ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

本当に「高値売却」は実現できる?

業界の裏を知る私が教える、不動産一括査定の賢い使い方(1/3ページ)

大友健右大友健右

2016/11/24

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

注意1 査定額と実際に売れる価格は違う

家を売りたいと考える人がいちばん気になるのは、やはり「いくらで売れるのか」ということでしょう。大切な家を売るのであれば「できるだけ高く売りたい」と考えるのは当然のことです。
そんなときに便利に思えるのが「不動産一括査定サイト」です。基本的に無料で利用できる上に、一度に複数の不動産会社の査定を受けることができます。

「だったら、一括査定サイトで複数の不動産会社に査定してもらい、最も高い査定額を出した会社に売却を依頼すればいい…」

そう考えた人は、ちょっと待ってください。大切なことを見落としています。
それは、「査定額はあくまでも査定額であり、実際に売却できる額とは違う」ということです。
ここで、不動産業者の立場になって考えてみてください。一括査定サイトにはたくさんの不動産業者が登録しています。ライバルたちのなかから自社を選んでもらうために、あなただったらどうしますか?

やはり、「他社より高い査定額を出すこと」を考えるのではないでしょうか?
あくまでも査定額は査定であって実際に売れる価格は違うということを忘れないでください。

注意2 査定は、不動業者の「営業活動」でもある

家を売りたい人は、不動産業者の査定を受けて、いちばん高く売ってくれそうな会社と契約することでしょう。そう考えると、「査定」は不動産業者の営業活動でもあるといえます。
ですから、不動産業者が、できるだけ高い査定額(もちろん相場からあまりかけ離れ過ぎない範囲で)を出して契約を取ろうとするのは当然の行動といえます。
一括査定サイトの場合は、すでにライバルがいることが明らかなので、そうした傾向が強くなるという側面があることは否定できません。
なかには、契約を取るために、「少々の無理」がある査定額を出してしまうケースがあるかもしれません。

もし、相場よりも高い価格で売りに出したらどうなるでしょう。

買い手は当然、「少しでも安く買いたい」と考えていますから、普通に考えれば買い手はつきません。その場合、通常は販売価格を下げることになります。それでも売れなければ、また販売価格を下げて…を繰り返し、結局は、相場通りの「適正価格」に落ち着くことになります。

売り主からすれば、期待した価格で売れない上に、売却できるまでに無駄な時間を過ごさなければならないわけです。

注意3 「囲い込み」に要注意


(図1)不動産売買の一般的な取引の流れ

そして、実はもっと深刻な問題があります。それは、不動産業者による「囲い込み」です。これまでにも何度かご説明しているので、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、改めて「囲い込み」についてお話ししておきましょう。

売買取引を仲介する不動産業者の収入は、売買契約が成立した際に支払われる仲介手数料です。たとえば、不動産業者であるA社がマンション売却の依頼を受けた場合を考えてみましょう。

A社は、不動産流通機構が運営する「レインズ」というネットワーク・システムに物件情報を登録して、買い主が現れるのを待ちます。レインズとは、不動産会社が物件情報を共有するシステムで、ここに物件情報を登録しておけば、別の不動産会社(仮にB社とします)が買い主を連れてきてくれるのです(図1参照)。

ですが、このようにして取引が成立した場合、A社に入ってくるのは売り主からもらう仲介手数料だけです。こうした取引は不動産業界では「片手取引」と呼ばれています。
ビジネスである以上、たくさんの収入があったほうがいいのは当然です。そこで、一部の不動産会社は、自社で買い主を見つけて、売り主と買い主の双方から仲介手数料を受け取る「両手取引」を行おうと考えます。

少しでも高く売りたい買い主と、少しでも安く買いたい買い主の利益は相反します。ですから、両手取引は、利益を極大化するという企業の論理には合致していますが、「消費者の利益」を考えた場合、問題があると言わざるを得ません。

そして、この「両手取引」を実現するために、一部の不動産会社がやっていること、非常に残念なことなのですが、それが「囲い込み」です。
この例でいえば、B社が買い主のために問い合わせをしてきても、「すでに商談中です」「買い手が決まりそうです」と言って断ってしまうのです。これが「囲い込み」といわれる、一部の不動産会社の間で横行している悪しき商習慣なのです(図2参照)。


(図2)「両手取引」に持ち込むために「囲い込み」が行なわれる

囲い込まれた物件は、不動産流通市場から完全に隔離されてしまいます。売り主にとっては、とてつもない機会損失です。しかも、不動産会社の巧みな情報操作によって、売り主が囲い込みの事実に気づくことはまずありません。
囲い込みの実態についてさらに知りたい方は次の記事を参考になさってください。

(参考記事)
リノベブームのいま、個人が家を売ると大損する3つの理由
業界内で当たり前に行なわれている『囲い込み』の実態

なかには、わざと高い査定額を出し、「割高物件」として売りに出す業者もいます。「回し物件」として利用するためです。中古住宅を探している人に「高い」と感じさせて、自分たちが売りたい物件(両手取引で売れる物件)を引き立てるための道具(=回し物件)として利用するのです。
残念なことですが、業界の一部ではこうしたことも行なわれているということを知っておいていただきたいと思います。

「回し物件」として利用された家がどうなるかは、別の記事(「回し物件」として利用された中古物件の末路 http://sumai-u.com/?p=2282 )にまとめてありますので、ぜひご覧ください。

(参考記事)
「回し物件」として利用された中古物件の末路

次ページ ▶︎ | 不動産業者が「売り物件」を扱いたがる理由

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。

ページのトップへ

ウチコミ!