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制度が始まって22年目 一戸建て賃貸市場で活用されている「定期借家」(1/2ページ)

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文/朝倉 継道 イメージ/©︎bialasiewicz・123RF

「定借」の気になるアンケート結果 

不動産ポータルサイト「at home」を運営するアットホームが、「定期借家物件の募集家賃動向(2020年度)」をこの5月に公表している。

同社の持つ、厚みのある膨大なデータをベースとした、「定借」の現在(いま)を知るのに欠かせない定番リリースとなっている。なお、定期借家制度は、スタートしてから今年で22年目を迎えている(00年3月1日施行)。

その普及については、当初、さまざまな予測があったが、結局のところ、国内賃貸住宅市場(居住用)全体におけるシェアは大変低いまま、いまもさほど目立つことがない。しかしながら、一部の状況のもとでは、定期借家は有用なツールとして、大いに活用されてもいるようだ。

今回のアットホーム社のレポートでは、その興味深いひとつが掘り下げられている。紐解いていこう。

「一戸建て賃貸」の需要 今後の行方は

興味深いひとつとは、「一戸建て賃貸」における定期借家制度の積極的な活用だ。同社の説明によれば、

「コロナ禍以降、テレワークなど在宅時間が長くなったことで、広さや部屋数を求める動きが増え、一戸建てに注目が集まっている」

「今回は、首都圏のファミリー向け以上の居住用賃貸物件(50㎡超)の中で約1割を占める一戸建てにおいても、定期借家物件の特徴が見られるのか探ってみた」

とのこと。まずは、1都3県の一戸建て賃貸物件における、定期借家物件のシェアを覗いてみよう。

(アットホームで登録・公開された居住用一戸建て賃貸物件に占める定期借家の割合)
東京23区 …27.8%
東京都下 …23.1%
神奈川県 …17.9%
埼玉県 …10.2%
千葉県 …8.2%

いかがだろう。日頃から現場を知るプロを除いては、「印象と違っていて驚いた」と、いう方も多いかもしれない。

ご覧のとおり、東京23区では4物件に1物件以上が、都下では5物件に1物件以上が、定期借家となる計算だ。

さらに、これらの数字は、マンション・アパートの同じデータと比べると、驚くほど大きい。

(マンション)
東京23区 …5.2%
東京都下 …3.7%
神奈川県 …3.7%
埼玉県 …3.5%
千葉県 …1.8%

(アパート)
東京23区 …4.8%
東京都下 …2.0%
神奈川県 …3.1%
埼玉県 …1.2%
千葉県 …0.7%

ただし、これにはカラクリ(?)があって、明かすとこうなっている。

(アットホームで登録・公開された70㎡超の賃貸マンションのうち、定期借家物件が占める割合)
東京23区 …25.2%
東京都下 …14.8%
神奈川県 …18.6%
埼玉県 …10.6%
千葉県 …8.3%

70㎡超の広いマンション、すなわち、賃貸においては自ずとハイグレードな物件が数を占めるカテゴリに当たるが、ご覧のとおり、これらの数字はさきほどの一戸建てのものとかなり似通っている。東京都下分を除いては、ほとんどそっくりといってもいいだろう。

(再掲:一戸建てでの数字)
東京23区 …27.8%
東京都下 …23.1%
神奈川県 …17.9%
埼玉県 …10.2%
千葉県 …8.2%)

つまり、この傾向から見て、一戸建て賃貸で定期借家を選ぶ物件が多い理由と、面積の広いマンションで定期借家が選ばれる理由は、基本的に同じであることが想像される。

その理由とは、

・高額賃料下での滞納リスクの回避
・資産価値の保護

言い換えれば、言葉は悪いが、

「高い家賃を取りっぱぐれる事故や、高グレードな物件をずさんに取り扱う客(入居者)が発生した場合、ダメージを最小限に抑えたい」

こうした、貸主側にとっては必然のニーズにあって、契約期間が満了し次第、問答無用でオーナーが物件を取り戻せる定借制度が、重宝されているものといえるだろう。

もちろん、上記以前に、定借物件にあっては、いわゆる転勤大家さんが貸主であるケースも少なくない。のちのち自らが住むための住宅の確保と、その際の品質保持のために、定借が利用される例が見られることはいうまでもない。

加えて、今回、アットホーム社によれば、

「相続対策等として、建築した一戸建てを定期借家物件にしているといった声も聞かれる」
「定期借家での運用を前提に、一戸建てを建てるビジネスモデルが一定数存在することも判った」

とのこと。つまりは、一戸建て賃貸という、定借とは相性がよい舞台で、同制度は人知れず(?)輝いているといったニュースが、今回、報告されたかたちとなるようだ。

次ページ ▶︎ | 定期借家物件と普通借家物件の平均募集家賃を比べた結果 

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