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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#17 郊外衛星都市や地方都市に投資チャンス到来(1/3ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2020/08/28

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ポスト・コロナ 時代は「生活ファースト」

コロナ禍がなかなか収束を見せない中、都心部に集中してきた投資用不動産マーケットに変化の兆しが表れている。

時代は集中から分散へ。東京都心にすべての機能が集まり、人が密になる世の中には不合理ばかり。いつでも好きな場所で好きな仕事を行うことができるようになるポスト・コロナの時代、どんな街が市民権を得ていくのであろうか。テーマは「生活」だ。

まず、働き方の状況によって住むために選ぶ場所が変わる。たとえばテレワークは週2、3日程度で残りは都心で働く、というのであれば、あまり遠くには住まず、交通の利便性も重視して街を選ぶようにすべきだ。ただし、これまでのように会社ファーストだけでの家選びから、条件はだいぶ緩やかになってくるはずだ。必ずしも駅徒歩5分以内である必要はもはやない。街を楽しむという観点でいえば、オールドタウンなどは住みやすいかもしれない。

東京の下町は不動産価格が手頃であるのに、風情があって結構楽しめる街が多い。葛飾の柴又に住んで、寅さんになった気分で下町情緒を楽しんでもよいし、入谷や千住など浅草や上野に簡単にアクセスできるようなエリアに住んで、夏の昼下がり縁側で将棋を指すなどという生活を楽しむのもよいかもしれない。

世田谷や杉並といった山の手地区でも、意外と交通便の悪いところはたくさんある。杉並は鉄道路線が東西にしかないし、世田谷でもバスしか交通手段がないところはいくらでもある。毎日バスで最寄り駅まで通勤するのは苦痛だが、週の半分くらいであれば、それほどの負担ではない。こうしたエリアはやはり世田谷、杉並ブランドなので環境もよい。ところが交通便が悪いところは、住宅価格が目に見えて落ちる。狙い目といってよいのではないだろうか。

生活ファーストなら魅力UPの衛星都市

いっぽう、月3、4回程度、都心の会社に通勤すればよく、基本はテレワークというような仕事になった場合は、さらに選択肢が広がる。大都市圏には、ここ数十年の間で、しっかりとした都市機能を持った衛星都市がいくつも誕生している。これらの都市は、これまでは所詮ベッドタウンにすぎないという面もあったが、一日を快適に過ごせる機能を意外と持ち合わせている街も数多く形成されている。

こうした衛星都市は、多くは都心まで通勤で1時間を超え1時間半程度はかかるところが多く、都心居住の進展で家選びの基準から徐々に外されてきた。ところが通勤に費やす時間を考える必要がなくなり、生活ファーストを前面に出しての家選びができるようになると、かえってポイントは高くなる。


好きな場所で好きな仕事をする。さらば満員電車!?/©︎123RF

まずは不動産価格が安いということだ。平成バブル期にはこうした衛星都市の不動産価格も高騰した。横浜のだいぶ奥のほう、たとえば栄区や金沢区、泉区といった住宅地でも1億円を超える物件がごく普通に出回っていたが、現在は中古物件であれば1000万円台でも手に入る。都市機能の多くは横浜に揃っているので、平常時は横浜に遊びに行く生活を堪能できる。同じ神奈川なら相模原や横須賀、藤沢や小田原といった衛星都市を基点に生活構築することが可能となる。

また千葉なら、船橋や柏、松戸、埼玉なら大宮や浦和、春日部や川越を中心とした生活が送れる。これまでは横浜や船橋から、東京にアクセスしなければならなかったのが、ポスト・コロナでは最寄りの生活圏にこういった衛星都市があれば、毎日の生活にはあまり事欠かないということになる。

そうした意味ではポスト・コロナにおいては、これら衛星都市がどこまで人々を惹きつけるようなレイヤーを構築できるかが鍵となりそうだ。それはただ単に劇場だとか展示場、体育館や図書館といったハコモノがあるだけに限らず、市民サービスや生活支援、災害対応、子育て、教育などあらゆる分野での居心地の良さの構築が問われてくると言える。そして差別化のヒントはトヨタ自動車が東富士で計画しているような、たとえば「道」といった、あるテーマをもとに徹底して街中にレイヤーを構築することだ。こうした取り組みを成し遂げることで、衛星都市の中には今まで以上に魅力を増し、平成初期の頃以上に価値を高め、復権を果たすところが出てくるのではないかと期待している。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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