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オルタナティブを持つのは“逃げ”じゃない

週末田舎暮らしが解消する!? 都会の一途な暮らしの生きづらさ(3/5ページ)

馬場未織馬場未織

2017/09/14

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<ケース2>店主がいなくなったら、続けられない店

家庭ならまだしも、たとえば店舗運営などを考えると、システムづくりは店の存亡に関わるものだと言えることがあります。

この夏、わが家に馴染みのある八ヶ岳方面に旅行に行きました。

登山を楽しむ合間に、「八ヶ岳といえばここだよね」という好きなお店を訪れ、小さな宿に泊まりました。

宿泊は、夫婦ふたりでやっているペンション。

昔ながらの山小屋スタイルで、朝夕食も丁寧に手づくりされたもの。奇をてらったおもてなしはありませんが、長いことやってきて安定しているスタイルは旅行者にとっては心休まるものです。ほとんど宣伝はしていないにもかかわらず、いい時期ということもあり、客室は満室でした。

ご主人はもうすぐ70歳といったところで、「体が動かなくなるまでこのペンションを続けたいもんですねえ」と言っておられました。その後はきっと、土地建物を売却するなどして引退するのでしょう。建物の雰囲気もよく、実に居心地のいいペンションなのに、と心寂しく思わずにはいられませんでした。

<ケース3>店主がいなくなっても、続く店

八ヶ岳からの帰り道に食べたカレー屋さんは、1978年創業という歴史あるお店でした。

独特の世界観をもつこのお店はいつも長蛇の列。それを知っていたわたしたちは、17時開店前から並んで、するりと入ることができ、懐かしさにぐるっと店内を見渡すと、数年前とまったく変わらないインテリアでほっとしました。変わらないものがあるって、嬉しいものだな、と。

ただ、いつもホールに顔を見せていた高齢の名物店主の姿がありません。ホールの女性に「今日は、オーナーはどうされましたか?」と聞くと、「それが、一昨年亡くなったんですよ」とのこと。

なんと、そうなんですか……と、悪い予感が当たってしまったことにしばし沈黙。

それでもこのお店は、店主不在を感じさせない強さがありました。

ひょっとしたら味が変わってしまったかなと思いきや、「これだ。この味が食べたかったんだ」と思わず目をつぶる美味な欧風カレーのまま。遠路ここまで食べにくる価値があるお店だなあと、改めて心惹かれた次第です。 

店主の趣味を反映させた、いや、趣味そのもののお店なのに、そこには店が引き継がれていく大きな流れができていて、これからも八ヶ岳に来たらここに寄れるね、と安心しました。おそらく店主が元気なうちから、レシピや店の哲学が従業員と共有されていくプロセスがあったのでしょう。

店主の一代限りで終わり、というのも潔い形かもしれませんが、実はそれは、客本意な考え方ではありません。店のファンにとっては、その店がなくなることほど悲しいことはありませんから。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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