ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

オルタナティブを持つのは“逃げ”じゃない

週末田舎暮らしが解消する!? 都会の一途な暮らしの生きづらさ(5/5ページ)

馬場未織馬場未織

2017/09/14

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

複数の拠点をもつことの健やかさ


(c) L.tom – Fotolia

それでは、暮らしの拠点を複数持つ“二地域居住”は、どうでしょう。

わたし自身にとってはごく自然なライフスタイルですが、言ってみればまだまだ世間的には「別荘とどう違うのかわかりませんけど…」といった程度の認知度だと思われます。

ふたつも拠点を持つ必要なんて、特にないよな、一カ所で十分だよな、と。

ただ、暮らす場所を二カ所持つことの“健やかさ”は、こうしたほかの事例からも十分推察できることだと、わたしは思います。

ひとところの常識や関係性しかない状態に身を置くと、それが健全か不健全かを確認することすらできません。まさに、学校に行く子どもたちと同じですね。そこが合っていればいいけれど、合わなかった場合、自分を責めたり、膨大なストレスを溜めたりすることになる。

「公園デビュー」についてのあれこれが、ママ雑誌にたくさん書かれているのも、追い詰められた日常の表れではないかと考えられます。

その場所に根ざした悩みは、物理的に距離を置くことで冷静に見つめることができるものです。ママ友の一挙手一投足が人生のすべてになる前に、「まあ、そういう人もいるよね」と思えるゆとりを持って応じることができれば、クオリティオブライフは格段に違ってきますよね。

(おすすめ記事)
二地域居住のお役立ちスキル、「共存力」を高める2つの知恵

日々のマルチタスクがうまくコントロールできるようになる

また、どちらかというと問題ばかりが目の前に積み上がっていくように見える日常のなかに、実はとてもキラキラした部分があるよ、ということに気づけるときもあります。

ひとところに骨を埋める一途さが見られないと「地域への愛情が薄いんじゃないの?」と思われがちですが、暮らす場所を二カ所持つことで、実は、見失いがちな「よいところ」を常に感じて、魅了され続けることができるとも言えるのです。

さらに、“複数の拠点を持った暮らしづくり”とは、すなわち“システムづくり”だと言うことができます。エンドレスに続く日常を、区切り、切り替え、あっちの拠点とこっちの拠点の暮らしを同時に回していく、というシステムです。

このシステムは実はとても便利なもので、同様の考え方で日々のマルチタスクがうまくコントロールできるようにもなります。

暮らしのなかにごっちゃに押し込められていたタスクに優先順位をつけて整理できるようになり、本当に必要なモノやコトや関係は残っていき、不必要なものは必然的に消滅していきます。

それは、フリーアドレスのオフィスを利用する時の身支度にも似ているかもしれません。軽やかさを確保するために、もやっとした荷物を減らす努力をするわけです。

一途な姿勢で、幸せに暮らしをまっとうできれば、それがベストかもしれませんね。

ただ、まっとうできる確率は、どれほどあるでしょうか。

オルタナティブを持つことは“逃げ”でも“ずるいこと”でもありません。個人や組織を健やかに存続させるために必要なリスクヘッジ、または換気システムです。あってもなくてもいいものというより、「あるべき」だと考えます。

(おすすめ記事)
田舎暮らしの人間関係、温かくて心地いい? それともめんどくさい?
きちんと知れば怖くない。田舎で虫と共存する方法
理想の田舎暮らしが見つかる! 移住体験ツアー・イベントの賢い活用法

 

 

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

ページのトップへ

ウチコミ!