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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本]#4 新築分譲マンションを買うという意味を考えよう(3/5ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2018/06/20

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マンションの資産価値、そのほとんどが建物代…

ところでこれを1戸あたりの資産価値として考えてみよう。敷地面積は5800坪と広大な敷地だが1100戸も分譲されているので1戸当たりの持ち分はわずか5.3坪程度となる。土地代の原価は坪当たり350万円だったので、1戸当たりの土地の持ち分評価額は1855万円(350万円×5.3坪)ということになる。残りが建物代とすれば販売価格の7000万円から差し引いた5145万円ということになる。土地建物の比率で考えると土地比率が26.5%、建物比率が73.5%ということになる。

マンションの資産価値はそのほとんどが建物代ということになるわけだ。不動産価値の源泉が土地にあるとするならば、購入総額のほとんどが建物代になるマンションに、はたして不動産価値はあるのだろうか。

今まではあたりまえのように「住宅を買わなくては」と多くの人が考えてきた。賃貸住宅に居住していても家賃は毎月捨てるだけ。同じくらいの金額の負担をするのであれば「持家」に払ったほうが将来資産になると多くの人が考えてきたからだ。

とりわけ近年都心部に続々建設されたタワーマンションは都心居住の象徴として人気が高い。またタワマンを買った多くの人が、銀座の土地の値上がりを横目に将来自分が手に入れたマンションが「値上がり」することを期待しているという。

本当だろうか。先ほどの事例で考えてみよう。このマンションの1戸当たりの面積は23坪(約76平方メートル)、分譲価格は7000万円だ。同じエリアに建つ別のマンションの賃貸案件を調べると、築8年の物件が同じ面積で月額賃料は約20万円になる。

話を簡単にするために持家として取得するお金を全額、期間25年の住宅ローンで調達するとする。安全性を考えて期間中を固定金利として、現行の金利1.69%とする。月額返済額は元利均等返済で28万6247円になる。年間返済額にして約343万円の負担だ。

一方で賃貸案件だと年間賃料は240万円、更新料などを徴求される場合もあるが、2年ごと1ヵ月分20万円を負担したとしても、年間負担額はならしで約250万円ということになる。
持家の場合、この負担に加えて管理費、修繕積立金で月額約3万円、年間で36万円。固定資産税等は年間20万円ほどがかかってくる。つまり年間での負担額は約400万円にもなるのだ。25年間金利が不変にしてさえ、このマンションがローンの支払いを終えて自分のものになるまでは総額で約8587万円を支払わなくてはならない。

賃貸住宅であれば、住んでいるマンションは自分の資産にはならないものの住むためのコストだと割り切れば25年間で6250万円にすぎない。もちろん最近では住宅ローン減税という新築優遇税制があるが、それとて住宅ローン残高の1%(最大控除額年40万円)かつ10年間の措置にすぎないので全体の支払額に貢献する割合はそれほどではない。

さて議論はここからだ。この事例でも25年間で賃貸住宅よりも約2337万円もの多くのお金をつぎ込んだとしても26年目からは自分の資産になるというのが「持家」をすすめる根拠となる。賃貸住宅であれば、26年目以降も賃貸住宅だ。

次ページ ▶︎ | 25年間という時間軸で想像する

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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