10年で900時間!週末田舎暮らしの移動時間に価値はあるのか(1/2ページ)
馬場未織
2016/04/08
往復時間はバカにならない
東京と、南房総。
わたしはこのふたつの地域にある家と家の間を、けっこうな頻度で往復しています。
通算どれくらいになったんだろう。10年間で、300往復くらいになるかな。
“南房総”という土地に家を持とうと決めた要因のひとつには、移動時間の短さがありました。中学、高校時代の電車通学にだいたい片道1時間半かかっていましたし、都内にある実家に行こうとしても軽く1時間はかかるので、1時間半でがらりと環境が変わる場所に行けるのであれば、まあいいかなと納得することができました。
とはいえ、トータルで考えると、移動のためにけっこうな時間を費やしているんですよね。
計算すると、
片道1.5時間×2×300往復=900時間。
ということは37.5日。
10年間で丸1カ月以上、二地域居住のための移動をしているということになる!
これは、この暮らし方をしなければ、まったく発生していなかった時間ともいえます。無駄といえば、無駄。移動時間を減らして人生を変えよう、ということで「職住近接」が改めて注目されている昨今、二地域居住における往復のための時間は、気になるかもしれませんよね。
よく、「移動が大変ではないですか?」といった質問をいただくので、改めてその実態について考えてみます。
疲れる移動、疲れない移動
移動の大変さは、単純に時間の長さだけではない。
そう思う経験は、ありませんか?
たとえば、知らない土地に行くために、地図を見ながら目的地を探し探し行くのは割りと骨の折れることですよね。ちゃんと到達できるかなという緊張感を伴いますから。でも、よく知る土地に行く場合は、ほとんど無意識で到達できるため、あまり消耗しません。
わたしが南房総に行くときも、目をつぶってでも運転できるという感じですので、みなさんが想像するほどの疲労感はないように思います。東京湾アクアラインや館山自動車道などは、ほとんど渡り廊下です。
また、大抵わたしたちが移動時間に充てているのは渋滞のない夜の時間帯が多いので、視界に入る情報量が少ないことで心が安らぐ、という感覚もあります。街あかりもない田舎の道は、ヘッドライトで照らさなければ真っ暗です。昼も夜も明るい都市空間とは違う静かな風景のなかを走っている時間自体も、平日の疲れが癒されていくプロセスの一部になっている気がします。
そういえば、二地域居住の土地探しの時点では、神奈川方面、山梨方面なども探していました。距離としては南房総と同じくらい離れているエリアをターゲットに探していたのですが、毎度の激しい渋滞に疲労困憊したという記憶があります。
幸か不幸か、房総半島はそれほど有名な観光スポットではなかったため、気楽に移動できたというのは大きな魅力でした。ところが最近はどうやら房総ブーム到来のようで、以前よりも渋滞時間帯が拡大しています。房総の魅力に気付いてもらってうれしい!という気持ちが半分、いままでみたいな静かで長閑な場所であり続けてほしい…という気持ちが半分です。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。