ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

最近よく聞く「住み開き」とは?

都会と田舎はどう違う? 住まいのプライバシー感覚と心地よい暮らしのつくり方(3/4ページ)

馬場未織馬場未織

2017/08/10

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

<例1>敷地境界線の内側は完全プライベート、外側はパブリック

「敷地境界線の内側=所有地=プライベートエリア」、という感覚は一般的でしょう。

敷地境界に塀や生け垣を回している家が多いですし、さすがにそれを乗り越えて入ってくる人がいたらドキッとしますよね。というか、もし理由もなく敷地内に入る者がいたら住居侵入の罪に問われることになります。

日本は国土が狭く、小さな敷地を「ここは自分の土地」と明確に示すためにブロック塀などでしっかりと区切り主張する必要があった、ということもあり、境界をしっかりと囲い込む家が多いです。

ただ、境界づくりにも個性があり、家の“外側”を向いて花を育てている住まいもよくありますね。これは「境界線に接する外の人たちへの気持ち」の表れでしょう。

境界線で公私を分けていても、要塞のように高い塀を立てた家と、塀を立てずに草花などで緩やかに仕切る家とでは、境界への意識が違うかもしれません。

さらに、田舎では、敷地境界線で家を囲い込まない家が多いです。

たとえば、南房総のわが家は、地目が「宅地」となっている範囲が物理的に囲まれているわけではありません。入ってこようと思えばいくらでも敷地のなかまで入れます。これは、隣家との間隔がたっぷり空いているからだと言えますが、それだけが理由とも言えないところもあります。

…そこで次に、「敷地境界線」よりも広いプライベートエリアを考えてみます。

<例2>自分の住む地域自体が、緩やかなプライベートエリア

これは、田舎の小さな集落によくある状態だと言えます。ひとつひとつの家が安全を守るシェルターなのではなく、集落全体が“相互見守りシステム”として機能することで、自分たちの暮らしを守っているという状態です。

そうした集落には、地域の知り合い以外が侵入してくることは、そうそうありません。そのため、見慣れない都会ナンバーの車などが入ってくるとすぐ気づいて「誰だろう?」と凝視してしまいます。

逆に、こうした集落では家に鍵などかけなくても心配になりません(わたしの家のある南房総の集落がそうです)。

実は以前、家の修繕を頼んでいた大工さんに、わたしたちの不在時に作業をお願いしていたにもかかわらず鍵を渡すのを忘れてしまった!ということがあったのですが、裏のほうから入って作業をしてくださっていました。

「田舎の家は、ぐるっと回れば、どこかしらの窓とか扉が開いているのがフツウなんだよ」と笑って教えてくれたのですが、別のところでも「鍵を忘れた息子が、どこかから入って寝ていた」という話をしていたのを聞いたので、地域全体に安心しきっている暮らし方なんだなあと感心した覚えがあります。

家は当然、きちんと戸締りして(あわよくばセコムにも頼って安全を確保して)、自分の住まいと外とを、プライベートとパブリックな空間に完全に切り分ける生活。そして、家から一歩でも外に出れば、自分も不特定多数のうちのひとりとして街に溶け込んでしまう、という都市的・現代的な生活環境に慣れている人だと、ちょっとびっくりするかもしれません。

また、やや趣が異なりますが、欧米などで見られる「ゲーテッドコミュニティ」もこれに当たります。「ゲーテッドコミュニティ」とは、エリア全体を門(ゲート)を設けた塀で囲み、住人以外の出入りを制限しているという上層階級のコミュニティです。

家も学校も商店もゲーテッドコミュニティ内にあり、生活がここで完結できます。なかにいれば安心して暮らせる、という安全保障を明確に形にしたコミュニティづくりですが、「ゲートの外は信用できない」という排他的な考えが根底にあると言えます。

では、今度は逆に、外との関係を積極的につくっていく住まい方も考えてみましょう。

次ページ ▶︎ | <例3>住まいのなかにパブリックゾーンをつくる

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

ページのトップへ

ウチコミ!