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まちと住まいの空間 第16回【ブラタモリ/白金編その2】

旧朝香宮邸から読み取る白金が高級住宅地になった理由(3/5ページ)

岡本哲志岡本哲志

2019/12/04

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東京都庭園美術館の見どころと豪邸を襲った危機


写真3、東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)の正面ファサード

東京都庭園美術館での案内役は、学芸員の板谷敏彦さんだった。板谷さんは江戸東京博物館の準備段階で関係した学芸員の方で、ここでばったりと会った。江戸東京博物館の立ち上げ準備は30年以上も前のこと。庭園美術館で会うとは想像もしていなかった。

下見で訪れた時、庭園美術館を熟知した彼との会話は面白かった。30年以上の隔たりはともかく、わかること、わからないことを精査して答えてくれたことはうれしかった。ここにはもう何度も訪れているが、新鮮な気持ちでの新たな発見があった。板谷さんの案内を参考に、東京都庭園美術館をブラ歩きすることにしよう(写真3)。


写真4、玄関前に置かれた唐獅子

建物の外観、内観、そして家具と装飾はほぼ全てをアールデコの様式でまとめている。明治期から大正期に見られた和洋折衷の建物ではない。ただ、驚いたことに玄関に入る前にいきなり唐獅子が2体両側に置かれている(写真4)。

タモリさんもすかさずリアクション。アールデコをこよなく愛した鳩彦親王だけに出鼻を挫かれる。旧朝香宮邸はアールデコ一色ではない。小食堂には床の間らしき設えがされているし、妃殿下寝室には和風の建具が設けられてもいる。旧朝香宮邸には所々に和風のテーストも埋め込まれている。


写真5、ガラスの玄関ドアと石のモザイク床

旧朝香宮邸の正面玄関に入ると、目の前にルネ・ラリックの立体的なガラスの玄関ドアがある。その意匠は誰しも目を引く(写真5)。板谷さん曰く、中央の二枚のガラスは割れてしまい、オリジナルではないとのこと。オリジナルは両サイドの2枚だけ。少しくすんで注目されないが、よく見ると両サイドの方がやはりデザイン性が高い。一つひとつの細部をじっくり見ていかなければ、この建物の奥深さに触れることができない。

玄関ドアのガラス意匠に見とれていると、足元を見て下さいと板谷さん。タイルにしては輝きを失われていない。聞くと、すべて自然石がはめ込まれているとのこと。美しいモザイク模様を描きだすために、計り知れない労力と金がつぎ込まれていると知る。すでに玄関で本物を使う贅の限りに圧倒される。見所満載の旧朝香宮邸だけに、ロケで収録した画像をどう選択して絞り込むか。番組のスタッフは相当苦労したと思われる。

収録後、各シーンが番組放送まで生き残る最後の決め手は、タモリさんのリアクションの良さと、番組のキーワードである「存続の危機」をうまく伝えられる映像だったのではないかと思われる。

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この記事を書いた人

岡本哲志都市建築研究所 主宰

岡本哲志都市建築研究所 主宰。都市形成史家。1952年東京都生まれ。博士(工学)。2011年都市住宅学会賞著作賞受賞。法政大学教授、九段観光ビジネス専門学校校長を経て現職。日本各地の土地と水辺空間の調査研究を長年行ってきた。なかでも銀座、丸の内、日本橋など東京の都市形成史の調査研究を行っている。また、NHK『ブラタモリ』に出演、案内人を8回務めた。近著に『銀座を歩く 四百年の歴史体験』(講談社文庫/2017年)、『川と掘割“20の跡”を辿る江戸東京歴史散歩』(PHP新書/2017年)、『江戸→TOKYOなりたちの教科書1、2、3、4』(淡交社/2017年・2018年・2019年)、『地形から読みとく都市デザイン』(学芸出版社/2019年)がある。

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