「全米でいちばん住みたい都市」のDIYリノベーションは日本とこんなに違う!(2/6ページ)
馬場未織
2017/11/09
<体験1>ストローはいらない文化
カフェで飲み物をオーダーすると、「紙コップにしますか、マグにしますか」と聞かれますよね。その言葉を聞くとわたしは最近、反射的にポートランドのジューススタンドのことを思い出します。
それは、私道の道端に据えられた、ワゴンを改造したジューススタンドでした。
フレッシュジュースが飲めるというので朝立ち寄ったところ、それほど人通りのない場所なのにひっきりなしに客が訪れている様子でした。車のなかにはジュースをつくっている若い男の人がひとりだけ。
体に良さそうなベジタブルジュースをオーダーすると、少し待たされた後にガラスのコップに入って出てきました。合理的に考えれば、使い捨てのプラスチックコップにするところでしょう。持ち帰ることができるし、洗う手間がかかりません。
「うーん、ここで飲んでいかなければならないのかあ、まあしかたない」と置いてあったストローストックからストローを取り出して持っていくと、一緒にいた友人から「あれ? 馬場さん知らないの? ストローは使わない、という文化があるんだよ」と、教えてもらいました。
それでふっと周りを見てみると、たしかにほかの誰もストローを差していません。日本では、飲食店で出る冷たい飲み物にストローを差すのは当たり前になっていますよね。それで何も考えずに(特にどうしても必要というわけでもないのに)ストローを自然に手にしてしまった自分に、ハッとしました。
その後、ポートランドのさまざまなカフェに行き、さまざまな飲み物をオーダーしましたが、何も言われずにストローがついてきたことはありませんでした。「意識高い系」のお店だけがそうしているというわけでは、なかったのです。
あとで調べてみると、アメリカでは、リサイクル用のゴミ箱に入れられることがほとんどないプラスチック製のストローを「使うかどうか問われたら、使わない」という選択をするように消費者に促す動きがあることを知りました。
ウミガメの鼻に詰まったストローを科学者が取り出すという動画がきっかけで広がった動きのようです。
アメリカでは1日5億本ものストローが使われていて、それが海洋プラスチックごみとなり、その絶妙なサイズから海洋生物の窒息死や魚の誤飲につながっているとのこと。
もちろんストローは全体のプラスチックごみのなかではわずかな量ですが、「まずストローから始めよう」と呼びかけられているそうです。
友人に指摘されたとき、わたしは言いようのない恥ずかしさを感じました。それは、必要のないものを習慣的に手に取る無自覚に対してと、「そんなことやってもどうせそんなに意味はないだろう」とどこかで諦めている自分に対しての、ふたつです。
実際、ポートランドでは、その小さくても正しい方向の選択が定着している様子でした。だとしたら、ほかのものも同じように「実はいらないよね」という考えを定着させることができるはず。
その可能性を、わたしはシャットアウトしていたんだなあ、と気づいたのです。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。