為替と不動産の関係——ドル安・円高の可能性 そのとき日本の不動産価格はどう動く?(3/3ページ)
ウチコミ!タイムズ編集部
2021/06/11
なだらかな円高が進んでできた背景
ドル・円推移 出典/TradingView
現在の円高は4年間続いており、トランプ前大統領の任期中(17年1月20日/116円程度〜21年1月21日/103円程度)に約13円の円高が進んだ。その後円安となり、6月10日時点では109.4円となってはいるが、その傾向は続いている。
このため前述したとおり為替ストラテジストらの予測では21年末に1ドル=95円という円高予想も出てくるわけだ。
しかしながら、新型コロナによって日米欧ほか世界中の中央銀行が超金融緩和政策へとカジを切り、先進国ではマイナス金利政策やゼロ金利政策によって対応している。この結果、通貨投機資金もだぶつくという、過去なかったことが起こり、今後どうなるかは予断を許さない。
ドル・円相場は、日米両国の実質金利差に大きく影響される。実質金利差とは「指標金利―物価上昇率」で示される。
具体的には、米国では「フェデラルファンド金利―消費者物価上昇率〈前年同月比増減〉」(A)。日本では「無担保コールレート翌日物金利―消費者物価上昇率〈同〉」(J)となる「(A)―(J)」が日米の実質金利差になる。この実質金利差とドル円相場は、過去15年あまり、両者のチャートが重なるように動き、ほぼ連動している。
少々、数字は古いが21年初頭の状況で計算すると、米国は指標金利(政策金利FFR)が上限0.25%(下限ゼロ)と低い。消費者物価は年1.4%(21年1月)上がっているので米国の実質金利はマイナス1.15%以下(A)になる。
一方、日本において、指標金利は米国より低い0.022%(2月末営業日)だが、物価はマイナス0.6%(21年1月)なので、実質金利はプラスの0.8%以上(J)となった。
つまり、日米の実質金利差(A―J)はマイナス2%に近い負の領域になる。これは日本の実質金利が2%(2ポイント)弱も高くなり、その点だけに着目すると、現在、資金は米国から日本に流れやすい環境になっている。このように「円」が買われやすい環境にあり、その結果、なだらかな円高傾向を裏付けているというわけだ。
一方、日米の長期投資にも影響する両国の長期金利の水準については、米国では、バイデン政権の大型経済刺激策や新型コロナワクチン普及による景気回復が早まる期待から、2月末にかけて1年ぶりに長期金利1.35%を突破、長期金利高は一時、日本にも波及した。
米民主党と米中関係 拭えない円高要因
とはいえ、国内でインバウンドを呼び込むためのホテルや観光地、催事場の整備を重ねてきたため、日本側としては円安を維持したいのが本音。
しかし、そうはなかなかできない理由に米中関係の悪化がある。もしも、中国が自国の通貨を切り下げて元安に動いた場合、米国は対抗措置としてドル安に踏み切らざるを得ない。その際には前述した事情もあり、日本の官邸や財務省は円安のためにはとても動けないのだ。
このため、為替市場に大きな影響を与える実質金利差を変えるのは、為替市場介入ではなく日銀の役割になる。
つまり、日銀が金融緩和をさらに深掘りすることで、日本の金利水準をさらに下げ、日米の実質金利差を低くするようにするという願望である。
しかし、現実には日本(日銀)のほうが米国(FRB)よりマイナス金利を深掘り(手段は日銀の既発国債購入)をしてしまったため、金利をさらに低く誘導するのは難しい。だが、金利水準が日本より高い米国のFRBは深掘りののりしろがあり、ドル安方向に仕向ける余地がある。しかも、過去のクリントン、オバマの民主党政権ではドル安円高という経済政策をとっており、同じく民主党のバイデン政権が誕生したことによって、ドル安円高政策が取られる懸念もある。
世界の中央銀行が金融緩和を続ける中、その蛇口がどう閉められるのか/連邦準備制度理事会ビル©︎Roman Babakin・123RF
日経平均は2月中旬から乱高下を繰り返しながら緩やかに下がっているものの、日本の不動産は堅調だ。実際、ブラックストーンをはじめとした投資ファンドも、日本の不動産への投資を強めている。その背景には円安によって日本の不動産がお買い得という側面もあったからだ。
これまで不動産というと、国内ばかりに目が向きがちだったが、世界の中央銀行が金融緩和を続ける中、その蛇口がどう閉められるのか。あのバブル崩壊の二の舞を踏まぬように、グローバル化した金融市場においては、金利引き上げと為替にも注意が必要になってきている。
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