横浜の「傾斜マンション」問題、報道されなかった事実(4/4ページ)
岩山健一
2016/08/12
もしこの事件が、作業員の勝手な判断で行なわれたものだったなら、とうにこの作業員は刑事告訴を受けているはずですし、マスコミがその情報を放っておくはずがありません。
にもかかわらず、そのような事実は報道されていません。そうであれば、もっと上の立場の人間の責任であると考えるのが自然で、それに該当するのが、三井住友建設の設計者であり工事監理者なのです。
一連の報道で、その立場に該当する人物についてはまったく報道されていませんが、情報公開によって概要書を取り寄せれば、この人物の氏名や建築士番号が明らかにされることになるでしょう。
いまでは新聞やテレビで、この「傾斜マンション」問題が話題になることはなくなってしまいましたが、報道によって責任の所在を明らかにしなければ、建設業界はよくならないというのが、私の考えです。
「パークシティLaLa横浜」の管理組合では、16年9月に総会を開き、全棟建て替えに同意する決議を行なうことを目指しているそうですが、すでに住戸を売って流出してしまう住民が増えており、できるだけ早い決定が望まれています。
しかも、全棟建て替えが正式に決まったとしても、工事が完了するまでには何年もの時間がかかります。その間、小・中学生の子どものいる家庭では転校を伴うような転居を強いられることもあるかもしれませんし、高齢者にとって仮住いの暮らしは非常に負担の大きいものです。
果たして、全棟建て替えが完了し、住人が再び安心な暮らしを取り戻すまでに、三井住友建設並びに旭化成建材は、社会に存在できているのでしょうか。そのことを考えただけでも悪寒が走るのは住人だけではないかもしれません。
この記事を書いた人
株式会社日本建築検査研究所 代表取締役
一級建築士 建築ジャーナリスト 大学で建築を学び、NHKの美術職を経て建築業界へ。建築業界のしがらみや慣習に疑問を感じ、建築検査によって欠陥住宅を洗い出すことに取り組む。1999年に創業し、事業をスタート。00年に法人化、株式会社日本建築検査研究所を設立。 消費者側の代弁者として現在まで2000件を超える紛争解決に携わっている。テレビ各社報道番組や特別番組、ラジオ等にも出演。新聞、雑誌での執筆活動も行なう。 著書にロングセラー『欠陥住宅をつかまない155の知恵』『欠陥住宅に負けない本』『偽装建築国家』などがある。