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「犬神家の一族」の相続相談(6)―― 一般社団法人を活用して財産を公平・中立に長く守る方法(2/3ページ)

谷口 亨谷口 亨

2021/06/07

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一般社団法人を使えば、相続のバリエーションが豊かになる

では、どのような信託契約にすべきか。一般社団法人化した犬神奉公会を受託者にしたオーソドックスな遺言信託のスキームは次のようになります。

はじめに佐兵衛翁を委託者、受益者とし、「一般社団法人犬神奉公会」を受託者とした信託契約を結びます。そのうえで佐兵衛翁が亡くなったあとは、遺言状にある条件の通りに珠世さん、佐清くん、佐武くん、佐智くん、青沼静馬くん、そして犬神奉公会が遺贈を受けるような信託契約を締結するわけです。

こうした信託契約では、佐兵衛翁の遺産の名義は犬神奉公会に移りますが、それに際しては譲渡税などかかりません。犬神奉公会はあくまでも佐兵衛翁の財産管理を行うだけです。しかし、佐兵衛翁が亡くなった場合は、その相続財産はいったん犬神家から離れるため、長期にわたって犬神奉公会が佐兵衛翁の財産を管理、保全することができます。

さらに
<犬神家の全財産、ならびに全事業の相続権を意味する、犬神家の三種の家宝、斧、琴、菊は……野々宮珠世に譲られるものとす>
からはじまる、複雑な佐兵衛翁の遺言状に書かれた内容を実行しやすく、さまざまなバリエーションを持たせることもできます。

加えて相続税の申告期限の問題があります。ご存じの方も多いと思いますが、相続税の申告期限は、被相続人が亡くなってから10カ月以内にしなくてはなりません。

しかし、犬神家の相続では、佐兵衛翁の遺言状が開封されるのは「佐清くんの復員後。あるいは佐兵衛翁の一周忌を期して」とされていました。加えて、相続が確定するまでは犬神家の事業、財産管理は犬神奉公会が代行するとされており、この点からも犬神奉公会を一般社団法人化し、信託契約の受託者にすることは理にかなっています。

このため相続財産を犬神奉公会に移し、相続税の申告を確定させるというのが現実的といえるでしょう。

法人の場合、10カ月以内に誰が管理者、受託者、受益者になるのかなどを決定して申告すればいいので、10カ月以降に変化があれば、そのときに修正することも可能です。

特殊な犬神家の相続での法人活用のポイント

しかし、このオーソドックスな信託契約では問題もあります。まず、一般社団法人のトップである理事長を誰にするかという問題です。何しろ佐兵衛翁の莫大な遺産を預かる組織ですから、そのトップをめぐってはトラブルが起きかねません。そこで私が提案したいのは、

「一般社団法人犬神奉公会に全財産の管理を任せ、理事長は野々宮珠世とす」

佐兵衛翁にはこうした内容の遺言状だけを遺してもらうということです。

やはり佐兵衛翁の財産を預かる犬神奉公会のトップは佐兵衛翁がもっとも信頼する珠世さんになってもらうのが一番いいでしょう。

そして、佐兵衛翁が亡くなったあとは犬神奉公会のトップになった珠世さんが佐清くん、佐武くん、佐智くんのいずれかと結婚すればそのまま相続すればいいですし、しないのであれば犬神奉公会のトップとして信託契約にそって、珠世さんに相続を進めてもらいます。

犬神奉公会にとっても佐兵衛翁が信頼している珠世さんにトップになってもらうことで、オーナー一族である犬神家に対する防波堤になり安心できるはずです。一方、珠世さんも三人の誰とも結婚しなければ、何も相続できなくなりますが、犬神奉公会のトップになれば、遺産の一部が奉公会に入ってくることになります。両社にとってはウィンウィンな関係になります。

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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