牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#22 大都市でこれから深刻化する賃貸空き家の実態とその活用 (1/2ページ)
牧野 知弘
2021/06/14
イメージ/©︎jaimax・123RF
近い将来、日本は国ごと荒れ果てる?
空き家問題については、私が2014年に祥伝社新書『空き家問題』を上梓したとき、社会にその実態が驚きを持って迎えられたが、その後は社会問題として共有化され、一般国民にもポピュラーな話題となっている。
総務省「住宅・土地統計調査」によれば全国の空き家数は、18年で約848万戸。住宅総数(約6240万戸)に占める空き家の割合(空き家率)は13.6%となり、日本の住宅の7軒から8軒に1軒が空き家という深刻な事態に陥っている。
この数値は総務省によって過去50年間、5年ごとに行われてきた調査において一度も減少したことがない。一般的には空き家率が30%を超えると、地域の治安が急激に悪くなり、地域全体がスラム化するといわれているが、このまま問題が放置されていると日本は近い将来には国ごと「荒れ果てる」という驚愕の事態が控えていることとなる。
賃貸住宅の空き家は全体の50.9%
空き家といえば、地方に残された実家の問題と考える人がいまだに多いが、実は現在ではれっきとした都市部の問題となっている。
空き家率は、山梨県を筆頭に長野県や和歌山県といったところで高い率を示し、東京都や神奈川県などの都市部は10%台と全国平均である13.6%を下回っている。
ところが空き家数となると、東京都は80万戸を超える断トツの1位であり、大阪府(約70万戸)、神奈川県(約48万戸)、愛知県(約39万戸)といった都市部が名前を連ねている。
都市部は住宅数が多く、空き家率が低くても実数は非常に多くなるからだ。実際に、東京都、大阪府、神奈川県、愛知県の空き家数の合計は、全国の空き家総数の約3割近くを占めるに至っている。一方の空き家率の多いワースト5の実数を足し合わせても、その数は全体のわずか6%に過ぎないのだ。
空き家問題を深刻にしているのは、メディアが好んで取り上げるような、地方で風雨にさらされ、幽霊屋敷のようになった家ばかりではなく、実は都市部に多く存在していることである。
都市部の空き家問題は戸建てだけではない。アパート・マンションの空き住戸がその中心を占めている 写真はイメージ/©︎yyama3270・123RF
空き家問題といえば、個人の住宅、代表的なもので親の実家などで代替わりができずに空き家化するといった家族間問題が議論になるケースが多いが、全体の空き家数に占める約半数が賃貸住宅の空き家である。18年の調査でも空き家全体の約848万戸のうち、賃貸用空き家は約432万戸、全体に占める割合は50.9%にも及んでいる。
空き家は戸建て住宅ばかりを想像しがちであるが、実は都市部の空き家は、今や国民の居住形態としてはごく一般的となったマンションの空き住戸やアパートの空き住戸がその中心を占める。
マンションは1950年代後半から世の中に登場し、すでに累計戸数で600万戸を超え、築年数で60年を迎えるマンションも出始めている。
東京都の空き家数は約80万9000戸であるが、このうちの約70%相当がマンションやアパートなど共同住宅の空き住戸だ。
賃貸用マンションの空き住戸の多くは、サラリーマンなどが投資用、あるいは節税用として取得した都心部のワンルームマンションである。
HOME’Sの集計によれば、賃貸住宅の空き家率は都心部である千代田区、中央区、目黒区、荒川区、豊島区などで高く、ワンルームマンション自体が、需要を見極めながら建設されることよりも、節税対策などを理由に建設されることから、次々と供給される節税用ワンルームマンションにより、競合が激しくなって、結果として空き家率が高まっている状態がみてとれる。
この記事を書いた人
株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役
1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。