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借主が亡くなった場合、貸主としてどう対処する? ――賃借人の死亡 その1 相続(1/2ページ)

森田雅也森田雅也

2021/04/15

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イメージ/©bearbakerstreet・123RF

賃貸人から数多くの相談が寄せられますが、そのなかでも「賃借人が亡くなってしまった。このような場合に賃貸人としてはどう対応したらいいのか?」といった相談を受けることがあります。

このような場合にどうすればいいのか、具体的な事例を踏まえてご紹介します。

契約終了? 契約存続?

賃借人が亡くなった場合、賃貸借契約は当然に終了となるのでしょうか。それとも契約は存続するのでしょうか。

結論からいうと、賃借人が亡くなったとしても賃貸借契約は存続します。賃借人が死亡したのに賃貸借契約が存続するのはおかしいのではないかと思われた方もいるかもしれません。

しかし民法上、賃借人の死亡は賃貸借契約の終了事由になっておらず、賃借権という権利は相続の対象になります。具体的には、賃借人たる地位は賃借人の死亡により当然に相続人に移転することになり、相続人が複数いる場合には相続人らが共同賃借人となります。つまり、賃借人が亡くなったとしても賃貸借契約は当然に終了することにはならないのです。

これに対して、賃料の支払いがない使用貸借契約の場合(例えば、親族間で物件を無償で貸している場合など)には、民法上、借主の死亡が使用貸借契約の終了事由となっていますので(民法597条3項)、借主の死亡によって使用貸借契約は当然に終了することになります。

このように物件を使用収益するという契約であっても、賃貸借契約と使用貸借契約とでは、賃借人が死亡した場合の取り扱いが異なります。

賃借人が死亡した場合の賃料請求

では賃借人が亡くなった場合、賃料を誰にいくら請求することができるのでしょうか。ここでは、賃借人に妻及び子2人がいた場合を例にとって検討します。

■賃借人死亡前にすでに未払賃料が発生していた場合

賃借人が賃料滞納後に死亡した場合、その債務は可分債務(民法427条)となり、相続人らはそれぞれの法定相続分に従って債務を負担することになります。

例えば、賃料滞納額が20万円だった場合を考えます。相続人らの法定相続分は、妻が2分の1、子2人が各4分の1ずつとなります(民法900条1号)。したがって、賃貸人は妻に対して10万円、子2人に対し各5万円ずつ請求することができます。

つまり、賃貸人が相続人の一人に対して全額の請求をすることは法律上認められていないのです。

■賃借人死亡後に未払賃料が発生した場合

不動産賃借権は不可分(民法430条)であるため、その対価である賃料債務も性質上不可分なものとして、各相続人は賃貸人に対し、それぞれ賃料全額の支払義務を負うことになります(大審院判決大正11年11月24日)。

先ほどの具体例に当てはめると、賃貸人は、妻及び子2人のいずれに対しても20万円全額の請求をすることができます。ただし相続人の一人から弁済があった場合には、その効果は他の相続人にも及びますので、あくまでも20万円を上限として請求することができるだけですので注意してください。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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