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まちと住まいの空間 第16回【ブラタモリ/白金編その2】

旧朝香宮邸から読み取る白金が高級住宅地になった理由(5/5ページ)

岡本哲志岡本哲志

2019/12/04

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ブラタモリでは放送されなかった旧朝香宮邸のもう一つの危機


写真7、庭園から見る首都高速道路

実は、もう一つ危機として、旧朝香宮邸の庭園から首都高速道路を確認するシーンが撮影されていた。こちらは、放送されていない。庭園の一部を削ってつくられた首都高速道路は、木に覆われて見えづらい。そのような映像ではインパクトがなかったことが放送までに至らなかった(写真7)。

しかも、タモリさんのリアクションは芳しくなかった。むしろ、中途半端に終わっている道路と、歩道が途中で消えてしまっているシーンのほうがテレビを見ている人たちには印象に残る映像だったし、タモリさんのリアクションも大変よかった。同じ内容の危機のシーンを2つも入れる必要がないと判断したのだろう。あえなく、庭園でトークした映像はカットされた。

番組ではまったく取り上げられる気配もなかった板谷敏彦さんの話に、私は大変ショックを受けたこともあった。

東京都庭園美術館(1983年一般公開)の価値を評価するものとして、建物、庭園はさることながら、建物内の家具、調度品の素晴らしさがある。その家具が東京都に引き渡される時、建物内の家具・調度品一切を引き取らない条件だったという。当時、東京都が美術館として運営する上で、家具・調度品が邪魔だったと想像される。それは、「庭園美術館」の名称からも感じられる。日本庭園と展示する美術品を飾る器(建物)があればよかったようだ。

その後、家具・調度品の価値に気付き、買い戻している。買い戻しを地道に行なってきた結果、現在の庭園美術館の評価に活きている。建物と当時使われていた家具があってこそ、文化財としての価値を高める。それを実証した先例が東京都庭園美術館であった。現段階ですべて買い戻したわけではないと、板谷さんはいう。これに関しては、旧朝香宮邸の危機を回避する途上にあるといえよう。

次回は白金が高級住宅地になった条件の「高台」と「治安」を取り上げていく

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この記事を書いた人

岡本哲志都市建築研究所 主宰

岡本哲志都市建築研究所 主宰。都市形成史家。1952年東京都生まれ。博士(工学)。2011年都市住宅学会賞著作賞受賞。法政大学教授、九段観光ビジネス専門学校校長を経て現職。日本各地の土地と水辺空間の調査研究を長年行ってきた。なかでも銀座、丸の内、日本橋など東京の都市形成史の調査研究を行っている。また、NHK『ブラタモリ』に出演、案内人を8回務めた。近著に『銀座を歩く 四百年の歴史体験』(講談社文庫/2017年)、『川と掘割“20の跡”を辿る江戸東京歴史散歩』(PHP新書/2017年)、『江戸→TOKYOなりたちの教科書1、2、3、4』(淡交社/2017年・2018年・2019年)、『地形から読みとく都市デザイン』(学芸出版社/2019年)がある。

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