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週末田舎暮らしの毎日が色鮮やかな本当の理由

「旅」の楽しみから「定住」の愛着へ、続けるほど深まる二地域居住の魅力とは?(4/4ページ)

馬場未織馬場未織

2017/03/16

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<定住要素2>「ここに住みたい」と思える人間関係ができていく

旅は、刺激や変化を求める欲望に由来するとしたら、定住は、安らぎと持続可能性を求めるものだと言えます。それは上記の通り、土地に根ざすだけではなく、家族やコミュニティといった“人”に感じるものでもあります。

つまり、たとえひとつの土地に住んでいたとしても、そこでの人的関係が希薄であれば、定住感も希薄だということ。もちろん土地の魅力は人だけではありませんし、人ばかりの都市環境から逃れたいと田舎暮らしをする人もいると思います。ただ、「そこに住んでいたい」と思える理由のひとつとして、人的関係は無視しがたいものです。

夜、南房総の家へと田舎道を走るとき、「ああ、もう○○さんは寝ちゃったかな」「明日は○○さんの出店するイベントだな」と、大事な友人たちの顔が次々と浮かんできます。そして実際、買い物中に知り合いと逢う機会などが増え、東京の家の近所と何ら変わらない親密なエリアとして心を許していくのです。

もちろん、定住しているのと同じく地域の仕事を担う必要は出てきますが、それによって土地の魅力を消費するだけの観光客とは異なる“当事者意識”が形成されるとも言えます。

二地域居住が“旅”から“定住”へと変化していくとき、南房総は自分にとって、ほかのどの場所とも比べられない、置き換え不可能な価値をもった土地となります。

(参考記事)
ギブ・アンド・テイクを超える。田舎暮らし的ご近所づきあい

<定住要素3>外の視点を持った立場で地域貢献できる

もうひとつ、定住感を持つようになったのは、“わたしの家”ではなく“わたしの住む南房総”が気になりだしたことがあると思います。地域のことが他人事ではなくなってきた瞬間です。

たった数日滞在しただけの旅先にだって、「もしあの珊瑚礁が白化したら」「大きなリゾートホテルが建つらしいけど大丈夫かな」と、思い入れを持つことがありますよね。南房総に対しては、その何倍もの興味を持つようになったのは自然の成り行きです。

美しい里山景観を眺めて過ごし、自分も草刈りなどの野良仕事で風景をつくる一員となるなかで、この環境を維持する人材が未来に向けて少なくなっていくことを案じるようになりました。また、夏に親しんでいる海岸近くに残土処理場ができると聞いたり、空き家や空きビニールハウス、空き牛舎などがぐんと増えている現状を目の当たりにしたりすれば、心は大いにざわつきます。

そして、「自分にできることはないかな?」と自然と考えるようになります。

こうして土地と向き合う力が宿ったとき、二地域居住とはいえ、これは“定住”であると思うようになるのだと言えます。二地域居住者や移住者にパブリックマインドが生まれやすいのは、その土地に惚れこんで家を持ったという経緯があるからかもしれません。

実際には居住時間が少ないことで半人前の働きしかできない二地域居住者ですが、外の視点を持った立場を活かすことで、地域貢献は可能です。「惜しみない愛と当事者意識を持った外部コンサル」として見れば、地域にとってこれほどの強い味方はいないわけです。

地元からは半分外にはみ出ている人間だと思われていたとしても、当人は間違いなく、自分は地域の人間だと思っていますからね!(笑)。

(参考記事)
二地域居住もそのひとつ。個人にできる地方創生とは?

「ただ労力のかかる生活」にしないために

旅と定住、どちらの要素も持ち合わせる二地域居住。

刺激がほしい、安定もしたい、と欲張りな人間の選択肢と思われがちですが、ひとつ言えるのは、二地域居住は「足りないものを外からもらう暮らし」ではないということです。

自分で価値を見出し、豊かさを積み上げていかなければ、ただ労力のかかる生活として疲弊します。それだけを心にとめ、ドラマティックで安らぎのある二地域居住をぜひ謳歌してみてください。

(参考記事)
東京と南房総、どちらかではなく「どちらも選ぶ」。それが二地域居住のファイナルアンサー

 

 

 

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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