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「犬神家の一族」の相続相談(6)―― 一般社団法人を活用して財産を公平・中立に長く守る方法(3/3ページ)

谷口 亨谷口 亨

2021/06/07

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相続を円満にするために必要なこととは?

佐兵衛の人となり、犬神家の家族構成、複雑な遺言状から、犬神家で事件が起きないような相続案を6回にわたってお話ししてきました。

そもそも『犬神家の一族』は小説ですから、事件が起きなければおもしろくはありません。本来は、このような架空の、しかも戦後直後の話に対して、いまの法体系に合わせた遺産相続を考えるというのも無茶な話かもしれません。

しかし、実際の相続の現場では、えっと思えることが起こるのも事実なのです。

相続の相談を受けていて感じるのは、相続人への「愛」(子を思う親の無償の愛)が足りないと争いが起こるということです。

この佐兵衛翁の遺言状を見ても、佐兵衛翁の珠世さんへの思いの強さを感じますが、三人のいずれかと結婚をしなければ相続できないわけですから、これは結婚を強要しているともいえます。しかも、三人の孫を競い合わせるための、対象とさえされています。

このように佐兵衛翁の遺言状からは、一番大事にしていると思える珠世さんに対してすら、その愛に疑問を感じます。

相続で揉める遺言状の共通点は、被相続人が一方的に「何を誰に相続させる」と記しているということです。つまり、被相続人の思いだけなのです。

忘れていけないのは、相続が行われる現場には被相続人(遺言状を書いた人)はいないということです。実は、このあたり前のことが忘れ去られた一方通行的な遺言状が多いのです。

しかし、被相続人の思いだけを押しつけられた遺言状を遺された相続人からすれば、不満があっても、それを伝えたい被相続人はそこにいません。そのためその不満は他の相続人に向けられ、それがトラブルの原因になるのだと思います。

遺言状を遺すのであれば、「何を誰に相続させる」ということだけなく、「なぜそれをその人に相続させるのか」という理由を記すだけでも相続争いを減らすことにつながると思うのです。

自分が亡き後、大切な家族がもめないように遺産を整理しておくことは、「愛」であり、「思いやり」です。この『犬神家の一族』という小説の面白さは、その佐兵衛翁の「愛」や「思い」がどう屈折したものになったのか、その謎を探偵の金田一耕助が解き明かしていくところにあるのではないではないかと思います。

そんな犬神家の遺産相続は、どんな敏腕弁護士であっても、もしかしたら解決できないのかもしれません──。
(『犬神家の一族』の相続トラブルを解決! おわり)


Prime Video 犬神家の一族(1976)

「犬神家の一族」の相続相談(1)――臨終の席で明らかにされた遺言状の衝撃
「犬神家の一族」の相続相談(2)――複雑な家族関係に込められた犬神佐兵衛の思い
「犬神家の一族」の相続相談(3)―― 一族を震撼させた犬神佐兵衛の遺言状
「犬神家の一族」の相続相談(4) ――「信託」を使えば犬神家で起こる事件を防げるか
「犬神家の一族」の相続相談(5)――いかに遺留分を放棄させるか

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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