横浜の「傾斜マンション」問題、報道されなかった事実(3/4ページ)
岩山健一
2016/08/12
早期に全棟建て替えの方針が決まった裏側
「傾斜マンション」問題が報道されてから4カ月あまり、2016年2月には、三井不動産側から全棟建て替えを前提に補償内容が提示され、「パークシティLaLa横浜」の管理組合でも全棟建て替えを目指す方針が総会で決議されました。
傾いているのだから建て替えが当たり前と思われるかもしれませんが、実はマンション問題というのは往々にして長期化するものなのです。問題が発覚してから10年以上も解決しないままという事例はめずらしくありません。
では、なぜこんなに早く全棟建て替えの方針が決まったのか、その判断がなされたことには次のような裏事情があります。
まずひとつは、このマンションの1階の区分所有者が横浜市であったということがあげられます。
連日の報道で、横浜市が会見に応じたり、説明会に出たりと普通では考えられない対応をしている状況に、不自然さを感じていた人は多かったのではないでしょうか。その理由は、実は横浜市自体も当事者だったということなのです。
次にこの事件で、いちばん悪いのは誰かということです。
報道では杭打ちを施工した旭化成建材がいちばん悪いとされていましたが、実は三井住友建設の設計者、工事監理者の責任が最も重いと、追跡調査をしていた記者が指摘しています。旭化成が下請け業者を刑事告訴しなかったことからも、本当の責任がどこにあるのか、客観的に立証されるといえるでしょう。
また法律的に考えても、設計者・監理者の責任は最も重いものと判断されますので、最終的には三井住友建設が最も責任重大ということになるのが当然と考えられます。
責任の所在を問わなければ建設業界の体質は変わらない
一般的に建設現場では、末端の作業員が独自の判断で、特に杭の長さを変えるなどということはできないことになっていますし、作業員が実際にどれだけの権限を与えられているのかを考えれば、作業員が判断するなど、あり得ない話なのです。
この記事を書いた人
株式会社日本建築検査研究所 代表取締役
一級建築士 建築ジャーナリスト 大学で建築を学び、NHKの美術職を経て建築業界へ。建築業界のしがらみや慣習に疑問を感じ、建築検査によって欠陥住宅を洗い出すことに取り組む。1999年に創業し、事業をスタート。00年に法人化、株式会社日本建築検査研究所を設立。 消費者側の代弁者として現在まで2000件を超える紛争解決に携わっている。テレビ各社報道番組や特別番組、ラジオ等にも出演。新聞、雑誌での執筆活動も行なう。 著書にロングセラー『欠陥住宅をつかまない155の知恵』『欠陥住宅に負けない本』『偽装建築国家』などがある。