない。

メディアを中心に、わが国の人口減少に関しては悲観論がつねに多いが、注視すべきは人口が減ることそのものではない。それは人口構造の変化であったり、変化のスピードであったり、変化にともなう人々の移動や経済的・社会的変動であったりする。加えて、その過程においてはむしろチャンスも少なくない。

避けがたい「変化」という波に対しては、これをうまく乗りこなす準備と勇気こそが肝要となる。逆に、抵抗することばかりを考え、やがて国がおぼれ死ぬ落とし穴にだけは、ハマらずにおくのが賢明なはずだ。

人口減少の裏で進む「資産の濃縮」

そのうえで、不動産という世界に古くから関わりをもつ筆者は、これからさらに進んでいく日本の人口減少にかかわって、ある懸念をひとつ抱いている。

それは「資産の濃縮」だ。

これは、筆者が勝手にこしらえた言葉だが、今後の日本社会において、長期間にわたってネガティブな影響をおよぼす重要な要素となる可能性をもつものではないかと思っている。

「資産の濃縮」とは? 

極端にいえば、それは「仮に将来日本の人口が1人になれば、現在日本人が所有する資産はすべてその1人のものになる」――と、いった理屈を指す。

つまりは、急激な人口減少下、4人の祖父母と2人の親が築いた6人分の資産が1人の孫に受け継がれていくなどといった“少子化相続”が、これからのわが国では確実に増えていく。

資産を残してこの世から去っていく人々の数的規模に比べ、それを受け継ぐ人の数がつねに先細りしていく状態が、今後のわれわれの社会ではしばらく続いていくわけだが、すなわち人口が減ることのあからさまな影響のひとつがこれとなる。

要は、われわれの子どもや孫、ひ孫たちの世代にはだんだんと「資産家」が増えていく。

だが、それは一律ではない。当然ながら、人口減少が進む中では、人口とそれがかたちづくるマーケットに足場をおく資産の価値は目減りする。代表例が土地だ。なかんづく、いなかの土地がそれとなる。

一方、目減りしない資産が手元に濃縮されていく幸福な人々にあっては、当然ながらそれが損なわれるのは是が非でも避けておきたい。

なので、彼らは自らの結婚相手や子どもの結婚相手については、積み上がった資産が仮にも「希釈」などされないよう、慎重に相手の“家柄”を選ぶことになる。

つまり、貴族の誕生だ。

そのため、今世紀中盤~後半のわが国においては、大都市部の貴族・地方の平民という、中世さながらの格差がふたたび社会に生じていくのではないかと、筆者は近年おそるおそる感じている。

すると、追い剥ぎ・野盗の横行でもないが、そうした社会は、社会の安定・安全上、当然危ういものとなりやすい。

2070年の日本において、地方を車で旅行するのが命がけの行為となるような世紀末チックな社会が「まさか」やって来ないよう、われわれはいま思っている以上に注意を払っておくべきではないかというのが、老婆心ながら筆者の意見だ。

税制、土地行政、都市行政、福祉行政等々、分野を横断しての英知の集積が試されることとなるわけだ。

(以上は突飛な話のようだが、それでも高齢者を専一にねらった特殊詐欺のような犯罪が一般化するとかつてわれわれは思っていただろうか。社会の構造変化は予期しえないリスクを世の中に定着させるものだ)

10人にひとりが外国人となる日本

日本の将来推計人口に話を戻そう。

冒頭に触れた2070年の日本の人口は、詳しくはこういったかたちで予測されている。

9,549万人 …出生高位・死亡中位の仮定での推計
8,700万人 …出生中位・同上
8,024万人 …出生低位・同上

(以上は、出生3仮定、死亡3仮定による9通りの基本推計が存在するうちの3つとなる)

つまり、報道などに挙がる「約8,700万人」は、真ん中の出生中位・死亡中位仮定における数字となるわけだ。要は、出生、死亡ともに、予想される数値・範囲のうちの半ばを採ったものといっていい。

そこで、この約8,700万人だが、実はこれは国内に常住する外国人も含めたものだ。日本人だけだと、数字は約7,761万人に一気に下がる(約939万人減る)。

すなわち、予測される70年における日本の総人口においては、その約10.8%を外国人が占めることとなる。近年(20年)の同じ数値が約2.2%なので、そこからは大幅な拡大となる。このことは、当然ながら重要といっていい。

たとえば、人口の1割が外国人の国ということであれば、いまのフランスがほぼこれに相当する。つい先日の報道によれば、フランスの国立研究機関が、21年における同国総人口に占める移民の割合を10.3%であると報告したところだ。

そこで、パリや、外国人労働者の多いフランスの都市などの風景を知っている人はぜひ思い出されたい。

脳裏に浮かぶそこには、よい景色もあり、(語弊はあるが)よくない景色もあり、いわばモザイクのようなイメージが描かれることだろう。

よって、今回の国立社会保障・人口問題研究所の予測が実際に当たるとするならば、わが国にあっては、外国人との関係において「よい景色」がより多く見られるようになることが肝心だ。

国・国民を挙げた、真剣な努力と配慮がこれからますます必要となってくるはずだ。

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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