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仲介手数料は高いか安いか!?・・・不動産屋のホントの値打ち

南村 忠敬南村 忠敬

2023/02/23

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先日のこと。拙者の所属団体の会員さんから「媒介報酬に関する要望」というものが届いた。それによると、最近、東京都内に本店を置く不動産業者が、大手ポータルサイト運営会社3社に対し、それぞれが運営する不動産広告ポータルサイト上に、広告掲載不動産会社が独自に定める仲介手数料の基準や割引(値引き)に関する情報を掲載禁止としているポータルサイト側のルールは、公正な競争を阻害することになり、独禁法違反だとして公正取引委員会に対して申告したというもの。

それに対する公正取引員会の対応は不明だが、そのうちの1社が広告掲載ルールを変更し、これまで掲載不可としていた手数料に関する記述を一定の条件下で認めるよう規約を改正し、一般消費者への情報として物件情報に載せることを可能とする運用を開始するという。つまり、ある特定の物件広告において、広告掲載不動産会社は、「弊社の仲介手数料は〇〇万円です。」とか、「弊社は物件本体価格の1.1%消費税込み!」と表示することが可能となり、宅建業者の売買仲介に係る媒介報酬額の上限である「3%+6万円+消費税」を手数料の額としている他の事業者との差別化が図れることとなる。

そもそも不動産広告ポータルサイト運営側では、契約の相手方である不動産会社の個々の事情や、手数料額や率による他社との差別化という手法を許すことで契約者間のトラブルや軋轢を生み、不動産会社のポータルサイト離れなど副次的な影響も懸念してか、手数料に関する個別情報についてはタブーとして来た。

しかしながら、公正取引委員会に申告書を出したという不動産業者に言わせれば、宅建業者が受け取れる報酬の上限が3%+6万円と消費税なのであって、個々の事情や営業努力によって消費者利益に繋がる手数料の割引を実現しているのに、それを掲載させないことこそ消費者利益を阻害することに繋がっていると。

話の続きは、うちの会員さんがこれらのやり取りを知ってどのような要望を拙者のところに寄せてきたのか、ということだが、曰く「大手不動産会社や資金力に問題の無い業者は、これを機に手数料の値下げをしてくるだろう。しかし、自社のような零細企業で、物件の取り扱い価格も廉価なものが多い事業者は、3%+6万円でも十分ではないのに、これでは客を奪われ、やっていけなくなる!」と嘆く。う~ん、分からなくもない。では、何をどうして欲しいのかというと、報酬額の上限を定めた旧建設省の規定に下限を設定するよう、つまり手数料無し、とか、0円、とか極限まで値下げ合戦の構図を生まぬよう、歯止めになる改正を陳情して欲しいという。

宅建業者の報酬の変遷

不動産業者、宅建業者がまだ周旋屋とか口入屋と呼ばれていた頃、お客から頂く手間賃、手数料には一定の基準があったのだろうか?

一般的に「不動産」というと、土地と建物の総称若しくは土地及びその定着物という概念で一致するが、本邦の法律的区分はもう少し広範囲だ。例えば、立木法における登記された立木や、抵当権の目的となる財団、運河(財団)は不動産と看做される。また、不動産に準じて扱われるものとしては、漁業権や採掘権、公共施設運営権、ダム使用権などがある。一方、固定資産と不動産は似て非なるものであり、イコールではない(会計上の区分で同一形態で継続して事業に供される有形・無形の財産及びその他の投資を固定資産と言い、貸借対照表上は固定資産、流動資産、繰延資産と区分される)。

我が国において不動産という言葉は、明治29年成立公布の民法第86条に「土地及ヒ其定著物ハ之ヲ不動産トス」として初めて登場する。

中世、江戸時代初期、徳川幕府が田畑永代売買禁止令(寛永20年1643年)発布後は、農地の売買が出来なくなり、当時は武家地(所領)と寺社地及び農地で国土の殆どが占められていたことから、土地の流通という制度も概念も生まれる余地は無かっただろう。その後太平の世が訪れ、商業の発達とともに市街地(特に江戸や大坂堺などの大都市)において豪商と呼ばれるような富裕層の商人間で事業用地などの売買取引が行われるようになる。当然、売り手と買い手を繋ぐ情報の流通の必要性が生じるから、今で言う「仲介」の役割を業とする人たちが登場する。所謂口入屋と呼ばれる人たちの手数料には基準などなく、情報の希少性の度合いによって仲介者の言い値で成立していたようである。つまり、仲介労役の対価というよりは、情報の価値価格と言えるだろう。これは推測だが、今昔変わらず、ビジネスの世界に競争は付き物で、口入屋同士が同じ情報を扱うシーンを想定すれば、手数料の値引きをしてでも自分のところで話を纏めたいと思うだろう。現在のような報酬に法的な規制の無い時代、同業者間でそもそも手数料率に差が有ったかも知れないが、客は最も有利な条件で契約したいと考えれば、複数の口入屋を比較するのも当然だからである。

さて、一般庶民が不動産(主に土地)を自由に売買出来るようになるのは、それから200年ほど経った明治5年(1872年)太政官布告第50号(田畑永代売買禁止の解除)の発令による。

そして、不動産業者に支払う手数料に一定の基準を制したのは、主に大都市圏を抱える府県地域でそれぞれを管轄する警察による管理規制(東京府の例:警視庁紹介営業規則)がなされていた戦前(昭和初期~)の頃で、物件価格の4%~6%(価格帯による区分)を売主買主双方から受けることが可能であった。戦後、連合国統治下においてGHQからアメリカ方式への転換(売主一方から6%限度)を不動産業界に対して指導したが、双方代理の特例として根付いていた商習慣を覆すことは混乱を招きかねないとして導入を見送った経緯がある。昭和27年の宅地建物取引業法制定に至ってもそこは変わらず、手数料基準は依然都道府県知事の裁量に委ねられていたが、戦後復興と近代化が進む高度成長期に在って、不動産の高騰が社会問題化する中で宅建業法が改正され、ようやく全国一律の手数料率(報酬基準)が建設省告示という形で通知され、現在に至っている。

仲介業者の仕事=重要事項の調査説明と契約内容の提案精査

先ずお断りしておくが、ここで紹介する宅建業者の業務(不動産屋さんの仕事)は、普通にまじめにちゃんとしている業者の話である。

中古住宅の一般的な不動産仲介の業務はざっと次のような経過を辿る。

  1. 売主さんから物件の売却依頼を受ける(前提には売り物件を募集するための広範囲な広告活動や無料相談会、空き家調査などを随時行っている)
  2. 売却相談(売主の属性や希望に応じた売却方法の提案と基本事項の説明)
  3. 物件調査(現地調査、近隣周辺調査、役所調査、権利関係調査、瑕疵調査など)
  4. 価格査定と媒介契約(査定業務、媒介契約書作成業務、必要書類請求など)
  5. 媒介契約締結(査定報告書説明、媒介契約内容説明、販売方法打ち合わせなど)
  6. 販売活動と物件管理(広告媒体掲載、レインズ登録報告、チラシ等作成、空き家の場合は鍵を預かり定期的に管理し、不具合などの箇所も確認報告)
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  7. 買主案内と交渉業務(現地案内、オープンハウス、現地説明、条件交渉など)
  8. 購入希望と条件交渉(売主への報告と条件交渉、すり合わせ、取引内容調整など)
  9. 重要事項調査及び書面作成(再度役所関係調査、現地調査、近隣調査、契約内容精査と特約の起案、双方への内容確認、売主の告知内容調査、設備調査確認、重要事項説明書及び法37条書面兼売買契約書案作成⇒双方への事前確認)
  10. 売買契約(買主への重要事項説明と書面交付、双方への契約書案の説明、契約締結補助業務など)
  11. 買主住宅ローンの紹介斡旋(金融機関への打診と物件説明、申込と金消契約立会、決済場所手配など)
  12. 代金決済引き渡し・登記(決済明細準備、領収書手配、金種手配、司法書士手配、必要書類手配、金融機関最終打ち合わせ、決済引き渡し立会)

※以上に付随して発生する業務やイレギュラー事案の対応、境界確定業務の依頼と近隣調整や立会、時には説明・交渉業務も必要となる。

これら全ての業務を遂行するのにかかる直接経費は勿論、各種証明書などの請求にも実費は当然、人件費や事務費など間接経費も掛かっている。

さて、この中古住宅の価格が2000万円だったとすると、報酬の上限は税抜き66万円を双方から受領可能となるが、販売活動に掛かった時間と経費は比例的に増幅し、それらを差し引いてなお税引き前の実質利益となる。零細不動産会社と言えども企業であるから会計的には大会社と理屈は同じだ。薄利多売が出来る商品ではない不動産では、この1件々が命を繋ぐ収入そのもので、途中でひっくり返れば、よほどの理由がない限り1円のお金にもならないどころか、大赤字のくたびれ損で終わる。前述した告示の第九には、「(この)規定によらない報酬の受領の禁止」が謳われており、これが不動産屋さんの宿命。

手数料は高いか安いか

まあ、この問いに対する答えは何も不動産に限らず、どんな商品や取引でも同じで、支払う方は少しでも安く、貰う方はその反対というのが心情というもの。あとは対価の根拠である「労役≒働き」の濃淡によって印象が変わるだけ。1億円の土地を電話1本で決められる時もあれば、1000万円にも満たない中古マンションに1年近くも引っ張られることだって当然ある。拙者の会社では、価格の高低に囚われる仕事のやり方ではなく、常に必要且つ十分な調査と顧客満足を追求するスタンダードを心掛けるようにしている。それでも、営業マンからすれば、「これだけ手間暇掛けて、この手数料(涙)」と嘆く気持ちもわからないではないが、嘆くなかれ!不動産屋を長く続けていれば、必ず一つや二つ、ホクホクの仕事に巡り会えるものだ。但し、その巡り合わせの確率は、日々どんな仕事にも優劣を付けずに誠心誠意向き合っている営業マンの方が格段に上がる。それは真実だ。

他所の不動産屋は2%でしてくれる!などと言われても怯むな。それだけのことはきっちりやっている自負を持つことがプロなのだから。

建設省が告示を通達した昭和45年頃と言えば、高度成長期を経て国民が総中流意識を持ち始めたころだ。大阪万博が千里で開催されることが決まった頃、広大な山林竹藪だった会場周辺の土地は10倍とも100倍とも言われるほど高騰し、大儲けした関西の不動産屋さんも居たはず。当時を知る老舗の業者は、「随分昔に建設省の役人と話したことがおますねんけど、当時は不動産の価格は右肩上がりで、土地神話っちゅうもんの上に成り立ってるわけでっさかいに、『不動産業者には申し分ない規定ですわ』って偉そぶってましたな。今思えば確かにそのころの不動産屋さんの業務内容も、現在ほど法的な制約や重要事項の調査も頻雑やない。消費者も重箱の隅をつつくような世相もなかったし、楽に商売して濡れ手に粟のような業種やった」と。しかし、バブル経済崩壊後辺りから経済のシステムや消費者意識の変化、インターネットの普及と情報の開示、行政の変革・・・と立て続けに世の中が急速に変化して、超長期間に亘るデフレは報酬上限を定められた業界には泣きっ面にハチ、弱り目に祟り目で、バブル期から20年、不動産屋の数は約2万社強も減少した。

「とにかく価格が下がってるのに、どんどん法律が改正されて不動産業者に重要事項の調査範囲を広げるだけ広げてきよる。物価は上って登記簿謄本もあっというまに1,000円に値上げされ(現在600円、ネット申請なら480円)、マンション管理業者も調査報告書なる書類を出すのに3,000円とか5,000円(今では1万円前後)とかいいよる。掛かる経費はどんどん上るし、手間は掛かるし、それでも3%+6万円。そこに追い討ちを掛けるような消費者の知ったかぶりや。『不動産屋さんの報酬って上限額でしょ!?まけてくれない?』だと。経済の悪化は長引いてるから取引そのものが少ないご時世や。泣く泣く手数料を値引きせなならん」(前掲業者)。

しかし、だ。そもそも今まで上限手数料を当然のように請求してきた不動産屋さんは、報酬算定を積算方式ではなく、減額方式で捉えているから値引きという概念が生まれるのも当然。だったら、不動産の価格は別にして、業務に関する報酬算定の自主基準を弁護士や司法書士のように定めておけば、値引き交渉なんかに泣く必要も無いのかもしれない。すなわち、重要事項の説明書類作成業務が幾ら、現地立会、案内業務として幾ら、間接経費がナンボで実費がコンだけっていうような具合に積算して、それが上限を超えないようにすれば良い。それが、取れるだけ取るやり方を野放しにしてきたから、そのツケが回ってきたのだ。

報酬制限の撤廃に未来はあるか?

報酬基準の見直し的な議論を行政に持ち込んでも、なかなか相手にされないのは、好景気に転じた時にまた報酬規定を触らないと駄目になるようなことを国が認めるわけないでしょ!?3%+6万円を5%にしろとか、賃貸報酬を最高、賃料の3ヶ月迄取れるようにしろとか色々言ってるみたいだけど、絶対に無理だと思う。

拙者なら、業界自らが自主的に報酬算定基準を定め、業者に遵守させることと引き換えに、告示基準の撤廃を求める。所謂手数料の完全自由化だ。その代わり、個々の業者は消費者に納得のいく説明と報酬に応じた労役の提供がなければ金は貰えない。これが一番健全な報酬形態だし、不動産業者の業務を理解してもらえる。業界の地位向上にも繋がるし、いい加減な業者は淘汰される。手間が一緒でも報酬に格段の差が出る「価格基準」方式よりも納得がいく、正に身を切る改革と言えよう。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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