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荒んだ世の幕開けか? それともエキサイティングな時代の始まりか?

世紀末お騒がせ伝説 迷惑系タレントを支える「シグナライズ経済」(1/2ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2022/02/02

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イメージ/©︎artfotodima・123RF

元迷惑系ユーチューバーH氏の怒涛の年始

「悪名は無名に勝る」との言葉がある。最近は特にいえることではないか。この年始から半月ほど、いわゆる元迷惑系ユーチューバーとして名を馳せるH氏の動向から、私もついつい目が離せなかった。

氏については、昨年窃盗罪の有無などを争った名古屋地裁・高裁判決や、参議院山口選挙区補欠選挙への立候補などが大いに話題となった。次いで年明け早々、彼の困窮(実際に困窮しているかは不明だが)に手を差し伸べ、屋根と暖かい布団を与えてくれた人物を裏切ったことで居候先だったマンションを追い出される映像がYouTubeに公開された。これによって、氏はホームレス生活をスタートさせることとなる。

そのうえで、氏は8日には格闘技イベントに出場。打ち合わせのないいわゆるガチンコ勝負でこれに臨んだらしいものの、そのためか開始ゴングわずか数秒でKO負けを喫してしまった。

そのあと、氏はケガの体をひきずりつつ、寒空のもとまたホームレスに復帰したが、現場には金品問わず応援の差し入れがひきもきらない。またそんな氏の動向をスポーツ新聞のみならず、朝日新聞社系の総合情報サイト「AERAdot.」なども刻々追いかけているといった目下の状況となっている。おそらくは私のようなヤジ馬による多数のアクセスが望めるのだろう。

多数のアクセス――すなわち経済が動いている・動かしうるということだ。H氏のツイッターフォロワー数は現在約5万4千、TikTokでは約14万がカウントされている。前記の格闘技イベントの如く、H氏が動けば人が動き、注目も集まる。H氏――彼の宣伝になるが皆すでに分かっているので言ってしまおう――へずまりゅう氏は、いまはハードルも多そうだが、やりようによってはすでにかなりの投資や人員を動かす奇妙な実力をそなえている。

シグナライズ=際立ちの経済 

私は「シグナライズ経済」と呼べるものが、現在世の中に生まれ、しかも大きく育っていると感じている。シグナライズとは「際立たせる」ことだ。「際立つ」ものに社会が引きずられ、「際立つ」ものを中心に消費や投資が回転する。もしくは回転させられてしまう。へずまりゅう氏や、シバター氏(格闘家・ユーチューバー)、ゆたぼん氏(ユーチューバー)のようなシグナライズされた人を追いかけるニュースに、私もついつい時間を割き、アクセスし、図らずもPVを上げてしまうということだ。 

もっとも、こうしたことは過去にもいろいろなかたちで存在した。ひとつの例が追悼フェアだ。作家が死亡すると、その死によってシグナライズされたその作家の本が一定期間売り上げを伸ばす。それによりステークホルダーが潤う。そのうえで、おそらくはインターネットの時代になって以降、このシグナライズ経済は大きく裾野を拡大させている。加えてSNS時代に入り、一気に膨張したといっていい。

そこで、このことは大変荒んだ危ない世の中の始まりなのか、それとも平等なチャンスが人々にばらまかれたエキサイティングな時代の幕開けなのか、私はいまひとつ分からないでいる。思うに結果は両面だろう。

評価経済とシグナライズ経済

評論家の岡田斗司夫氏が、すでに2011年という大昔に「評価経済社会」という概念を提唱している。まことに慧眼な主張で、私の理解ではこれは人が受ける評価を「資産」であると規定するものだ。評価された人、厳密にはなんらかの行動や功績によって高く評価された人が手にする、信用、信頼、リスペクト、あるいは讃仰、賛美、感謝といったものにつき、これを換金したり、投資資本化できたりする資産であると、この評価経済社会論は見据えている。

この資産、すなわち「評価資産」は、過去にも存在はしたが、大きくはインターネットによって確立した。具体的には、評価資産にはインターネットによって通貨でいう単位が与えられた。PVやフォロワー数、いいねの数、3.5だの4.0だのといった評価ポイント等がそれに当たる。と、同時に、インターネットは人間ひとりひとりに発信手段を持たせることで、評価をマイニング(採掘)するための平等なチャンスも与えている。すなわちインターネット時代においては、かつては著名人・有名人のみが手にしていた評価資産創造の機会が、万人に開放されたことになる。

すると、換金ができたり、資本化できたりする評価資産であるのだから、評価経済社会にあっては、人々には労働などにより直接お金を稼ぐ選択肢と、一旦は評価資産を集めて貯めておく選択肢、2つの選択肢が用意されていることになる。なので、女子高生がショッピングモールの目立たないところにある階段などで踊りながらTikTok用の動画を撮影しているのは、その予行演習であるとともにすでに実践といっていい。われわれ古い世代には遊んでいるようにしか見えないその風景も、彼女たちにとっては評価経済社会での未来を掴むためのまさに必死のプラクティスであり、パフォーマンスとなっている。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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