フェーズフリーとは――「普段」が「備え」になる防災のための新たな概念(3/4ページ)
朝倉 継道
2021/08/04
住宅分野のフェーズフリー
住宅分野にも目を転じてみよう。さきほどのローリングストックもそうだが、さらに典型的なものといえば、太陽光発電システムがそうだ。太陽光さえ降り注いでいれば、停電時も自立運転によってある程度の電力を供給できる。すなわち、フェーズフリーであることがよく知られている。
さらには、日常の利便性が歓迎される「回遊性」重視の間取りも、実はフェーズフリーな面を持っている。理由は、家屋の損壊、家具の転倒が起きた際など、脱出しやすいこと。避難経路が塞がれにくいことだ。
ちなみに、昨年入居者募集が行われ、その人気が話題となった東京都住宅供給公社の賃貸物件(“新しい日常”対応型賃貸マンションに平均倍率9.3倍の申し込み――その日常仕様とは何か)には、こんな設備が設けられていた。
・防災井戸
普段は外部水栓。災害時もそのまま屋外給水システムに
・かまどベンチ
普段は共用ベンチ。災害時は炊き出し用のかまどに変身
・マンホールトイレ
災害時は便座や囲いを置いてトイレにできるマンホール
こうした設備も、まさに住宅におけるフェーズフリーの実現を探る意欲的な提案といっていいだろう。
フェーズフリーだから売れている?
ちなみに、私がとても注目している、“フェーズフリーを謳わない”優秀なフェーズフリー商品が、モビリティの分野にある。ホンダの「CT125・ハンターカブ」というバイクだ。
オフロードに強い設計のため、そもそも悪路走破性が高い。エンジンの吸排気を行う部品が高い位置にあることで、ある程度の深さならば水中も走れてしまう。すなわち、震災時や水害時に強いのが特長だ。
しかも、手頃なサイズ、軽さで、日常の取り回しもよいうえ、いわゆる「カブ」シリーズなだけに車体も丈夫だ。加えて、燃費もよく、荷物の積載量も十分ときていて、まさにフェーズフリーの具現化そのものといえる商品になっている。
なお、同バイクにあっては、2020年6月の発売時に、予約だけで年間販売目標をすでに超えていたほか、その後も品薄が続くなど人気が継続している。
その理由のひとつとして、この商品の高いフェーズフリー性がユーザーの心を捉えていると分析しても、あながち間違いとはいえないかもしれない。
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。