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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#19 武蔵小山が新たなタワマンの街に大変貌する(1/2ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2020/12/16

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写真/©︎D・Nekoyama

商業の街として栄えてきた武蔵小山

最近首都圏の人たちの間で「ムサコ」といえば、川崎市中原区の武蔵小杉を指す。神奈川県民の私に言わせれば、武蔵小杉は「コスギ」だが、武蔵小杉にやってくる新住民は好んでこの街を「ムサコ」と呼ぶ。

この地域は近年タワーマンションが林立して、不動産価格が急上昇。ここに暮らす裕福な家庭の奥様が「ムサコマダム」などと持て囃されている。一方で急成長する街に対してさまざまなやっかみも含んだ中傷も受けるようになった。朝の通勤ラッシュ時、武蔵小杉の駅に入場するのに20分もかかるとか、小学校は押し寄せる児童で大混乱だとか、とどめは昨年秋に首都圏に来襲した台風19号でJR武蔵小杉駅前が浸水し、駅前のタワーマンションの地下部分が水没してエレベーターが停止になり、災害に対するタワマンの脆弱性をあらためて浮き彫りにする象徴的な話題を提供したりした。

実際、現在では駅に新たな改札口ができて、これまでのように駅改札を抜けるのに20分などといったことはない。小学校も新たな小学校が開校した。浸水も原因は下水道整備などインフラの問題とも言われている。されど、この街は何かと話題になり、ムサコはいつのまにやら武蔵小杉を指す通称に昇格しているようだ。

実は東京都内には、ほかにも「ムサコ」の名称で親しまれている街がある。ひとつはJR中央線武蔵小金井駅周辺であり、もうひとつが品川区の東急目黒線の武蔵小山駅周辺である。東京育ちの私からすれば武蔵小金井は「コガネイ」であり、武蔵小山は普通に「コヤマ」だが、ここにも「ムサコ」の通称が闊歩している。

これら3つのムサコに共通するのは、ムサコの名称は駅名およびその周辺のエリアの通称であって、いずれも地名ではないことだ。

武蔵小杉は言わずと知れたタワマンの街、武蔵小金井は東京学芸大学や東京経済大学、東京農工大学など学校の街、それに対して武蔵小山は古くから商業の街として栄えてきた。3つのムサコには明確な個性があったのだ。

学生や若い社会人にも暮らしやすい人気の街

ところが最近、「商業の街=武蔵小山」に大きな再開発の波が押し寄せている。この話をする前に、武蔵小山駅周辺をまず地図で俯瞰してみよう。

なるほど駅周辺には「武蔵小山商店街パルム」「一番通り商店街」「親友会通り商店街」「富士見通り睦会」「京栄会商店会」「目黒平和通り商店街」の個性あふれる6つの商店街が形成されている。


武蔵小山商店街パルム/©︎D・Nekoyama


一番通り商店街/©︎D・Nekoyama


親友会通り商店街/©︎D・Nekoyama


富士見通り睦会/©︎D・Nekoyama


京栄会商店会/©︎D・Nekoyama


目黒平和通り商店街/©︎D・Nekoyama

駅前には進学指導特別推進校に指定されている都立小山台高等学校があって若い高校生が街中を歩き、駅前から続くパルム商店街は全長800mにも及ぶアーケード街で約250店舗が集結、中原街道の平塚橋付近まで続く。この平塚橋を中心に東急目黒線と池上線に挟まれた小山、荏原、平塚あたりは住環境と商業環境が融合した街で池上線の戸越銀座あたりまでは住宅地として恵まれた良い立地になっている。

下町商店街としての活気を保ちつつ、品川区と目黒区の区界にあって閑静な住宅地としての趣を残す武蔵小山は、肩肘を張らない住みやすい街として知られてきた。後背地にはアパートなども多く、学生や若い社会人にとっては、商店街もあり物価も安く、暮らしやすい街としてひそかな人気を集めてきた街だ。

だが、この街に変化の波が押し寄せてきたのが、2000年8月に実施された目蒲線の分割だ。これまで武蔵小山駅は目黒と蒲田を結ぶ目蒲線の、鄙びた駅だった。東急目蒲線といえば、目黒と蒲田間の多摩川沿いを走る地味な鉄道で、乗降客も比較的少ないローカル色の強い路線だった。私もかつてこの沿線の「鵜の木」駅近くに住んでいたことがあるが、駅前には成人映画館があり、とても東急線沿線のハイソなイメージとはかけ離れた印象を抱かせるエリアであった。

ところが00年の改正で目蒲線は多摩川駅で切り離されて東急目黒線と名称を変え、多摩川駅から東急東横線に乗り入れ、さらに9月には目黒駅から都営地下鉄三田線、東京メトロ南北線につながる大動脈路線の駅に変貌したのだ。

さらに目黒線は洗足駅と不動前駅間の地下化が実施されたために武蔵小山駅も地下駅となり、駅前広場が再開発され駅ビルが整備された。11年になると品川区は武蔵小山駅周辺地域まちづくりビジョンを策定、駅を中心に「武蔵小山駅前通り地区」「武蔵小山パルム駅前地区」「小山三丁目第一地区」「小山三丁目第二地区」の4つの街区で再開発事業がスタートした。

このうちすでに武蔵小山パルム駅前地区は20年1月に事業が完了。三井不動産レジデンシャルと旭化成不動産レジデンスが開発した地上41階、高さ142m、総戸数624戸のタワーマンションが竣工、分譲された。この地区はマンションのほか飲食店や雑貨店、保育園などが入居する低層棟で構成される。分譲価格は坪400万円台後半から500万円台でまだ若干売れ残りが出ているようだ。

引き続き、武蔵小山駅前通り地区では住友不動産が中心となって21年6月の完成を目指して506戸のタワーマンション、「シティタワー武蔵小山」が建築中である。建物への入居は21年12月だが、販売価格は坪500万円台から600万円台後半。三井のタワマンよりもさらに2割以上の高値で分譲中だ。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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