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空間と心のディペンデンシー

「幸せのかたち」についての一考察(1/3ページ)

遠山 高史遠山 高史

2020/02/29

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イメージ/123RF

結婚は転機、人生は大きくかわる

人生とはどうなるかわからないものである。明るい将来と思われた人の人生が一変することもあれば、その逆もある。しかし、逆境が新しい出会いを引き寄せ、また違った生き方を歩み出す。いまは逆境でも、一歩踏み出すことで人生は変わるものなのである。

N子さんは、しっかり者であったが、細かい事にはこだわらない、明るい性格だった。笑顔が魅力的で男女問わず人気があり、高校では生徒会の役員を務めていた。
東京の大学を卒業して、大手金融機関に入社し、そこで見つけた相手と結婚した。結婚式は盛大で、新郎新婦はこれ以上ないほどに幸せそうだった。誰しもが、二人の前途は明るいと思った。

結婚から1年後、高校時代の仲間たちがN子さんの新居に招待された。女同士、気兼ねなく語り合おうというわけだ。新居は、東京郊外のこじんまりとしたマンションだった。部屋に入って友人達は驚いた。整然と片付けられた空間に、だ。客を招くのだから、片付いていて当然なのだが、それにしても、生活の匂いがしない。フローリングは塵一つなく、ピカピカに磨き上げられている。家具は、たった今、梱包を解かれたかの如くに新しい。生活雑貨は全て、所定の場所に収まっている。まるでインテリアショップのショールームのようだ。

高校時代、生徒会室のN子さんの机は、彼女のおおらかな性格そのままに、プリントの束や、アイドルの写真や、ちょっとした化粧品等が雑然と置かれており、教師からたまには片付けろと言われていたことを思うと、違和感さえあった。だが、片付いていることは悪いことではない――。とはいえ、そんな違和感も楽しくおしゃべりしている間に、友人たちも気にしなくなった。

そんななかで仲間たちの目の前にN子さんの手料理が並べられた。どちらかと言うと、N子さんは料理が苦手なはずだったので、並んだ料理を見て皆、驚き、N子さんの努力を褒めたたえた。N子さんは謙遜したが、見た目も味も見事なものだった。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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