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賃貸・部屋を出て行ってほしいと言われたら――「現実論」編

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裁判なんて現実的じゃない…

賃貸住宅に住んでいる人が、オーナー(大家)から「部屋を出て行ってほしい」と、突然言われてしまった…

そうした場合の対応について、インターネットでアドバイスを探すと…

  • 「借地借家法に基づいた法律論での解説」
  • 「過去の裁判で示された判例の紹介」

オーナーに向けた逆の立場でのガイダンスも含め、多くがこういった内容となっていることだろう。つまり、話は一気に訴訟を含む“法律ベース”“対立ベース”で進むことになるわけだ。

そのうえで、もちろん、これらは大事なことだ。賃貸住宅に住む入居者として日頃から勉強しておくに越したことはない。

ただし、現実としては…

  • 「泣き寝入りはしたくないが、裁判なんてとても」
  • 「穏やかな話し合いで解決したい」

そのためのコツを知りたい旨、求めるニーズも多いことだろう。

そこで、この記事では、ある人のエピソードを紹介したい。

仮に名前をAさんとしよう。Aさんは男性。なんと、珍しいことに2度にわたり、住んでいた賃貸住宅から退去――立ち退きをさせられている。

理由は、どちらもオーナーの一方的な都合によるものだ。Aさんにまったく落ち度はない。

そんな、稀な経験をもつこの人のエピソードを紹介したうえで、アドバイスを添えたいと思う。

なお、2度の退去時、Aさんはいずれも仕事を持つ妻と2人で暮らしていた。子どもはいなかった。いわゆるDINKsだ。

ご近所に嫌われる迷惑住人だったわけでもなく、真面目で、部屋も大切に使い、もちろん家賃の滞納など一度もなかった。いわば、優良入居者といえた人物だ。

慌ててしまった1度目の退去

最初にAさんとパートナーが“追い出された”部屋は、木造2階建ての二世帯住宅を賃貸に転用した物件のひと部屋だった。

建物は、1階1住戸、2階1住戸の構成で、玄関ほか生活空間のすべてが二世帯分設けられている「完全分離型」。2組のファミリーが、そこで暮らせるかたちとなっていた。Aさんは、このうち2階に入居していた。

ある日のこと。オーナーの親戚でもあるという工務店の社長が、突然Aさん宅を訪れたという。

用件はこうだった。

「Aさん、知ってらっしゃると思うが、ここの1階に住んでいるのはオーナーの息子夫婦とその子どもです。実は、間もなく2人目が生まれる。そこで、この建物を改装して一戸建てにし、彼らを住まわせたいとオーナーから相談がありました。ついては、オーナーが引っ越し代を出すので、Aさんは〇月までにここを出てもらえないだろうかと。急な話だが、いかがだろう…」

これを聞いてAさんは当然ビックリ。それでも…

「当時の私はまったくの物知らずだったんです。賃貸住宅では、建物の持ち主であるオーナーの意向は絶対で、都合は最優先だと思い込んでいました。なので、入居者はこれに従わざるをえないものなんだと、簡単に納得してしまいました」

オーナーから届いたお詫びの菓子折りひとつと、引っ越し代の実費肩代わりだけで、Aさんカップルは素直にその部屋から退去してしまったそうだ。

「次の部屋への入居にかかった初期費用や諸々の出費など、このときは急な負担を強いられ、時間も取られ、疲労も重なって、本当に大変でした…」

「損はしない」を貫いた2度目

そんなAさんの転居先は、ファミリー向けの間取りの部屋3つが入るアパートだった。3室のうち2室が2階にあり、Aさん夫婦はそのうちのひとつに入居。ところが、その後2年近くが経とうとする頃…

「なんと、またもオーナーから『退去してはもらえないか』と申し出があったんです。ここでもか!と、驚きました」

理由は――

「オーナーの姪御さんが近く結婚するというのです。なおかつ『デキ婚』で、子どもも生まれるとのこと。ところが、その矢先に夫が失職したそうで、新婚生活が苦しくなりそうだと。そこで、彼らに安く部屋を貸してやってくれないかと、伯父であるオーナーが姪御さんの親に頼み込まれたそうです。伯父さんならば、仮に家賃が払えなくなっても許してもらえるでしょうから。ですが、このアパートに住む他の2世帯からは無理だとすでに断られ、残るは私のところだけとのことでした」

そこでAさん、実はこの部屋をさほど気に入ってはいなかったこともあり(寒かったそう)、

「オーナーからの申し出を承諾しました。ただし、私もそのときはすでに色々と勉強していましたから――」

オーナーに対しては、物腰柔らかく、しかし毅然と、以下を要求したという。

  • 「引っ越し代金の実費、全額の補償」
  • 「現在と同程度の間取り・設備等の条件を備えた次の部屋を契約するための初期費用実費、全額の補償」
  • 「転居に伴い生じる諸々の出費を概算しての、それに対する補償」
  • 「転居のために時間を費やしたり、転居に伴ってさまざまな手続きや作業、心身の疲労が生じたりすることへの手当て――つまり慰謝料・迷惑料」

これらをすべて負担してもらうよう、予想される金額の範囲を示したうえで申し入れをし、了承を得たという。

さらには…

「もちろん敷金も全額返還してもらいました。それで賄わなければならないような部屋の汚損・毀損も生じていなかったので」

そのうえで、Aさんたちは間もなく次の部屋を見つけ、転居したという。

「家の住み替えにはたくさんの費用や時間、手間がかかります。それが賃貸オーナーの都合で予定外に降りかかるなんて、入居者としてはかなり理不尽なことです。ところが1度目にそれが起きた際は、私は突然のことに慌ててしまい、オーナーに対し大サービスをしてしまいました。金銭、時間、労力、随分損をしました。2度目はそんな失敗が無いよう、落ち着いて対処した次第です」

Win・Winと思える結果?

以上、2度もご苦労な経験をしたAさんだが、2度目の退去の際、オーナーが負担した金額――すなわち立ち退き料に当たるものだが、敷金の返還分を除いておよそ家賃6カ月分だったそうだ。

ちなみに、Aさんが新たに選んだ新居の家賃は、旧居とほぼ同じだった。Aさんは、オーナーに要求した上記の金額を新居の仲介手数料、礼金、前払い家賃、引っ越し代金、その他の出費に充て、手元には家賃1カ月分程度が残ったという。この約1カ月分が、実質の慰謝料もしくは迷惑料になったこととなる。なお、新居の敷金には、全額返還してもらった旧居の敷金がほぼそのままスライドし、充てられたかたちとなっている。

Aさん曰く、

「このとき、私の方に引っ越しは出来ればしたくない事情があったとしたら、あまりに急なオーナーの申し出による苦痛も含めて、私は数倍高く慰謝料を見積もったはずです。なので、オーナーの出費はとてもこんな程度では済まなかったと思います。つまり、結論としてオーナーはさほど大きな負担もなく部屋を明け渡してもらえたことになりますね。姪御さんの親に対しての顔も立ったでしょう。一方、私も多少ですが手元に現金を残せた上で、さほど気に入っていなかった部屋を出られたわけです。嫌な争いもせずに済んだ。お互いまずまずWin・Winといえる結果だったのではないでしょうか」

2度目のAさんが手本

以上、Aさんの体験談を追ってみた。すなわち、裁判などによらない任意の立ち退き交渉の一例となるものを紹介したわけだ。

そこで、読者に伝えたいこととなる。

実際、こうしたオーナー都合での賃貸住宅からの退去を迫られた場合、おそらく世のなかには「1度目のAさん」になってしまう人も多いのではないかと思われる。物知らずだった頃のAさんだ。

「引っ越し代は払うから」と、オーナーから頼まれ、「争うのも嫌だし、それならば」と安易に退去してしまう例が時折耳に入るが、それではAさんがあとで反省したように、到底間尺に合うものではない。

事態が発生しなければ生じなかったはずの出費や、物心それぞれのマイナスをしっかりと拾い集め、それを原因者たるオーナーに負担してもらう。これはワガママでも何でもなく、ごくあたりまえの手続きというべきだろう。

なので、手本にすべきは1度目のAさんではない。2度目のAさんとなる。

なおかつ、この「2度目のAさん」を自信をもって真似できるように、賃貸住宅の入居者を強力に(オーナー側から見ると過剰に?)守ってくれている借地借家法に目を通し、そのポリシーを理解しておくなど、勉強も当然怠るべきではない。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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